14章 列車で温泉
蒼藍王国の首都ルネスティアラの惑星中枢都市である藍蒼の北東には巨大な山が聳えている。
神宮山と呼ばれるその山は星の分厚い数千キロに及ぶ大気を突き抜け、その頂は大気圏外に達している。
ちなみにその高さから登山には向いて居らず、山頂は大気を抜けた当たりで空間が不安定となり、異世界にも存在する。
そんな山頂を切り取り亜空間に繋げ、そこに宇宙港を置く。そんな馬鹿げたことをしでかしたのは誰の発案だったか。まず神子ではないことを言っておく。
「いや。うちが、んな突拍子もないことこういう公共事業で言うわけなかろ。」
「だよねえ。神子は公共事業に関してはストッパーだもんね。」
神宮山の内部は全てくりぬかれ巨大な鉄道駅となっている。
全次元世界最大の鉄道駅にして、創造界世界の交通の最大の要衝神宮総合駅
そのエントランスロビーにて、いつもの7名を筆頭に1000名近い人数が集まっていた。
「え。このルートおまえが作ったんじゃないの?」
「誰が好きこのんで、こんなへんぴなとこにいかなあかんのや。それと今回のメインは牧浪方面なんやけん。」
「わたしや。ところで、神子ちゃん。」
「えーっと。宮前温泉で乗り換えだけどあれ一両100人やけ、全員はのれんね。」
「そうかあ。」
神宮総合駅を出た一行の乗るSVLの列車は藍蒼の東にある超高層ビル群の西縁に位置する複合大規模交通連続構造体の一部として作られた藍蒼中央駅に止まり、加速し、数万キロ地上を滑走した後、惑星の重力圏を脱するに十分な速度に達し、地上に据えられた高架軌道から連続した、衛星軌道へ向かう空間軌道に入る。
その大きさの割に一日は24時間のくせして、重力は1Gというもう分けわかんないこの星。
「相変わらず、この惑星を出て恒星間空間軌道に入るのがスゴイよなあ。」
実際には惑星衛星軌道に乗りそこから惑星系公転用軌道に入った後初めて、恒星間空間軌道に入るという面倒くさい手続きをとる。面倒くさいのでSVLは停車駅を可能な限り絞っている。
「枠確保のためにってか前々からの計画とは言ってもさ、フローラからボルフラングまでの延伸っていくらかかった?」
[どっちです?金と時間と。]
「両方。」
[金は40王国会計期間。時間は42億年はかかりましたかね。]
1王国会計期間は100年に当たる。1王国会計期間分の金額は約580亥サフィル。日本円に変換すると同額となるが、ドルに変換すると何故か166万倍になる。これはサフィルクルスと日本円の間に等額変換協定という物が結ばれ1サフィル1円で両替が可能なためであり、それ以外の通貨には一サフィル166万通貨というレートが固定されている。
「意外に安く済んだね。」
「神子はいくらだと予想を?」
「総額65会計期間。」
「俺は100はいくと思ってた。」
皆口々に予想額を述べる。が、確かに全く正反対の方向へ大きく宇宙空間を迂回して延伸するのだから莫大な金額がかかって当たり前だ。がそれを国家予算4200年分で終わらせたのだから結構スゴイ。
列車は、一路西進し、王国の西部トリネリア州の州都をかすめ隣国ラルトに入る。ラルトの王都に停車したのち北西を目指すほんのり天舵なのはご愛敬。
SVLの路線はラルトの王都アリスを出ると二つに分かれる一つはそのまま西進しその後北上する一般線と呼ばれる物で、途中アイルーン王国連合の首都に設けられた3駅に停車する。
もう一方は一行が乗る列車が走るもので一路王国の飛び地にして最大の大きさを持つマーライヤーナ州州都ルーラを一直線に目指す物。優等線と呼ばれる。
「まーだ半日かぁ。」
神宮総合から、日本の首都中都まで、この列車の巡航速度で1日かかる。
