6話 言霊
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「うむ……そう言えば、名乗って居なかったな。妾の名は皇 天音だ。あらゆるモノの頂点に君臨する存在である。お前達は有象無象にしては中々見所がある、特別に名で呼ぶことを許そう」
ふと思い出したように彼女、天音は自分の名を名乗った。
名で呼ぶことを許可するのは、天音にしては珍しい。
それなりに2人の事を気に入ってはいるようだ。
まぁ、それもいつまで続くとは限らないが。
「そ、それは有り難うございますわ。それで、その大変失礼かと存じますが、天音様のお力はどういった……?」
シュレーヴァは笑みをひきつらせながらも、天音に恐る恐る問い掛けた。
まだ付き合いは浅いが、天音の気紛れ具合は何となく理解できた。
故に、何が地雷になるかが分からない。
恐れるのは当然の事であろう。
「ふむ、妾に乞うか?」
天音はそんな兄妹の気持ちを知ってか知らずか、2人の反応を楽しむかのように口角を上げた。
「い、いえ! そんなつもりでは!!」
「ふっ、まぁよい。妾は身の程を弁えている者には、寛大であるからな。見せてやろう」
天音は慌てふためく2人の様子に満足したのか、満足そうに頷くと部屋に備え付けられてるバルコニーへと出た。
「妾こそ、最も尊ぶべき存在と知れ」
天音はバルコニーから見える屋敷の庭へと、両手を広げた。
「草花達よ、妾の為に“咲き誇れ”」
その瞬間──
庭に咲いていた草花が生い茂り、花を咲かせ実を付けた。
それは劇的だった。
咲いた花達の中には、この季節には咲かないものも混じっていた。
まさしく神秘で、奇跡であった。
「これは!」
「花達が……!」
そのあり得ない光景を目にした2人は。すぐにバルコニーへと飛び出し食い入るように庭を見た。
元々、聖女召喚を行ったのは魔物被害による食糧難の為だ。
その解決方法を、こんな簡単に示されたのだ。
驚くのも無理はない。
「生きとし生けるものは、妾の言葉に全て従う。有象無象ごときに、妾の力に反する事は出来ぬ」
「そんな力が! では、この国で起こっている問題も」
シュレインは神の領域に至る力に、興奮した声で天音に問い掛けた。
「可能であろうな」
天音から返ってきた答えは、実にシンプルで坦々としたものであった。
それは理想的な力だった。
食糧難や魔物被害だけでなく、その力はこの国へと巨万の富をもたらす事が出来るものだ。
「ではっ!」
「だが、妾が有象無象の為に力を使う事はない。妾は、有象無象が死のうが生きようが興味はないからな。有象無象が妾の為に尽くすのであって、逆はない」
期待に満ちた声で乞うシュレインに、天音は非情にも拒否を示した。
「そ、そんな……」
兄妹達は何とか説得出来ないかと考えを巡らせたが、結局それ以上何も言えなかった。
冗談やまやかしでなく、彼女は正真正銘の頂点だ。
一体、この女王様に願いを聞き入れて貰うにはどうすればいいのか。
それは兄妹2人にとって、長い人生を通して挑む事になる命題となった。