7話 ヒロイン=チートは常識
聖女召喚の儀式を行い1ヶ月が過ぎた頃───
城で保護された少女は、着実に聖女としての頭角を現し始めていた。
「流石、聖女様。素晴らしいお力です」
「もぉ、聖女なんて堅苦しい呼び名で呼ばないでっ!私には桜って名前があるんだからっ! 」
取り巻きの言葉に、少女、桜は頬をぷくっと膨らませてふて腐れた。
桜は、少女が異世界へと召喚されたおりに新たに自分に付けた名だ。
少女は女神に自分の大好きな乙女ゲームのヒロインと同じ容姿を要求したので、そのヒロインの名前をそのまま名乗った。
華奢な体躯に、桜色のサラサラロングヘアー。
目は大きく、唇は赤く艶々だ。
文句なしの美少女。
この乙女ゲームのヒロインの姿は、少女にとって憧れであった。
私、超可愛いっ!
男達は皆私の美貌にみとれて、愛を囁いてくるし!
まぁ、モブには興味ないけどねっ!!
やっぱ、私に釣り合うようなイケメンじゃないとっ!
「では、桜様、と……」
少し照れたようにはにかんで笑うのは、キレイ系の中性的な美少年。
取り巻きの中で、5番目位に桜が気に入っている少年だ。
私的にはもうちょっと男らしい方が好みなのよねぇー。
まぁ、他のハーレム要因とジャンル被ってないし、この城の中でもトップの顔面偏差値だからいいんだけど。
「もぉうっ! 固い固いっ! 呼び捨てでいいんだよっ!」
「う、で、ですが」
桜が顔を少し近付けただけで、顔を赤く染める美少年。
それだけで、桜の自尊心は大いに満たされた。
「おい、桜。そんな奴に構ってないで俺を見ろ」
桜が少年に構っていると、横から腕を引かれて王子の腕の中へと閉じ込められる。
「もぉ、ジンたらっ! 拗ねないでっ!」
桜もその背に自らの腕を絡めて、胸板に頬を擦り付けた。
逆ハーって言っても、1番はやっぱり王子よね!
身分的にも1番だし、顔もタイプだもんね!
「拗ねてなどいない……桜が他の男に構うのが悪いのだ」
そう言って、王子は桜の髪を一房とり口付けをした。
きゃーっ、最高っ!
私を取り合うイケメン達っ!
後は────
「……シュレインは、大丈夫かな?」
彼だけ。
彼が居れば、完璧なのに。
「アイツはあの女と一緒に、公爵家の領地に引きこもった筈だ」
王子は他の男の名前に一瞬眉をひそめたが、自らの知る情報を桜に教えた。
「あの人、危なそうな人だったけど……」
「優しいな、桜は」
「そんなっ! 普通だよ、普通!」
というか、あの暴力女早くどうにかしなさいよっ!!
今も私のシュレインに、あの暴力女が付きまとっていると思うと不愉快で不愉快でしょうがない。
「……あまり桜を他の男に近付けたくはないが、スタンガルトの領地に視察にでも行くか?」
王子は桜の建前を真に受けて、そんな提案をしてきた。
視察?
……いいかも知れないわね。
「行く! もし、シュレインがあの人に苦しめられてたら助けてあげなきゃっ!!」
今度こそ、ヒロインとの格の違いを見せてあげるわ悪役令嬢!
私のチートな力でギャフンと言わせてやるんだからっ!!




