16話 聖女の祝福
「お前達っ! 早くあの化け物を始末しなさいっ!!」
無傷でケロリと笑うミュウを、シュレーヴァの指示で兵士達が取り囲む。
全く持って忌々しいと、シュレーヴァはミュウを睨み付ける。
「えーっ、みゅー貴方達は後でって言ったよぉー? うーん、仕方がないなぁー。りーちゃんっ、お願ーぁいっ!!」
ミュウ困ったような顔をしたが、直ぐに何か閃いたのか共に来ていた友人の名を呼んだ。
「うん、ミュウのお願い、……なら、喜んで」
名を呼ばれた虚ろな目をした少女は、ミュウにそう応えると兵士達へと襲いかかった。
「舐めるなっ! こんな小娘ごときに、後れをとる我らではないっ!」
虚ろな目をした少女が振り下ろした腕を、兵士は剣で腕ごと切り落とそうとした。
そして武器も防具も何も身に付けていない少女の腕に、それを避ける事が出来ない筈だった。
しかし⎯⎯
「なっ!?」
切り落とす筈の腕が、ガキイィンと剣を弾いた。
服の中に、金属を仕込んでいた訳ではない。
それは切り裂かれた服の中から見える、少し黄色っぽい肌が証明だ。
「この、化け物めっ!」
シュレーヴァは、魔法を少女に向けて放った。
炎の矢が、少女へと突き刺さり燃え広がる。
「ぁ……ぐ……」
少女は少しの苦悶の声を上げていたが、特に暴れる事なく炎に飲まれた。
「りーちゃんっ!!」
炎に焼かれ崩れ落ちそうな少女に気付いたミュウが、天音との戦闘を止めて駆け寄った。
「次は貴方の番ですっ!」
シュレーヴァが、ミュウに照準を合わせて魔法の詠唱を始めた。
「もぉー、りーちゃんったら、本当にみゅーが居ないと駄目なんだからっ☆」
けれど、ミュウはそんなシュレーヴァを気にも止めていないのか、倒れた少女に近付き手を伸ばした。
「体がっっ!!?」
あまりの事態に、シュレーヴァは詠唱を止めて叫び声をあげた。
確実に殺した筈だった。
光属性による回復魔法は存在するが、死せる者を生き返らせるなんて不可能だ。
「……あれが、ミュウの能力だ。驚異的な再生能力……あやつの力の前では、死人さえ生き返る」
その光景を見ながら、天音は忌々しそうに口にした。
「再生能力……」
シュレーヴァは、神のごとき奇跡にただただ圧倒された。
このミュウと名乗った少女は、確かに天音が自分に近いと認めるだけの存在であったのだ。
「更に厄介なのが、再生の際に前よりも強化される事だな」
「強化、ですか?」
ただでさえ驚異的な能力であるのに、更なる付加効果まであるのか。
これは天音の言った通り、自分達の手にはおえないかもしれないとシュレーヴァは思った。
「お前達も先程見たであろう? あの女の手が剣を弾いたのを」
「では、今も……」
それは、たたった今ミュウの力で再生したあの少女が、先程より強くなったと言う事を意味していた。
「故に、あやつは聖女として祭り上げられていたのだ」
天音が忌々し気な視線を向ける先で、殺した筈の少女が服はボロになったがその身は傷1つない状態で立ち上がっていた。




