5.狩りと魔法修行 1
今のところ、登場種族は
・人間
・火鬼
・土鬼
・水精霊
です。
ちなみに、女性だけの種族も居たりします。
典型的な冒険者への依頼事項である、魔獣狩り。
それは主に2種類ある。
1つは食材や加工材といった、産業原料として価値の高い魔獣を狩るというもの。
もう1つが、魔獣の中でもとりわけ凶悪な個体を「手配付き」狩ることで、人や家畜に対しての害を減らすというもの。
俺たちが請け負うのは基本的に後者だった。
というのは、報酬が高く、冒険者として学ぶことも多いからだ。
まずは、比較的危険の少ない魔獣を倒して、それを餌に「手配付き」を狩っていくのが常套手段だ。
俺はまず準備体操代わりに、記憶の中にある空手の正拳や蹴りといった打撃系の格闘技を思い返しながら、身体を動かしてみる。
拳を固める。
前に出す。
その時に腰を切る。
見真似でやってみると、その動作の意味や、理論が一発で理解できる。
同時に身体が動く。
これぞ格才というものだとわかった。
徒手技とはいえ、レルのものも魔獣に効いていたし、格才というのは、とてつもなく応用能力が高そうだ。
実際、俺の技は通用した。
ただし、通用し過ぎて2~3匹、餌となる剣牙鼠を倒してしまった。
1メートルくらいある、巨大なネズミだ。
「主様。殺してはダメ。餌は生きていないと。手配付きの多くは、凶暴なだけでなく、賢い」
そう言うレルは、手刀で頭頂部を叩いて失神させているようだった。
「すごいな、レル」
「血契前は、専用のハンマーを使っていた。でもパワーが増したので、これでいける。こっちの方が調節がついて便利だ。レルの頭を見て、コツ掴むといい」
頭を見る?
そうか。
血契主と血契僕は、「魂で会話できる」と言っていたが、確かに言葉で会話するより、より深いニュアンスが伝わるだろう。
で、俺はレルを「見た」。
なるほど、そういう具合か。
コツを理解した、というより、把握した。
というより、既に自分のものとなっている。
「魂の会話」、すなわち魂話と呼ばれるそれは、単にテレパシー的な意思疎通という意味だけでなく、「経験の移植」ということも可能なのだった。
それに気付いてからは、狩りは加速した。
10匹ほどの剣牙鼠を2人で仕留める。
全て失神状態。
「で、どうする?」
「弱った動物の臭いにおびき寄せられて、ヤツが現れるのを待つ」
ヤツとは、今回の「手配付き」こと、鉄熊の「二本槍」だ。
俺とレルは、かなり離れた岩陰に身を潜めて待つ。
俺を背中から包み込むようにレルが抱く格好でだ。
その理由はすぐに分かった。
レルは動かない。
文字通り、1ミリもだ。
俺ならそうないかない。
そういう部分は、記憶の移植でどうなるものでもなさそうだ。
それに、背中に当たる、2つのお肉の弾力に、どうしてもドキドキしてしまう。
だが、レルはさすがに一級冒険者だ。
その姿勢のまま、何時間も動かなかった。
もう夕暮れか、という頃、草原の奥から山のようなシルエットが現れた。
2本の角のように見えるのは、背中に刺さった大小の槍だ
確かにヤツだった。
その影は次第に大きくなっていく。
元の世界でいうところの、象ぐらいの巨体だった。
熊とか言っているが、別物。
身体の表面には、金属光沢の鱗。
爪も牙も特大だ。
ぶっちゃけ、少しチビりかけた。
そいつが、囮の剣牙鼠を喰い始める。
レルはまだ動かない。
そして、喰い終わりかけた頃、俺の背中が、軽くなる。
戦いの合図だ。
魂話で打ち合わせたように、まずレルが正面から走り込み鼻面に一撃。
そして挑発。
ヤツが咆吼を上げながら立ち上がったところを、俺が横から、後ろ脚の付け根に蹴り。
揺らいだ瞬間に、横腹に一点に渾身の正拳突き
倒れてきたところで、俺が真逆の一点にこちらも全力の正拳突き。
まだだ。
言葉を交わさなくても分かっている。
こいつは心臓が左右に肋骨と同じ数だけある。
俺たちは左右から同時に連打する。
肋骨を折り、折れた肋骨をヤツの心臓叩きこむ。
レルが動き出してから1分もかからず決着が着いた。
その後は、冒険者組合に連絡し、獲物を回収してもらう。
20万ゼルほどの金になった。
俺とレルで20日ほどは喰っていける金額だ。
ちなみに、今回の魔獣だと、一級冒険者で2人がかりくらいのランクらしい。
まあ、能力アップした一級冒険者のレルが居るので、妥当な線だろう。
俺としてはもう少し安くても、怖くない獲物がいいのだが。
夜になる頃には、ランテさんと合流し、今回の状況と、今後について話し合った。
俺とレルの2人で、手配付きの魔獣を狩れる力があることが分かったため、金策のアテはついた。
