間話2.ダンゾーの話
はじめまして。
自分、ダンゾーっす。
自分は、自分の一人称で、親しい人には、「おいら」って言ってるっす。
自分は、この暗人の里の出身っす。
暗人は、暗殺や諜報などの任務を、各国から請け負ってきた一族っす
だから、自分も、物心ついた頃には、既に訓練を受けてたっす。
初めて人を殺したのも、その頃らしく、実は、自分でも覚えてないっす。
自分は、天才とか言われてますが、特に意識はしてないっす。
ただ、オリジナルの武器や、術を考えたりするのは得意だし、今までの諜報、暗殺の任務でも、手こずったことは無いっす。
正直、「手こずる」なんていうのは、単に準備不足の言い訳で、プロとしてどうかと思うっす。
あ、これは、他の暗人の方々には秘密っす。
それに、自分も他の方より、劣るところがあるっす。
実は、自分、暗殺任務そのものは、自動的に動けるっすが、終わって里に着いたあとは、すごく悲しくなることがあるっす。
殺しながら、泣いてしまうときも、あるっす。
特に、人の親を殺すときは、必ず涙が出てしまうので、ゴーグルを着けて仕事をしてるっす。
でもプロだから迷いは無いっす。
迷わず始末できるから、自分は生きてられるっす。
暗人のご先祖は、異世界から来た人で、その人の考え方が、現在まで引き継がれているらっしいっす。
つまり、自分を押し殺し、石や草と同じように周囲に溶け込み、任務を達成する・・・一言で言うと、そんな考え方っすね。
そのために、あらゆる手段で暗人は、自らを強化し、その一環として、多種族の血を取り入れて来たっす。
だから、現在の暗人は、族長以外、皆、混合種っす。
自分も、数十種の混合種で、長老からは『最高傑作』とか言われる時もあるっす。
自分は、族長に育てられたっす。
母親の事は知らないっす。
父親も知らないっす。
生死も、行方も、分からないっす。
里を抜けたのであれば、ひょっとして自分が殺した相手の中に、居たかも知れないっす。
だから、人の親を殺すときに、自分、泣いてしまうのかも知れないっす。
族長には、深い恩義があるっす。
自分みたいな、拾われっ子を育てて、生きる術を教えてくれた恩人っす。
それに、自分の名前も、族長がくれたものっす。
『ダンゾー』は、初代のご先祖様から続く、由緒正しいものっすが、先代の『ダンゾー』が死んで、自分が継ぐまでに、結構な年数が経ってたらしいっす。
どうやら、資格があるものしか、ダンゾーは継げないらしいっす
だから、名前をつけてもらった時、すごく嬉しかったっす!。
自分より、強い人?
まずは、族長、それから、アルミラの女王様っすね。
族長は、自分の全ての能力、特性、術を知ってるっす。
だから族長は、自分より強いっす。
女王様は、死なないので殺せないっす。
だから、死ぬ自分より強いっす。
それから、グランさんも、強いっすよね。
自分には分かるっす。
他に、自分が、殺せないと思える人に出会ったことは、無いっす。
え?
暗人で無ければ、何になりたかったかって?
・・・自分、商売をやってみたいっす!
あれは、面白そうっす。
うまくやると、人を殺さずに、喜んでもらえた上に、自分も利益を得られるっすよね。
自分、生まれ変わったら、商人になって、店を持って、お金を儲けて、殺さなくていい知り合いをいっぱい作りたいっす!。
・・・マジっすか?
これからは、里の任務をこなせなくなるってことっすか?
自分、お払い箱っすかね。
・・・え?、これからは、グランさんが、自分の雇い主っすか?
無期限で?
族長の許可も出てる??
商売もやらせてくれるっすか!?
夢みたいっす!!。
で、これから、何てお呼びしたらいいっすか?
先輩、でいい?
じゃあ、グラン先輩、末永く、よろしくお願いするっす!
「まさか、三百年も前に、召喚されていたとはな」
「私も、まさかお仕えしていた方と、別世界で数百年ぶりにお会いするとは、夢にも」
「本当に、腐れ縁ってやつだな」
「はい。・・・今は、ディムス、と名乗られていたのですな」
「ああ。グラン・ディムスだ。しばらく前まで、冒険者をやっていた」
「存じ上げておりましたよ。双剣のグラン、と言えば、高名ですからな」
「そうか。俺の方も、冒険者をしている頃、この里のことを耳にしてな。あまりにも、『忍び』の世界と似ているんで、もしや、と思っていたのだが・・・。あのダンゾウが生きていたとはな」
「私とて、まさか二刀を使う剣客が、あなた様などとは」
「・・・お前、『不老』か?」
「いかにも。そして、この世界に根を下ろして、『ダンゾウ』は死ぬことに致しました。今はただの暗人でございます」
「・・・懐かしいな。覚えているか、あの魑魅魍魎達を、始末していた時のことを」
「忘れてしまいました。覚えているのは、あなた様のことと、忍びの心だけです」
「そうか。一番、忍びらしくなかったお前が、忍びの心、ときたか」
「ふふふ・・・」
「ふふ・・・。で、ダンゾーのことはいいのか?」
「おまかせします。ご自由に」
「あいつの話を聞いた。気に入った。もう手放さんぞ」
「もとより」
「・・・」
「・・・」
「また、遊びにくるよ。族長」
「お待ちしております。ディムス様」