2.鬼娘と血契(けっけい)
殴るのは鬼種族特有の血契儀式です。
別の種族だと違う行為とか。
ゴン!。
俺は全力で、レルさんを殴っていた。
どうも、火鬼の耐久力たるや、人間ごときが心配するレベルでは無いらしい。
「もっと!」
ゴン、ゴン!
「もっともっともっと!!」
気がつくと、俺は汗だくになってレルさんの顔を殴っていた。
しかし、その顔は傷一つ無いどころか、眼をつむったまま、微笑みすら浮かべている。
何回殴ったかわからないが、渾身の一発が入ったようで、その瞬間、レルさんが叫んだ。
「それ!・・・来た」
・・・来た。
俺にも分かった。
何かが俺の中で声を上げた。
何か、熱いものが俺の中に流れ込む感じ。
熱い。
身体が熱くて熱くて、俺自身が火のようだ。
と、そのまま、天地が逆さまになると、意識が遠くなる。
小さくなる視界の中、レルさんが心配そうに俺をのぞき込んでいる顔が見えた。
大きい目。
黒い瞳。
あれ?、瞳は赤くなかったっけ?
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
目が覚めた。
意識が戻った瞬間、全身に強いエネルギーが満ちている感じがした。
ただ、足腰が立たない。
そういえば、血契の儀式?をしている時の、ふらふらになりながら拳をふっていた気がする。
気付いたレルさんが嬉しそうに近寄り、俺を抱きかかえるようにして水を飲ませてくれた。
・・・
レルさんの説明で大体事情が飲み込めた。
血契をするということは、「魂を一体化する」ということだそうだ。
そうすると、次のような変化が生じる。
・主となるもの=契主はその相手の特性、能力を身につけることができる。
・僕となるもの=契僕はその主の特性、能力の一部を身につけることができる。
・主と僕は、魂で会話ができる。
・主が生きている限り、僕は死なない。仮に死んでもすぐ生き返る。
・僕は主の命令に絶対従う。
つまり、一心同体みたいな感じだが、主の方が得、といったところだろうか。
で、レルが契僕となったおかげで俺が獲得した能力は、
・頑健
・回復5倍
・熱耐性
・怪力
・呪い無効
・格才
というものらしい。
「格才ってなんですか?」
「武器を使わず戦う才能だ。レルも素手で岩熊を狩ったりするのが得意だ」
「でも俺は、戦ったことなんかありませんよ。それに手足もこんなに痩せてしまったし」
「いや、主様はもうレルより強い。今は召喚と血契の影響で血肉が落ちているが、すぐに回復する。血契がうまくいく程、能力の共有が進むが、主様はレルの能力を全部持ったしな」
「でも、俺の能力は、レルさんにわたったんですか?」
「レルは、黒い瞳と髪をもらった。とても綺麗だ。それに、なんか細かい動きが得意になった」
うーん。俺の能力って、器用さだったてことか。
ぱっとしない。
「それに、レルの能力も底上げされた」
レルさんが言うには、主は僕から強度2倍で能力受け継げるが、主が能力アップすると、僕も能力アップするので、結果的にはレルさん自身も今までより最低1.5倍くらい強くなっているらしい。
つまり、血契の成立で、俺は「回復10倍」、レルさんは「回復7.5倍」持ちになったということだ。
それから、俺は色んな話をレルさんに聞いた。
特に、一番知りたかったのは、能力アップするとはいえ、主に逆らえない「契僕」という存在になぜなろうかとしたかだった。
どうも、レルさんはとある部族の跡取り娘で、他部族の跡取り息子と血契することが決まっていたらしい。
ただ、その相手がどうしても嫌だったレルさんは、故郷を飛び出し、雇われ冒険者をしながら、理想の相手を探していたようだ。
仮に、故郷に連れ戻されても、すでに血契を済ませていれば大丈夫だからだ。
誰でも一人の主しか持つことはできない、というのが血契の法則だそうだ。
「で、こんなに素敵な主様に出会うことができた。レルは本当に幸せだ」
どこが、気に入られたかは分からないが、黒い瞳や、髪が珍しかったのかも知れない。
ただ、人生初の「もて」という状態に俺は有頂天になっていた。
リハビリ生活が始まった。
どうも、召喚は、される側の体力を酷く消耗するらしい。
「そんなだから、例えば弱者が、強い悪魔を召喚なんかすると、気分を害した悪魔に八つ裂きにされてしまうこともある。それに血契も主様の体力の9割方を奪うので、、、おそらく今の主様は、瀕死に近い」