そこで、まずは魔獣狩りをして金を稼ぎ、それから数日は、魔法とこの世界のことについて学ぶ。
半分くらい金を貯金して、次の魔獣狩り。
そのサイクルだ。
勿論、ランテさんには授業料を払うことにした。
固持されたが、そこは日本男子。
筋は通したいので、お願いして受け取ってもらうことにした。
ただし、出世払いで良いそうだ。
ランテさんは、気が強そうだけど、本当に優しい人だ。
美人に胸も大きいし。
とか思っていると、腕にチクチクと感じる。
ふと見ると、レルが頭の角で、おれの腕をツンツンしていた。
甘えているようだが、少し目が怖い。
血契主が意識しない限り、心は読まれない筈なのだが、そういうところは分かってしまうようだった。
「さてまず魔法ですが、水系から学んでいきましょう」
「はい、先生」
「何ですか、ケンゴ様」
「なぜ水からなんですか?」
「まず、便利で応用が利くことがその理由です。また、魔法の理論を説明する上で一番適していることということも挙げられますわね」
「ふむ。確かに、飲み水とは迷宮探索の時に必須だ。特に何日も籠もる探索では、水系魔法使いが居るととても助かった」
不思議、というか当然なのかも知れないが、レルも授業を受けることになっていた。
「イヤですわ。私のケンゴ様の、二人だけの甘い授業タイムを」
とランテさんは渋っていたが、
「レルは主様の契僕で切っても切り離せない。ランテがワガママ言うなら、別の先生探すぞ」
どっちが我が儘言ってるか分からないが、結局、先生1人と生徒2人のスタイルとなった。
机に椅子、おまけに黒板的なものまで用意された、宿屋の一室。
この世界でも、教室というのは似たようなものらしい。
「まずは水を出現させます」
そう言うと、ランテさんは、手に持ったコップを見つめる。
ちゃぷん。
そんな音を立てて、突然コップ一杯に水が満たされていた。
「おおっ」
「うふふっ・・・。本当の初歩ですわ。・・・さて、この水はどこから来たものでしょう?。はい、レルさん」
「え、えっと・・・。ランテの魔法・・・だから、ランテの頭の中・・・かな?」
「はい、マイナス100ポイント。違います。・・・正解は、大気の中です」
「むううっ」
「つまり、水の魔法というのは、元々どこかにある水を引き寄せるものなんですわ」
ランテさんの説明は分かりやすかった。
つまり、魔法というのは、何かを無から生じさせるようなものではなく、必ずどこかにあるものを集めて使うものらしい。
「ですから、例えば砂漠地帯では水魔法は弱まります。周囲に存在する水が少ないからです」
「ランテ先生、では、湖みたいに水がたくさんあるところでは、凄く強くなるということですか?」
「ある程度は。ただし、扱える水の量は、使い手の技量に依存します」
「限界があるということですか?」
「その通り。海に行ったからといって、無尽蔵な量の水を一片に行使できない訳です。魔王級にもなると、とてつもないスケールの水が扱えますが」
マオウ・・・とか、気になる言葉が入ったが、今は基礎なのであまりつっこまずに話を聞くことにした。
「また、扱える範囲も技量によります。私ですと、大体数キロ離れた水を呼び寄せられますが、初級者ならせいぜい10メートルぐらいでしょう」
「水を召喚しているみたいですね」
と、ランテさんが、パン、と両手を鳴らした。
「す、素晴らしい!!。先生、ケンゴ様に、ご褒美のキスしてしまいそうです。・・・レルさん、怖い顔で先生を睨んでも、ダメですわよ。・・・そう、元々、現在使われている魔法は、古代召喚魔導書が元になっているのです。そもそも今から1000年程前・・・」
「ランテ、そういう話はいい。早く実践を教えてくれ」
長くなりそうな話に、レルが割って入った。
俺は、ランテの話にも、ちょっと興味があったが、まずは実践という気持ちもあり、頷いた。
「・・・わかりました。それでは、解説はまた今度ということで」
ランテは、何やら紋章みたいな簡単な模様を黒板に書く。
「では、この紋章を見つめながらこう言って下さい。『水よ来たれ我が元へ』」
俺は、言われた通り模様を凝視しながら、言葉を発した。
「水よ来たれ我がもとへ」
と、こぶし大の球形の水塊な目の前に現れる。
視界をふさがれた途端、その水が落下し、派手な音とともに机を濡らしていた。
隣ではレルも同じことになっていた。
「あらっ、1回で出来るとは・・・」
ランテさんは、驚いたようだった。
特にレルが出来たことは、驚愕しているようだった。
「火鬼で、水魔法が使えるなんて聞いたことありませんわ。これまでだって使えなかった筈でしょう・・・。レルあなた、一体・・・」
「おそらく血契のおかげ。主様は器用なので、レルにもその恩恵が来た」