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14話 色欲の聖女

只今、毎日何かしら更新中です。

 

桜が女神へと喚き散らしていた頃、薔薇の芳しい香りに満ちた庭園で、天音は優雅にお茶を飲んでいた。


「そろそろアレ(・・)が来てから半月か……少しは楽しませてくれればよいのだが」


「あの程度の矮小な存在ごときには不可能なのでは? 天音様は、この世の頂点におわすお方ですから」


天音の空いたカップに、シュレーヴァはお茶を注ぐ。

本来、シュレーヴァのような高貴な身分で、侍女の真似事などはしないが、シュレーヴァは天音に心酔して世話をとにかく焼きたがった。

当然同じ席につく筈もなく、兄であるシュレインも巻き添えとばかりに背後に控えさせられていた。


「うん、僕も流石に無理かなって思いますよ。あの少女の能力が何であれ、天音様の一言で全ては終わってしまうんだから」


「ふふ、妾が勝つのは当然だが、問題なのはその仮定だ。矮小な存在であろうと、妾を一時楽しませること位なら可能かも知れぬ」


「そうだといいですね……」


全く傍迷惑な人だとシュレインは思ったが、口には決して出さない。

そういう意味では、シュレインは賢いのだろう。


「失礼いたします、女王様。関所に女王様のご友人を名乗る者が……どう対応致しますか?」


戸惑った顔をした城の兵士が、報告の為に庭園へと足を踏み入れた。


「友人? 天音様の友人を騙るなど、そんな不届き者は即座に処分いたしなさい」


シュレーヴァは、実に不愉快そうに顔を歪めた。


「……其奴の容姿は?」


妾の友人を名乗るであろうは……十中八九、あやつであろうな。


「天音様?」


「答えよ」


シュレーヴァが訝しげにしているのを無視して、天音は再度兵士に答えを促した。


「はっ、少女でした。年は天音様より少し下くらいで、髪は桃色の⎯⎯」


「あーちゃーんっ!!」


庭園に静寂を壊す、高い甘やかな少女の声が響いた。


「やはり、お前か」 


天音は突如現れた少女に驚く事もなく、カップの中のお茶を口に含んだ。


少女の顔は、前の世界でよく見知ったものであった。

暫く会っていなかったとはいえ、天音がこの少女の事を忘れるような事はない。

自分が頂点だと天音は本気で考えているが、この少女はそんな自分に最も近しい者の一人として天音は認めていた。


「何奴っ!? 警備はどうなっているのですかっ!」


「いえ、関所で止めた筈で……」


「あーちゃん、お久しぶりっ! 会いたかったぁっ!!」


警備で揉めるシュレーヴァと兵士を放って、桃色の髪を2つに分けて結んだ愛らしい少女は天音に抱き付いた。


「……気安く触れるでないといつも言っているであろう、ミュウ」


「えぇー、だってみゅー、あーちゃんの事大好きなんだもんっ! だから、ぎゅうってしたい。ぎゅーぅっ!!」


旧知の仲とはいえ、気安い接触を拒む天音。

けれど、ミュウと呼ばれた少女は、嫌そうな天音を気にする事なく更に腕の力を込めた。


「貴方っ!? 天音様に何たる無礼をっ!!?」


そしてそんなミュウの態度に、当然ながら憤慨するシュレーヴァ。

今にも刺し殺さんばかりの目を、ミュウへと向けている。


「ん? あーちゃんの新しい友達? みゅーは、みゅーって言うんだよ。よろしくねっ!」


そんなシュレーヴァの視線に気付いていないのか、ミュウはニコニコと笑みを浮かべて挨拶をする。


「よい、コレの無礼な行動は今に始まった事ではない……それにしても、やはりお前も此方の世界におったのだな」


天音は手を上げて、シュレーヴァを制した。


予想はしていたが、やはり全員此方に来ているらしい。

だが、始めに会うのがコレとはな……

天音は認めてはいたが、ミュウの事は正直他の6人の中で一番苦手としていた。

理由は、その厄介な性格にある。


「うんっ! みゅーもあーちゃんと同じで、この世界に召喚されたの。お友達も沢山出来て楽しく遊んでいたんだけど……スメラギ王国が建国したって聞いて、絶対にコレあーちゃんが関係してるって思って! 会いに来ちゃった!」


お友達(・・・)、か。相変わらずのようだな」


そしてその性格は、此方の世界に来てからも変わっていないようだ。


”色欲の聖女“


ミュウは前の世界では、そう呼ばれていた。

聖女の名を冠している事から分かるように、とある宗教のトップであった。

その理念は単純で、”ありとあらゆる全てのモノは、聖女たるミュウを愛し愛さなければならない“というものだ。


「うん! 今日も一緒に来てるんだよ! おーい、りーちゃーんっ!! こっち来てぇー!」


ミュウは自身が来た方向に目を向けると、手を振りながら誰かの名前を大声で呼んだ。


「……アレが新しい玩具と言うわけか」


ミュウの声に呼び寄せられて現れたのは、十代半ばの何処にでもいそうな黒髪黒目の少女。

けれど、その姿はとても平凡には見えない。


「相変わらず⎯⎯悪趣味であるな」


その少女は瞳に一切の光を宿さず、またその身は鮮血で染められていた。





次は…そろそろ精霊かな。

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