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6.狩りと魔法修行 2

どうも、俺の「器用」というは本当に能力だったらしい。


確かに、子供の頃から、絵とかプラモデルとか、結構得意だったし、もの覚えも悪くなかったが、特に「器用」というのを意識したことは無かった。


俺の「器用」能力がレルに伝搬したことで、魔法が使えるようになったのは良くわからないが・・・。


ただ、少なくとも第一段階は合格のようだ。


ランテさんは、今後の方針を簡単に説明した。


「それでは次の段階に進めそうですわね。次は、黒板の模様を見た直後に目を閉じ、呪文を詠唱して水を呼び寄せる練習。さらに、最初から、脳裏に模様を思い浮かべながらの練習をします」


「それは何のためですか?」


「この紋様・・・すなわち水の召喚紋しょうかんもんを見なくても、心の中に再現することで、魔法が使えるようになるためです」


ふむふむ、分かってきた。


「なるほど。では、呪文というんですか?。水よ来たれ・・・というアレですが、あれも心に再現するだけで済むようになるんでしょうか?」


ランテさんが最初に魔法を見せたとき、無言だったことを思い返しながら、俺は確認した。


「その通り。ただし、召喚紋しょうかんもんと詠唱の両方を同時に、しかも正確にイメージしなければならないので、訓練が必要です。しかも高等な魔法ほど召喚紋しょうかんもんと詠唱が複雑になりますわ」


「なるほど」


簡単にはいかない訳だ。


そもそもその召喚紋しょうかんもんと詠唱の言葉を知らなければ駄目だし。


「また、イメージだけで操る魔法には問題があります」


「問題・・・ですか?」


「はい。例えば、強力な攻撃系の魔法を完全にイメージだけで操れるようになってしまうと、自分自身が意図しない局面で暴発してしまうことがあるのです。だから、魔法使いは強力な魔法には心理的な鍵をかけます」


「鍵?」


「そうです。例えば、特定の杖を振った時とか、簡略化した暗号を言葉にした時とか、そういう時のみ発動するようにしておくのです」


そこで、黙っていたレルが口をはさんだ。


「レル、それ分かる。心に思っただけで変身してたら、怪人の夢見ただけで変身してしまう。やはり変身ポーズは意味があるな」


なんでレルがそんな事を知ってんだ。


ああ、血契の後、俺の記憶を見たせいか。


「・・・良く分からない例えですが、夢を見ただけで・・・というのは正しいです。魔法の暴発事故は、夢を見ている時に起きることが珍しくなかった訳ですし」


おおよそ、イメージが湧いてきた。


つまりこの世界の魔法というのは、それなりにきちんとした法則に従っていて、研究も随分とされているみたいだ。


で、あれば理路整然と教えてくれるランテさんは、とても頼もしい教師だ。


何しろ、俺が勉強でつまづいたのは、ただ暗記すれば良い・・・という風潮が全盛だった頃だし。


理論と効果がはっきりしているのなら、学ぶ気力も湧くというものだ。




それから、俺とレルは、2日間は手配魔獣狩り、6日間は魔法の練習というサイクルを続けながら、勉強に励んだ。


とは言うものの、これが案外うまくいかない。


召喚紋しょうかんもんを見ずに・・・というところが難しいのだ。


成功率は100回に1回、つまり1%程度。


しかも召喚紋しょうかんもんを見た直後に、目をつぶって・・・での成功率だ。


これで、詠唱も同時にイメージとか言ったら・・・。


「一生、魔法が使えない人も珍しくないので、ゆっくり進んでいきましょう」


と、ランテさんには慰められるが、俺は出来れば戦闘で使いたいのだ。


例えば、何か一瞬でも敵を混乱させることが出来れば、どれだけ戦いが楽になることか。


何回か魔獣狩りを経験したからこそ、その一瞬の意味が良く分かるのだった。


弱くてもいいから、即時行使可能なレベルまで魔法を磨きたいものだが・・・。


しかし、転機は急に訪れた。


レルが、たまたま魔法を成功したとき、ふと思いついて、


「レル、今のイメージ、俺に投げてくれる?」


と頼んだのだ。


と、レルが頷くと同時に、その成功経験が俺のものになっていた。


なるほど。レルはそういう具合に召喚紋しょうかんもんのイメージを捉えているのか。


言葉には出来ないが、俺のとはかなり違う。


レルの成功イメージがプラスされたおかげで、俺の成功率が上がった。


そして、次は、俺の成功経験をレルに投げる。


「そうか!。主様は、そんな風に認識していたか。レルと全然違う。でも勉強になる」


かくして、レルの成功率も上がる。


俺たちは、経験のキャッチボールを繰り返すことで、飛躍的に上達速度を上げることができるようになっていた。


「すごい・・・ですわ。血契の魂話をこんな形で応用するなんて」


ランテさんは、複雑な表情で驚嘆の声を上げていた。


弟子が上達するのは嬉しいのだろうが、どうも自分の時より効率的な学習をしているのがひっかかるのだろう。


そして、俺たちは簡単な水召喚なら、まず失敗しないまでに習熟していた。


「もうこれで探索の時、飲み水に困ることは無い。忌々しい蛞蝓蛭ナメクジビルも一撃だな!!」


レルは、魔法が使えるようになってウキウキしていた。


俺は、ランテさんに聞いた。


「この水魔法はもう大丈夫ですかね?」


「もう十分、身につけたと言えるでしょう。何より、綺麗な飲み水が確保できるのは、冒険にとって意義が大きいですわ」


「では、もっと攻撃的な水魔法を教えてもらえますか?」


「それは止めておきましょう」


意外な答えだった。


「ケンゴ様は、あまりにも早く水魔法を習得されてわからないかも知れませんが、攻撃的な魔法ほど暴発した時の危険が大きいのです。それで自滅してしまう人も少なくありません。それに・・・」


