13.アルミラでの準備
13.アルミラでの準備
蟲車で2日間ほど進むと、そこはアルミラだった。
アルミラ王国は、アルミリア王家に統治されている国で、ここはその首都にあたる。
人の濃度はテクトールとさほど変わらないが、商店の豊富さや規模、質は数段上だ。
さすが都会といったところか。
今まで見たことの無い人種も多い。
オープンカフェみたいな洒落た店もあるが、食べているものは、ごついパンと肉の塊だ。
これは、今のテクトールの方が文化的だ、と俺はほくそ笑んだ。
まずは、そのままアルミラ冒険者組合に挨拶に行く。
ちなみに、『空間認識』の影響で、道に迷うという感覚が無い。
一度通ったところがオートマッピングされるイメージだ。
とはいうものの、組合事務所は巨大なアルミラ城近く、つまり中心地にあったため、誰でも迷わなかっただろうが。
受付で登録を済ませて、組合長に挨拶をする。
組合長は逞しい中年の男性だった。
あちこちに傷跡が見られ、軽鎧も着込んでいるところから、現役の冒険者のようにも見える。
「お、ケンゴか。俺はゲントだ。ダスクの親父から話は聞いてる。よろしくな!」
と無精髭に、ごつい割には愛想がいい。
「それから、レル・・・にランテか?。・・・何だお前ら、少し見ない間に随分変わったな!。レルはちょっと人間っぽくなってないか?」
「レルは、こちらの契僕になった」
「なぬ?。お前がか??」
「ゲントさんお久しぶりです」
「おお、ランテ。お前さんも、なんか角が取れた感じだな。なんかいい男でも見つけたか」
「私も、ケンゴ様の契僕になりましたの」
「ええっ!?。・・・鬼姫に飛水の2人がか。・・・かーっ!、ケンゴ、お前さんやり手だな!!」
と、肩パンしてくる。
痛いって。
でも、気さくでいい人だ。
「あ、それから、手土産がわりに、王級蟲蛇の目玉です」
「これはすまないな!。助かるよ」
蟲蛇の目玉は高級治癒薬の材料だ。
こういう贈り物は、きちんとすることにしている。
人の関係は、いつどこで繋がっていくかわからない。
元の世界で、悪い意味でそのことを学んでいた。
色んな意味でお世話になるかも知れないのだ。
「そういや、親父から事情は聞いてたので、、不動産屋を見繕っておいた。前に世話をしてやったので、ぼったくるような真似はしないはずだ」
ほらね。もうお世話になった。
俺たちは御礼を言うと、不動産屋に行き、街の中心からはかなり外れた場所だが、大通り沿いに店を借りた。
2階が住居になっているタイプなので、ここを拠点に出来そうだ。
俺たちは手付け金を払い、鍵を受け取ると、荷物を下ろす。
もう夜になっていた。
そのまま、アルミラの酒場に繰り出すことにした。
ここは酒がうまい。
それだけは、テクトールどころか元居た世界より、遥かに高いレベルだと思えた。
種類も多いし、カクテルのような飲み方もできる。
俺は、少し甘いウイスキーのような酒を飲みながら、マンガに出てきそうな骨付き肉をかじっていた。
「そういえばさ、あのゲントさんなんだけど」
「はい」
ランテさんは、果実の入ったカクテルを飲んでいた。
というと、お淑やかな感じだが、もうジョッキで3杯目だ
「能力が無かったんだよ、ひとつも。あんな冒険者見るの初めてだけど・・・しかも組合長なんだ?」
「ああ、それはゲントさんが武装マスターだからですわ」
「武装マスター?」
「魔力や能力でなく、武器や防具の使い方に秀でた戦士のこと」
今度はレルが答えた。
こちらは、原酒に入った瓶にストローを差し込み、ちゅーちゅー吸っている。
「主様、ゲントは強いぞ。今の主様でも勝てないと思う。この3人で戦ってようやく勝機が出るかもしれないレベル」
「へーっ、そうなんだ」
レルは、お世辞を言わないし、過大評価も過小評価もしない。
なるほど、『判能』で見られるのは、その人の強さの一面にしか過ぎないってことか。
これはいい勉強になった。
「しかも、持っているものは全て、専用装備だという噂ですわよ」
「すぺしゃる?。絶対魔法具とは違うの?」
「ユニークはこの世に1品だけの品で基本的に魔法具。スペシャルはその人専用に作られた装備で、そういう意味ではこちらもこの世に1品だけと言えますわ。ただし、スペシャルは、長い間使い込むことで、使用者と霊的な繋がりが生じて、強化されることもあります。」
なにそれ!?
自分専用の武具を作れるの?
使い込むと強化される?
