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『THE・GODTOOL』 ―ザ・ゴッドツール―  作者: 大噛モドキ
第一章 『不定形の男と硬鋼の大剣』
4/4

罵倒祭り開幕・閉幕・再開幕

「着いた! “カイラス” にやっと着きましたっ!」

「・・・ハッ」

「今鼻で笑う要素どこにもなかったでしょ!?」

「・・・ハッ」

「二回も笑うな!」




 ベリルとゲオンの二人組が、街道を歩き続けること十数時間。


 亀人族の老人が言っていた通り、地理も街の外観も“カーミラ“に非常に似通っている、“カイラス” へとたどり着いた。



 最初の数時間、ゲオンは殺気にも近い迫力を放っていたが、流石に今怒っていても仕方ないと彼は気づいたのか、途中から極端なほど静かになった。


 下駄に声かけたら殺されるんじゃないのかとビビっていたベリルにとって、これ以上の嬉しい事は他に無かったという。




「まずは宿屋に行かないとね」

「そうだな」

「言っとくけど、同じ部屋なんてお断りだから、別の部屋に止まってよ」

「・・・ハッ」

「鼻で笑われた!? というかもう三回目だし!!」




 ともかく二人はまず宿屋に行って部屋を――――無論別々――――借りると、腹が減っては戦は出来ぬ・・・という訳で、腹満たしということでレストランへと足を踏み入れた。



 昼時ということもあって割と繁盛していたが、幸い二人分の席は確保でき、お互いにメニューを五分ほど眺めてから決まったかと声を掛け合い、傍を通った犬耳のウエイトレスにゲオンは声をかける。




「はい、ご注文ですかー?」

「ああ」

「では、ご注文の品名をどうぞー」

「辛口パエリアとサラダを頼む」

「かしこまりましたー」




 そのあと数秒経っても注文がないことに気づき、ゲオンとウエイトレスが顔を同じ方向に向けると、まだ少し悩んでいるらしいベリルがう~んとうなっており、やがて迷ってもしょうがないと品物を決めたのか、注文を口にした。




「えっと私は、カレーライスとオムレツ」

「はい、カレーライスとオム―――」

「それと、ハンバーグセット5種全部にガロロ・カウのステーキ二つ。バジルブレンド以外のピラフ、フライドポテトにソース各種―――――」




 注文を口にした。




「あ、パスタもいいな! これも全種類。後、ポトフとシチュー、ポタージュに具沢山スープと、サンドイッチも追加して―――」




 口にした。



「ケーキの味はティータイプの物を全て! プリンもクリーム多めので、パフェだってもちろん・・・あ、ブルーベリーは除いてください! 以上です!」

「・・・わっふーん・・・」

「・・・(馬鹿猫が)」




 口にし終えた。


 余りの多さからか店員は素に戻ってポカーンとしており、ゲオンは一応口にしなかったものの、心の中で罵倒する。


 きっかり十秒ほど固まってはいたものの、何とか立て直したウエイトレスは、本当に微妙な笑顔を、ふたりへ向けた。



「かしこまりましたぁ・・・で、では・・・少々お待ちくださいー」

「うふふっ、はぁい」

「馬鹿が」

「はぁい!?」



 我慢しきれなくて口から漏れてしまったらしいゲオンの言葉に、ベリルは少々ムキになって睨みつける。だが、料理が来るのが待ち遠しいのか、すぐに笑顔へと戻っていった。


 その様子に毒気を抜かれたのか、それとも呆れただけか、ゲオンはそれ以上は何も言わずに黙り込む。





「馬鹿猫娘が。あんな馬鹿な量を頼んで払いきれる金があるのかとか、馬鹿だから全く考えてないのかもしれんが、馬鹿なお前でも食いきれるのか馬鹿猫」




 なんてことはなかった。数秒後に普通に罵倒してきた。




「ウニャッ!!? あ、あんた一回喋る内に何回馬鹿って言ったのよ!?」

「馬鹿だから数えられないか馬鹿が。“五回” だ馬鹿猫」

「今ので三回追加! 合計八回!!」

「数えたところで馬鹿は直らねぇよ馬鹿」

「二桁行ったぁ!? あと猫ですらなくなった!」



 

