17話 厄介払い
「ふふっ、みゅーの力も凄いでしょっ?」
復活した少女の腕に自らの腕を絡め、ミュウは無邪気に笑った。
「……埒があかないな。妾達同士で争った所で時間の無駄だ」
ミュウは殺しても死なないし、ミュウに天音を殺す事は出来ない。
ミュウの力は恐ろしくはあるが、本来は再生能力なのだ。
それに強化といっても、元がただの人間である以上その器には限界がある。
2人の戦いは、どこまでも平行線を辿るだけであろう。
それは過去1525回争った経験から、天音の身に染みていた。
「えぇーっ、みゅーのりーちゃんはまだまだ頑張れるよ?」
まだ器の限界を迎えてないと、ミュウは平然として言った。
ミュウの愛は平等であるが故に、お気に入りはあれど執着はしない。
ただ自分が1番に愛されなければ、気が済まないだけだ。
だから、自分を拒む天音達6人に向かってくる。
仮にもし天音がこの少女を壊したところで、大して怒りはしないだろう。
天音とは違う。
天音は気に入った者に手を出されるのを、本気で厭う。
「その人形がどう頑張ろうと、妾を傷付けることは到底出来ぬ。妾の力が効きづらくなると言っても所詮は生物、妾の力からは逃れられぬ」
「むうぅ、やっぱりあーちゃんの力ってずるい。みゅーも、あーちゃんみたいな力が良かったなぁー」
そうしたら、世界中にみゅーの愛を届けられたのにと、ミュウは頬を膨らませて不満げに言った。
ミュウも勝算が無いことは、よく分かっていた。
けれど、それでも天音を含む他の6人に、何度も何度も挑みに行くのだ。
他の6人にしたら、迷惑極まりない行動だ。
「そんなに遊びたければ、他の5人の所に行け。妾は無駄な時間を費やす程、暇しておらぬ」
天音はミュウに対して、面倒くさそうに眉をしかめた。
「だって、他の5人はまだ見つけてないんだもん。みゅーは皆の事愛してるから、もっと一緒に遊びたいのにぃ……それにしても、あーちゃんが暇していないって、何か新しい玩具でも見付けたの?」
ミュウは首をこてんと傾げた
「あぁ、暇潰しのちよっとした余興をな」
天音はミュウの問いに口角を少し上げて、笑みを浮かべた。
その瞳には嗜虐の色が見てとれる。
天音もまたミュウとは別方向ではあるものの、酷く残酷で無慈悲な性分を持っている。
「いいなぁ、みゅーも交ぜてっ!」
「断る、折角の余興を台無しにされたらつまらんからな」
ミュウが目を輝かせて手を揚げるが、天音はきっぱりと断った。
折角の舞台が台無しになる事は、火を見るより明らかだ。
「えぇー! あーちゃんのケチんぼっ! おたんこなす! みゅーを仲間外れにしないでよっ!」
しかし、そんな言葉でミュウが納得する筈もなく、ゴネはじめた。
「……北の国が何やらきな臭い事になっているらしい。恐らく、悪霊だろう。妾の代わりにあやつに遊んでもらへばよい」
天音は溜め息をつくと、この厄介事を押し付けるべく手持ちのカードを切った。
「えっ!? しーちゃんがいるのっ!!?」
「あぁ、まず間違いないだろう。あの国からは、あやつの陰気な臭いが漂ってくるからな」
よくも悪くも天音達は周囲に多大な影響を与える。
その存在を隠す事は難しいだろう。
「じゃあ、みゅー、しーちゃんに会いに行ってくるっ! しーちゃんにも挨拶しないとっ!! 行くよっ、りーちゃんっ」
そう言うやいなや、ミュウは虚ろな目をした少女の手を引いて瞬く間に走り去って行った。
「五月蝿いのが消えて、やっと静かになったな……」
天音はミュウが視界から消えるのを確認すると、先程まで腰掛けていた椅子に再び座った。
「──すっかり御茶が冷めてしまいましたね。すぐに新しいものを用意させます」
少しの沈黙の後、天音にそう声をかけたのは未だに放心しているシュレーヴァではなく、ずっと沈黙を貫いていたシュレインだった。
「……お前はシュレーヴァと違って驚かないのだな」
動揺が見られないシュレインを、天音が面白そうに視界に入れた。
「まぁ、いつも貴方の近くにいるのであれくらいのとんでも人間わには慣れたというか何というか……でも、まぁ先程の少女は恐ろしい存在ではありますが、貴方と違って畏敬は感じませんから」
「……ほぉ、中々見る目があるではないか」
シュレインの正直な感想に、天音は目を細めた。
シュレーヴァもだが、シュレインも中々面白い。
暫くは退屈しなさそうだと、天音は思った。




