3.辺境の街 テクトールへ
初登場の冒険者 ランテ。
火鬼の契僕 レル。
そして「俺」 ケンゴ。
三者の視点で書いてみました。
テクトール。
多種族が集まる活気ある街。
道行く人はもちろん、巨大な蟲に引かれた乗り物「蟲車」も、走り回っている。
様々な商店や、食堂が建ち並ぶ中、私の居場所がそこにあった。
テクトール冒険者組合。
私はそこの一級冒険者だ。
質の良い冒険者が揃うことで名高いのが、このテクトール冒険者組合だが、その中でも私はトップクラスであるとの自負があった。
特に遺跡探索では私の右に出るものは居ない。
居ないはずだった。
それが、最近あの鬼姫のレルが、旧世紀の遺跡の最深部にたどりついたという情報が入ってきた。
ここ1年ほどはつるんで居た、土鬼のゴラとゼレが言うんだから間違いないだろう。
しかも目的を達成したらしく、500万ゼトもの大金を払って、パーティを解散したらしい。
私が唯一ライバルと認める存在だが、まさか先を越されるとは思わなかった。
ただ、私も今攻略中の迷宮を攻略すれば、彼女の鼻をあかしてやれるだろう。
それには、今のパーティではダメだ。
どこかに良い冒険者は居ないか。
組合屋敷から出ると、街を歩きはじめた。
と、街の様子が変なことに気付いた。
道行く人、特に女の視線が私の背後の方に集中しているのだ。
人間はもとより、亜人、魔人、獣人、皆同じ方向を見ている。
思わずふり返ると、そこにはレルがいた。
数ヶ月前に見たときと違い、髪と眼の色が濃い色になっている。
髪と眼が濃色なのは、美形の証。
しかも、どこか柔和な感じにもなっている。
最新の美容魔術かも知れない。
と、レルもこちらに気付き、手を上げて私に声をかけた。
同時に、レルよりの横に居た人間もそれに釣られるようにして、こちらを見た。
その瞬間、街の女の視線の意味がわかった。
いや正確にはそんなことを思う余裕などなかった。
な・・・
なんという美しさ。
あり得ないような漆黒の髪に、夜よりも深い瞳。
絹のような肌に、柔らかい曲線で構成された、顔。
とてつもない輝きを放つ魂。
こんな美形は絵の中でも見たことが無かった。
2人が近寄ってきても、私はその方に目が釘付けであった。
しかも近寄るにしたがい、感じられる、桁外れに芳醇なフェロモン。
初めて龍を前にした時を超えるくらい、膝がカタカタ笑い始める。
「・・・ンテ?。・・・・ランテ!」
レルの声にも声だけで反応するのが精一杯だ。
「レ、レル。」
ようやく絞り出した声も、喉が枯れすぎてババアのような響きになっていた。
「元気でいたか」
「お、おひさしぶりね、レル」
レルが何か答えるより先に私は続けた。
「こ、ここ、こちちらの、殿方は、ご友人かしら」
「あ、ケンゴです、はじめまして」
その方は、少しはにかみながら優雅に頭を下げた。
心臓が思い切り膨れあがり、喉から飛び出そうな感じがした。
内股になっているのは、膝が笑っているのを誤魔化すためではない。
子宮の奥から、蜜が奔流となって溢れそうな気がしたからだ。
「ララ、ラ、ラ、、、、ランテです。はじめまして」
このような方と出会いは、あと千回転生しても無いだろう。
なんとしてもお近づきになりたい!!