「それ興味あるね!」
というか俺も欲しい。
「では、時間があるときに、この街の鍛冶屋に行ってみましょう」
「それがいい。レルも興味ある」
うん。うん。
各自に、専用装備を作ろう。
それには、もっと稼がないとな。
俺は上機嫌で、肉にかぶりついた。
「あ、ケンゴ様、帽子が」
「おっと」
肉の骨にひっかかった。
帽子が取れたら、また騒ぎになるかも知れない。
現に、あちらこちらから、視線を感じる。
会話が途切れたタイミングを狙って、酒を片手に寄ってくるお姉さんも居るが、レルやランテさんの射るような視線で、退散していく。
しかし、次第に視線の濃度や、こちらにアプローチらしきものをかけてくる回数が増えてきた。
「そろそろ危ない」
「そうですわね」
レルとランテさんはうなずき合うと、俺の腕を左右から抱えるようにして、帰路についた。
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさいませ」
今夜は、俺とレルが同じ寝室。
ランテさんは隣の部屋だ。
「うふふー、やっと2人きりになれたー」
と、すぐにレルが抱きついてくる。
「レル、耳かきしてくれる?」
「はい、主様!!」
レルは、怪力の割に、耳かきとか細かい作業が得意だ。
『器用』持ちなんだから当たり前なのだが、女子力も意外に高い気がする。
「痛かったら言ってね」
「うん」
耳から伝わる心地よい刺激と、逆側の頬にあたる太股の温かさに、しばらく身をまかせる。
が、ときたま、レルの手が止まり始めた。
「あ、主様ぁ」
「ん?、どした?」
「あ、主様の息が、あたって切なくなる・・・」
そうか、俺の鼻息が、何か刺激してしまったか。
それならもう少し・・・、ふんふんっと。
「あ、だめぇ・・・レル、我慢出来なくなる・・・」
ふんふんふんっ
「い、いじわるっ!」
「えっちだな、レルは」
「主様のせい!」
そう言うと、レルは俺を抱え上げて、ベッドになだれ込んだ。
レルに押し倒されつつ、ふと壁を見ると、節穴が一つ。
店を契約したときは無かったものだ。
やはり。
ランテさんが空けたのだろう。
どうも、あの人は、俺とレルを覗き見るのが好きなようなのだ。
覗き見る背徳感。
大好きな方が、別の人と愛し合ってるのを見る時の、心の疼き。
そういうものを感じながら、自分で慰めているこの瞬間も、私の楽しみの一つになっていた。
だって、次の日には、必ず自分の番が来るのだから。
確実に訪れる幸せがあるから、私は「おあずけ」を享受している。
でも、今見えているあれ。あんなこと、私はされたことが無い・・・。
なんて、はしたなく扇情的ことをするのだろう。
恥ずかしいけど、明日、ケンゴ様におねだりしてみよう。
次の日、テクトールから森牛の枝肉が届いてた。
目論見通り、2日間かけて、ちょうど良い具合に肉が熟成している。
それに20個ほどの鍋と食器。
ちなみに、この世界でも、箸やナイフ、フォークなどはあった。
どうも、元の世界との繋がりを感じる時がある。
ひょっとしたら過去に、俺の居た世界からの召喚者が居て、文化を伝えたのかも知れない。
それから、適当に野菜も買い出す。
「今度は焼き肉では無いんですわね」
「ああ、ちょっと作ってみようと思うので、食べてみて」
俺は、鍋に湯を沸かすと、薄切りにした肉をくぐらせ、ピンク色になったところで、自家製のポン酢をかけて食べてもらう。
「おいしいですわ!」
「焼き肉と全然ちがう!!、まったりとしていて、それでいてしつこくない」
よしよし。
って、レル。そんな事まで俺から吸収したの?
「・・・これは、しゃぶしゃぶ、といって、俺の世界では結構高級な食べ物なんだよ。今回は、今までよりもう少し高級な感じでいこうと思う」
「なるほど・・・。こうやってお野菜も一緒に煮るんですのね」
「そう。それもお客自身にやってもらう。こちらの人手が少なくても済むし、お客さんも自分の好きな組み合わせで食べられる」
「組み合わせ、とは?」
「おそらくこういうこと」
レルは、ベストタイミングで引き上げた肉で、野菜をくるむと、ランテさんに食べさせてやる。
「・・・これもおいしいですわ!」
「ふふーん」
レルは自慢げに胸を張った。
「そう・・・、レルはケンゴ様の記憶を見てるんでしたわね」
少し悔しそうなランテさん。
「でも、これなら新しいし、こちらの人達にも受けると思いますわ。・・・ただし湯気をなんとかしないといけませんわね」
確かに。換気設備が無いな。
「そういう時は、このランテにおまかせあれ。開店までに、天井に水魔法陣を描いて、蒸気を転移させるようにしておきますわ」
「おお、それは助かる。お願いします、ランテさん」
「はい!」
そんな会話をしながら、水の魔法陣の使い方に、どこか引っかかるものを感じた。
悪い意味でなく、なにかのとっかかりのような感覚。
まあ、今はとりあえず開店準備に集中することにした。




