2話 頭が高ーい!
彼女はその時、無性に行列の出来るパンケーキが食べたくなった。
何時もなら人を使って用意するところだが、その日は何の気紛れか彼女自らが店に直接行くことになった。
そして彼女は車で移動している中、瞬くような光に突如包まれたのであった──────
「ここは……」
次に目を開くと、そこは見知らぬ空間だった。
「本当に現れたっ! 成功だっ!」
「だが、何故2人も……?」
そして同時に聞こえてきた騒音に、彼女は眉をひそめた。
「……2人?」
聞こえてきた情報を頭で整理しながら、足元に目を向けるとそこには貧相な薄桃色の髪をした少女が横たわっていた。
「…………これは一体どういう事か?」
自分はこの場所に、強制的に呼び寄せられた。
それも恐らくは、目の前にいる有象無象達に。
だが、そんな事は本来あり得ない。
考えられるとすれば、それは────
「んぅ、ここ……は?」
考えを巡らせている内に、貧相な女が目を覚ました。
「ようこそ、我が国へ…歓迎致します、聖女様」
先程まで彼女達を観察していた男が、薄っぺらい笑顔を浮かべて話しかけてきた。
「……聖女?」
彼女は男の言っている事が理解出来なかった。
この程度の相手に彼女が影響を受けるなど、あり得ない事だ。
「私……本当にっ!」
貧相な女は一瞬嬉しそうな顔を浮かべると、彼女に目を向け急に目を潤ませた。
「ごめんなさい、きっと貴方は私の巻き添えなんだわ! 本当にごめんなさいっ!!」
貧相な女は、誠意を見せるように頭を下げ涙を流した。
明らかに嘘泣きだと分かるあたり、女の程度も知れているというものだ。
「それでは、やはり貴方が」
「はい! 私が聖女です!!」
しかしそれも数秒の事、貧相な女は話しかけてきた男にコロッと態度を変えすり寄った。
「こんな可愛らしい少女だなんて……まさしく、聖女に相応しい姿だ」
男も満更ではないようで、すり寄る女の肩を緩く抱き締めた。
「か、可愛いだなんて、嬉しいっ!」
「本当に可愛いらしい……アレとは、大違いだな」
周囲に大勢の人がいるというのに、作り上げられる2人だけの世界。
甲高い不愉快な騒音が、彼女の神経を逆撫でする。
「そんな事言ってはダメですっ!! 彼女は私のせいで巻き込まれたのだからっ!」
そうは言いつつも、女は彼女に対する嘲りをを隠しきれていない。
それは、彼女にとって最も不愉快な事であった。
この程度の塵芥が自分を見下すなど、万死に値する。
「本当に、ごめ《ダンっ》ぐぁっ!!!??」
臭い芝居をなおも続けようとした女は、話の途中で地面に叩き付けられた。
その衝撃で女からくぐもった声がもれる。
女の頭には、真っ赤なハイヒールが押し付けられていた。
メリメリと、地面に顔面が容赦なくめり込む。
「な、聖女様っ!!?」
突然の出来事に、周囲は対応しきれない。
誰が何の脈絡もなく、いきなり人様の頭を踏みつけるだろうか?
少なくとも、そんな異常な事態に対応出来る者はこの場には居はしなかった。
「……有象無象が、頭が高い」
周囲が混乱に陥っている中、彼女は当たり前のように聖女を称する女に言い放った。




