18話 開幕!
途中で視点交代あります。
「天音様、偽聖女率いる軍隊がロザンド王国より攻めてきましたが、いかがいたしますか?」
来る日、約束の一月を待たずに偽聖女こと桜は、神聖スメラギ王国に攻めこんだ。
だが、予め予測出来ていたシュレーヴァは特に動じず、天音に伺いをたてた。
正直、あの無礼な小娘のことなどシュレーヴァの眼中にない。
シュレーヴァにとって脅威は、天音が認めた聖女、色欲の聖女たるミュウの存在だ。
ロザンド王国で召喚された桜とは比べ物にならない、強力な力。
天音に及びはしないが、同じ世界の人間だ。
シュレーヴァが手を伸ばしても、決して届かない位置にあの女はいる。
そしてそれが後5人もいるというのだから、心中穏やかではない。
この程度の存在に構っている暇はないと言うのに……。
目障りだと思っているし、一瞬でも天音の興味をひいている偽聖女の首を斬り落としたいとも思っている。
けれど、天音にとって偽聖女が使い捨ての玩具だと知っている以上、同類だと認められているミュウ達の方がシュレーヴァは気になった。
天音様に近付く者は、全て排除したい。
けれど、シュレーヴァ程度の力では到底敵わない。
シュレーヴァは魔法の才はあれど、たかが知れている。
忌々しい事この上無い。
何とかならないかしら……?
そう、例えばあの忌々しい女……あの女を他の5人に差し向けて潰し合えば…………。
「シュレーヴァ、余計な事を考える必要はない。貴様はこのゲームのプレイヤーだ。存分に妾を楽しませよ」
シュレーヴァが排除する為の算段をたてていると、天音が全てを見透かしたように言った。
流石天音様、私如き矮小な存在の考えなどお見通しなのですね。
「……失礼致しました、天音様。全ては貴方様の御心のままに」
シュレーヴァは忠誠を誓うかのように頭を垂れ、気持ちを切り替えた。
そして、この日の為に用意した黒曜とルビーで出来たルーレットへと手を伸ばし回す。
「……ほぉ、先ずは炎か」
針が示したのは、赤の十番だった。
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「皆さんっ、あの悪魔によって不当に侵略された公爵領を私達の力で何としても救い出すのです!! 私は女神の加護を受けし、聖女です! 正義は私達にありますっ!」
「聖女様の為に!」
「侵略者供を滅ぼせ!!」
桜はこの日の為に集めた兵達を奮起させるべく叫ぶと、その思いに呼応するかの如く熱い歓声が上がった。
皆が聖女である桜を恍惚とした表情で見つめ、その命令を疑う事もない。
桜はその様を見て、満足げに頷いた。
そうよ、こうでなくっちゃ。
この世界の女神に選らばれたのは私。
あの女は私の幸せの為の踏み台でしかないのよ!
「……桜……本当に大丈夫なのだろうか? 本当に、俺達はあの女に勝てるのだろうか?」
やる気に満ち溢れる桜とは裏腹に、逆ハーレム要員であるジン達の表情は暗い。
腐っても王候貴族、勘が働いたのかもしれない。
「勝てるよ絶対! だって、私には女神様の加護があるんだもの!! 知ってるでしょ? あの悪魔を倒せるようにって、私に更に多くの力をくれたのをっ!」
桜は天音にお情けを貰い生き延びてから、女神に祈った。
実際はそんなお綺麗なものではなく、恐喝に近いものではあったが、女神は桜の願いに応え力を与えた。
結果、今の桜は前とは比べ物にならない、程強くなった。
桜の張る結界は強固になり、傷1つ付くことはない。
桜のかける補助魔法があれぼ、疲れにくく強靭な兵士が量産出来る。
桜の施す治癒魔法は、死ななければ欠損すら治せる程だ。
この前のようにはいかないわ。
せいぜい、私を見逃した事を後悔して死になさいっ!
猶予の1ヶ月を待たずに桜は先制攻撃かけた。
その時点で聖女も糞もないが、おかげで優位に事を運べている。
桜は自分の勝利を確信していた。
《よく来たな、有象無象。矮小な存在の分際でこの場へ至れたこと、歓喜するがいい》
2つの軍団が争う中、その声は聞こえた。
聞き覚えのある声だ。
忌々しいあの女の声。
どうやら、魔法で別の場所からこの場所へ声を届けているようだ。
《これは所詮暇潰しのゲームだが、あっさり決着がついてはつまらぬ。故に、少し趣向を凝らした。せいぜいあがき、苦しみ、妾を楽しませよ。では、初めの命令だ》
《“ロザンド王国軍は火属性の魔法の使用の一切を禁じる”》
何を意味が分からない事をと口にする前に、前線で戦っていた兵士が使っていた火属性の魔法が消えた。
前線では魔法の撃ち合いが行われている。
急に魔法が使えなくなった兵は、敵の氷魔法によって無惨に貫かれる。
「……は? 何よ、これ?」
目の前で起きた現象に、理解が追い付かない。
何故、あの女の言葉通りの事が起きるのか。
《次のルーレットは10分後に回す。まだ始まったばかりだ。早々に死んでくれるなよ?》