レルさんはさらっと、恐ろしいことを仰られる。
俺は、最初は介抱されていたが、さすがは「頑健2倍」と「回復10倍」があるおかげで、みるみる体力が回復していった。
というより、十分回復したと思った、その先の先まで体力が充実していく。
3日目に屋外で軽くジャンプしてみると、軽く3m程飛べる。
4日目に、レルさんと一緒に狩りに出かけた。
象ぐらいの大きさの牛と熊の混合したようなヤツが相手だったが、驚いたのはそいつの大きさより、炎を吐くということだった。
そしてもっと驚いたのは、そいつの炎を浴びても、まったく何ともないということだった。
熱耐性。
レルさんが言うには、一般的な魔獣の使う「天然」の炎レベルならほとんど怪我をすることなどないらしい。
しかも、血契により、俺もレルさんも熱耐性自体のレベルが上がっている。
レルさんは正拳一発で、その獣を仕留めた。
夜は、その獣のシチューだった。
夕食を食いながら、ひとしきり能力について話した。
「強いんですね。あんなでかいの一発だったし」
「いや、昔はもっとずっと時間がかかった。おそらく今日くらいの奴だと、一人では無理だったかも」
「血契のおかげで、強くなったのかな?」
「それもそうだと思うけど。でもそれだけでなく、主様の世界のおかげ」
「俺の世界?。・・・そういえば、レルさんの使った拳って、俺が元居た世界の、空手という武道によく似ていました」
「主様の記憶から学習できた。ブドー・・・というものか?。こちらでは知られていないものだ」
「俺の記憶?」
「主様が、眠っている間に、記憶が読み取れた。普通なら、主様が意図しない限り、僕は読み取れないのだが、、、。何分、瀕死だったし。」
「そうなんだ」
格闘ファンだったため、色んな武道の試合なんかを趣味で見ていたのを思い出した。
「それに、レルには強化された格才があるので、一度見た身体の使い方や、その理屈は自分のものにできる」
「すごいですね」
「でも、主様はレルより強化された格才があるので、もっと強いはず」
俺は、びびってしまって、昼間の魔獣に手を出さなかったことを少し悔やんだ。
血契により、ずいぶんと強くなっているらしい。
「さて、主様は、早く休むといい。良ければ、明日、街を案内する」
「あ、それは助かります」
俺は、レルさんに言われるまま、毛皮でできた寝床に入ると横になった。
「でも、これから俺、どうしたら良いんだろう」
独り言のようにつぶやく俺のそばに、レルさんが寄ってきた。
「主様、ごめんなさい。レルが召喚したばかりに」
「いやいやいや、どうせ、事故で死ぬところだったんでしょ?。むしろ召喚してもらって助かったんだし。でも知らない世界で、何をしたらいいのか。」
「それなら、レルと一緒に冒険者をやらないか?」
「冒険者?」
レルさんの説明によると、冒険者組合に登録することで色々な仕事を請け負い、対価を受け取れるらしい。
「これでもレルは一級冒険者だから、冒険者紹介権を持っている。主様を組合に紹介するので、登録すれば、一緒に働ける」
「そっか。」
血契前のレルさんで、それなりの冒険者ランクらしいから、俺でも通用するのかも知れない。
「それではお願いします」
「はい、主様!!」
それからしばらく、夕食の後片付けなどをしているレルさんの後ろ姿を見る。
巨体ながら、モデルばりにバランスの良い身体は見ていて楽しい。
ただ、元の世界のモデルよりももっと、筋肉があり、バストもヒップも立派だ。
セクシーな健康美というのだろうか。
プリプリしたお尻を見て、にやにやしていたが、すぐに眠気が襲ってきた。
・・・・
・・・
・・
・・・むちっ。
と、寝てしまっていたらしい俺の背中に、熱くて柔らかいものが触れた。
「?」
「主様・・・」
「レ、レルさん???」
「レルは、こんなことするの初めて。ただ、主様の記憶で知った、、、。恥ずかしくて嬉しいこと」
「い、いや、でもそれだからって」
「レルのこと、きらい?」
「そんなことないよ」
「じゃあ、主様の記憶にあった・・・恥ずかしいこと、レルにして。とても恥ずかしいけど、そうされたい」
「レルさん・・・・」
「・・・それにね、レルさんじゃなくて、レルって呼んで。レルは主様のもの。レルはそれも望んでいる」
俺の中で何かが灯った気がした。