中都を出た列車は北西方面に天舵60°で上り続ける。30Pc(108光年)程上ると天舵角は30度に緩和され目的地への玄関ブリアススペルキアの蒼明に至る。日本の同君連合である紅蒼国の首都ブリアススペルキアの中枢都市である蒼明には首相官邸や国会などが置かれる他国内随一の規模を誇る。国内最大規模は一行の向かう地区の中心である伊勢駅だ。
まあそんなこたどうでもいい。
蒼明駅でSVLを降りた一行は乗り換え改札を経由して、この国最大の鉄道会社神応鉄道の区画へ入る。
「なんか変わった?」
「あー。信蒼麒高速線の車両が伊勢大和新幹線と共通になったことかな。」
そのまますたすた歩く神子についていく一行。
「あ?今回は3階じゃないんだな。」
「姉御にゃ申し訳ないが、うちはあの山の中は苦手でね、叶うならとっとと終わらせたい。」
[今真夏のあの場所であれはきついです。]
だれた様子で、遥夢が答えるが。
「「あんたは何でそうも暑さ倍増になるような格好してくるかなあ。」」
かなりスポーティな格好をしていたので突っ込まれる。
「まあ乗るべ。」
神子の先導でホームに上がる。
列車が出た後だったので、ホームは閑散としていた。
『まもなく信蒼麒高速線外回り東神三好、波香居滝方面が入線します。列車が高速で入りますのでホームドアから離れてお待ちください。』
アナウンスが流れ、強風を伴い列車が入ってくる。
1周12時間の巨大環状路線。首都圏とされる地域の最外縁部を回る路線である。
ドアが閉まり列車が動き出す。
「春日台までは10分弱。」
蒼明第二の駅が春日台駅である。列車はこの春日台駅を出ると一気に加速する。
[そういえば、神総で何考えてたんですか?]
遥夢が問う。
「何会計期間前か忘れたけど雛乃杜線の車両更新がされて3両になったのは覚えてる?」
[ええ。]
「それが1両当たり乗車定員106名、1編成318名なんだよね。で今回は938名の参加。さて、何本で捌けるかなあ。ってね。ただでさえ、これも二本に分かれて貰ったのに。」
那廼駅
ここで乗り換える。
「いつもたいへんやねえ。」
「ここは除節結界がないから仕方ないんだよなあ。」
遥夢をおんぶする正規。遥夢は「後天性節足動物拒絶症」と「水棲動物性タンパク質拒絶体質」という二つの素体生命活動に関わる、深刻な持病を患っている。まあ神子も昆虫恐怖症(軽度の後天性節足動物拒絶症)を患っており、特に甲虫とセミが苦手である。
「こうも蝉の声がわしゃわしゃ聞こえるようじゃあ、遥夢ちゃんの生体管理も低下してるやろうなあ。」
「来る途中に急いでハルの奴だけOS更新しといてよかったわ。というか、毎度神鉄は高松君を寄越したか。よっぽど東方の開発送らせたいらしいな。そういえば高松君の上司って近藤さんだよな。」
「いえ。中央の茨田4方面計画局長です。」
「あ。茨田さんまだ四方局長なの?いい加減中央の副本部長当たりになってるかと思ってた。」
神子に声を掛けられたのはこの鉄道会社の高級幹部。
「とりあえず聞いて良いか?高松君って簡単に言えば二七才相当だよな。」
「大学出てすぐに子会社の青葉電鉄社長に任命されて、それが成長したら双画支社と一緒になって双画地域本部の本部長になった後秘書と結婚したら葉山の馬鹿に奥さん誘拐されて取り返したら、こんな変人の相手させられた。それで、今度は伊勢へ栄転という名の異動だもんね。」
「伊勢と言えば、第二艦隊の方の伊勢は今見ないけどどうした?」
問うが呆れ顔で返される正規君。
「とりあえずそこの待合室入ってな。ハルがぐったりしてるよ。あと10分で来るから。」
それを聞いて露骨に表情に出た年上組。まあ。気温30度近い炎天下、いくら屋根があるとはいえ、10分間コンクリの上に突っ立っていたくないだろう。人数がいるので、行動もままならないし。
やってきた列車は比較的新しめの3両編成。
「お疲れ様といいたいんだけど3組に分かれます。暑いのにが手な人は遥夢と一緒に最初の便に乗ってください。」