エメラルド色の眼が煌めいた。


「戦乱の頃ならともかく、現代では、大魔法をただ使える者より、小魔法を使いこなせる者の方が強いですわ」


出し惜しみとかでは無く、真剣に考えてくれているようだった。


「わかりました、それでは次は何を学びましょう」


「水魔法は、いわば物質召喚が基本になっている魔法です。だから、次はエネルギー召喚系の魔法を学びましょう」


「エネルギー・・・系ですか」


「そう。熱魔法です」


次のカリキュラムが始まった。





魔法を覚える一方で、俺の魔獣狩りの腕も増してきた。


水魔法で目潰しをかけ、視界を塞いだところで一撃を放つ。


効率が良いし、危ない思いをする回数も激減した。


そもそも、希少な食肉用の手配魔獣などは、あまり傷をつけない事が大切なのだ。


待ち伏せでも喉が渇かない。


地味に、しかし確実に水魔法の恩恵が出始めていた。


日々を過ごすにつれ、俺も街に慣れてきた。


同時に、街が俺に慣れてきたとも言える。


結界帽は外さないのに、どこに行くにも、人々から少し遠巻きにされて、刺すような視線で見られていたのだが、それが少しづつ変わってきたのだ。


例えば、


「おはようございます、ケンゴさん。いい天気ですね」


とか、宿屋の娘が声をかけてくれる。


酒場の若女将からは


「明日は、狩りお休みなんでしょ?。良いお酒が入ったから、一緒にどう?」


とか。


冒険者向け弁当屋の娘からも


「ケンゴ様、明日もウチに寄ってくれるんですよね」


という具合に、なにかにつけて声をかけられる。


少女から熟女まで。


性別が女性の場合、みんな好意的に接してくれる。


一方、男は、異常に敵視してくる人が2割ほどいた。


武器屋の若旦那なんかは、長い牙を剥き出しながら


手前てめえみたいな、ひょろっちい野郎が、女にチヤホヤされるなんて我慢ならねぇ。ウチの店には顔出すな!」


という感じで威嚇してくる。


一方、露天でアクセサリーを売っている、ルパンの相棒似の、髭のおっさんなんかは


「よう、色男。今日も美女連れで羨ましいねぇ。彼女にさ、何か買ってってやんなよ」


とか、嫌みじゃない程度の冗談で接してくれる。


男では、普通に接してくれる人が6割、結構好意的な人が1割、残りは異常に好意的な人だった。


いずれにしろ、敵視してくる男も、接近してくる女も、レルとランテさんが、文字通り壁となるので、それ以上の会話には発展しないのだが。


慣れてきた、この世界に、と思える。


元の世界より、危険だが俺には嬉しいことが多かった。


・・・いくつかの事を除いて。





「どうした、主様。食欲が無いのか?」


いつもの食堂でレルに聞かれた。


食事の手が止まっている。


はっきり言うと、食欲が出なかった。


稼ぎも安定して、もう少しで二級冒険者にもなれそうだし、熱魔法の習得も順調だ。


だが、この食事には少し参ってしまっている。


それなりに美味い時もあるのだが、一転して、ひどく不味いときもある。


当たり外れが激しくて、どうもストレスが溜まる。


特に、予想したのと違う触感や味の肉には。


そもそも、塩とスパイスだけなのも、飽きる原因だ。


「レル、今日は何の肉かな?」


「これは、石豚いしブタ。少し脂にクセがあるけど、レルは不味くない」


「そうか?、じゃあコレを食べてみな」


「・・・確かに、ニチャニチャしてるな。でもこれも石豚いしブタ。同じものだから仕方ない」


同じもの?


全然違うじゃないか。


そもそも、何で色んなモノが、石豚いしぶたと、ひとくくりにされているんだ。


ん?


何か、こう引っかかるな。


そうか、そういうことか・・・。


「どうしましたの、ケンゴ様。何か嬉しいことでも?」


「いやいやいや・・・、ちょっと思いついたことがあったんで」


否定はしたものの、俺は頭に浮かんだアイデアが、みるみる膨らんでいくのを感じていた。


「ところでさ、レル」


「なあに、主様?」


「俺たち、意外にお金貯めたよな」


「そう。かなり貯金できた」


「ランテさんには授業料借金してるけど」


「それは出世払いでいいと言いましたじゃないですの。貯まったお金はケンゴ様がお好きなように使われると宜しいですわ」


「その通り。レルと主様が稼いだお金は、主様のもの。何か装備でも欲しいか?。それとも、新車の蟲車ちゅうしゃを買うとか?」


「そのー、あのー」


少しの躊躇の後、俺は、思い切って言ってみた。


「そのー、飲食店を開くのって幾らぐらいかかるんだろう??」



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