と、レルが続けた。
「ケンゴ様は、レルの契主様だ。レルはこの人と血契したんだ」
次の瞬間、私の意識を黒い闇が覆った。
レルは幸せものだ。
こんなに素敵に主様に出会えたし、夕べはあんなに可愛がってもらえたのだから。
一生この人に仕えられる悦びに、レルの足取りも軽くなる。
そんな感じで、普通なら街まで3日かかるところが、1日でたどり着いてしまった。
血契による力の底上げもあるのだろう。
途中、主様を肩に載せようとしたが、リハビリ代わりということで一緒に走ってこられる。
大草原を、主様と並んで走るだけで、レルは高揚感でいっぱいになる。
主様も、強化された力を楽しみながら試しているようだ。
街中に入ると、いつもと雰囲気が違う。
同業者であるランテなどから、レルはそういう事には鈍いとは言われるが、今日はその雰囲気が何を意味しているのか良く分かる。
主様の影響だ。
女達の視線が釘付けになり、石の様に固まっているのは、全て主様の輝きのために違いない。
勝ち得たものを誇ったりするのは、嫌いな方だが、主様に関しては別だ。
胸を張って、誇りたい。
と、良く見知った後ろ姿に気付いた。
そして、振り向いたランテに声をかけた。
身体が軽い。
朝から、走りっぱなしなのに、まったく疲れていない。
スピードも、かつての全速力を遙かに超えるものであったが、それを何時間も持続している。
しかも、走りながらレルと会話するする余裕さえあった。
昨晩のこともあり、ちょっとはにかんでいたようだが、すぐにうちとけた。
なんというか、心の一部が常に繋がっているようで、互いの感情がよく分かるのだ。
俺としては、自分でも驚くほどの精力でレルを抱き、レルも初めてだというのに激しく乱れた。
さすが火と鬼が付く種族なだけのことはある。
性欲や食欲なども、以前より上がっているのは、そういう欲望も能力の一つで、血契により上昇したと見るのが正しいようだ。
俺は、走りながら、さらにレルから色々と教えてもらった。
これから行く街はテクトールと言い、都市とまではいかないが、辺境地域ではかなり大きく、冒険の拠点としては理想的な場所らしい。
またテクトールは集まる種族の数も多く、混血種が多いことでも有名らしい。
混血というのは禁忌とされている場合もあるが、商業地域とか、都市とかではそういう考え方は古いというのが一般的とのことだ。
ただ、異なる種族が子を成すことは、とても稀で、しかもその子が生殖能力を持つケースは極めて稀らしい。
一方で、父親、母親からそれぞれ能力を継承するので、基本的には高能力というのが、混血種の特徴だ。
「天然血契の落とし子と、いう考え方もできる」
とレルが説明をしてくれて、ざっくりと理解できた。
そんな混血種がなぜテクトールに多いかと言うと、結局その能力の高さが冒険者向きだからだ。
レルの知り合いの一級冒険者にも混血種が居るらしい。
その一級冒険者、だが。
基本的には、五級から始まり、依頼をこなしていくことで段階的にランクが上がり、一級ともなれば、名指しで依頼が舞い込み、その報酬もかなりのものらしい。
レルは、元々強かったため、二年ほどで一級冒険者になったのだが、異例の大出世だったみたいだ。
俺はその理由がなんとなく分かった。
レルというのは力も強いが、知性も高いのだ。
色んな事を知っているし、理路整然とわかりやすく知識が整理されている。
冷静で、感情の流れが穏やかだった。
だからこと、夕べはその激しさにびっくりしたんだけどね。
えへへ。
で。
とりあえず生きて行くには、お金が必要。
お金を稼ぐには、一級冒険者であるレルとパーティを組み、報酬を受け取るのが良い。
そのためには冒険者登録をする必要がある。
ということで、街に向かっている訳で。
到着した。
建物は、石を主体としたもので、かなり高度に加工されている。
この世界の文化レベルの高さが伺い知れる。
街行く人達は、とにかくバラエティ豊かだ。
基本的には人型だが、純粋な人間はほとんど見あたらない。
角が付いていたり、羽が生えていたり、毛深かったり、耳が大きかったり長かったり、、、。
ざっと見回しても、全員違う種族にすら見える。
ひょっとしたら、この世界では、同じ種族でも個体差が大きいのかも知れない。
ただ、そんな中でも、男と女はひとめで区別がついた。
元の世界で言うところの男女差そのものだ。
胸が大きく、華奢なのが女。
大柄で、頑丈そうなのが男。
そんなところだ。
もう一つ。
この世界の女は、どうも動きがおかしい。
俺を見ると止まるのだ。
動きが。
周りの種族の見た目からして、眼と髪が黒いのが珍しいのだとは思う。
レルさんも褒めてくれたし。
ただ、男の方は、物珍しそうに一瞥するだけなのに対し、女の方は、文字通り
ぴたり。
と止まる者が多かった。
はっきり言って、かなり怖かった。
元の世界では、注目などされなかったし、注目される時は「ミスしたとき」「批判されるとき」と決まっていたのだ。
俺は、とりあえず大人しく、礼儀正しくしていようと決めた。
とはいっても、こちらの礼儀は良くわからなかったが。
ただレルとのやり取りで、そういう感性は元の世界とあまり違いがない気がしていた。