 怒涛の罵倒ラッシュに憤慨しながらも、ベリルはドカッと座ると同時に得意げな顔で指を立てて話出す。




「旅に出るときの為にと、お金はたっくさん溜めてきたのよ? だから当然お金もあるし、アタシ大食いだからもちろん食べきれるわ。神器を手に入れようと思っているのも、冒険者としての質を求めるためよ!」

「その神器がトンデモな代物有りだという可能性も出てきたがな」

「・・・言わないでぇ」

「馬鹿が」

「これで十一回目!! っていうかなんでまた口にしたのよ!?」




 ちなみに心の呟きを合わせれば十二回。最長記録更新中である。



 漫才のようなやり取りを繰り広げながら、お互いの料理が来るのを待つ。こういうレストランでは、本来ならば出来た順に届けるのだが、あまりの多さ故か料理の数が圧倒的に少ないゲオンの品から先に来た。




「お待たせしましたー、辛口パエリアとサラダになりますー。ごゆっくりどうぞー」




 見るからに辛そうな赤みがかったパエリアは、唐辛子にような辛味を持っている事で有名な “サピナ・ホーン” という犀のような原生生物の肉が乗っており、より一層辛さを上乗せしているのがわかる。



 辛口というか激辛と言ったほうがいいんじゃないかと思う程の威圧感を放つパエリアの登場と同時に、ベリルは目を見開いて注視し始めた。


 ・・・といっても、別にパエリアに驚いたわけではない。注視している対象は、パエリアと見せかけで実はゲオンである。



 理由はいたって単純、彼の顔が見たいのだ。

 

 服の高い襟により顔の下半分が隠れているのだが、食事の時はそれが邪魔となるであろう事はみるだけで分かり、つまり食事の時は口元をさらけ出すだろうと、ちょっとした好奇心によりベリルは注視しているのである。



 大きめのスプーンにパエリアと肉の塊を乗せ、見られているのに何の躊躇もなくスプーンを持ち上げて―――――




 その中身が一瞬で消えた。




「ニャオオォッ!?」

「イキナリずっこけるな、何だ馬鹿」

「ずっこけるわあっ!! そしてナチュラルに回数が増えたし!!」




 確かにずっこけるだろう。この男はどうやったのか、襟をずらさずに中身を食べてみせたのだから。

 もはやイリュージョン・・・ひょっとすると、所持している神器、獄焱・レーヴァテイン以外にも何か神器を持っているのではないか? と、そう思わせる程、どこか凄まじくおかしい芸当である。



 次から次へと消えていくパエリアにやっとこさ慣れてきた頃、なかなか来ない自分の料理をソワソワしながら待っていたベリルは、量が多いのかまだ半分残っているパエリアを見て若干嫌な顔となっているゲオンに、質問を投げかけた。




「・・・で、食べ終わったら、直ぐにカイラスの森林地帯へ向かうの?」

「何言ってやがる。その前にまずやるべき事があるだろう」

「やるべき事・・・ああ! 情報収集ね!」




 いくら兄弟土地とは言えど、全部が全部同じな訳ではないだろう。それに商人擬きに報復するのならばその人物を見かけたかも知らねばならないし、情報収集は冒険者の心得とも言われていることを思い出したベリルは、ポンと手を叩く。



 が、ゲオンはそれに渋い声を返してきた。



「情報収集? 違う、それじゃない」

「えっ? じゃあ薬草や携帯食料とかナイフの補充? それとも用心棒募集?」

「どれも違ぇよ」

「なんなのよ~っ!?」




 焦れるベリルに、ゲオンは呆れた声色で堂々と言い放った。




「昼寝だ、馬鹿が」

「堂々と言う事じゃないしぃ!? アンタに馬鹿って言われたかないわ!!」




 しかも、キリッ! と効果音がついてもおかしくない顔で言いきった為、なおさらゲオンに莫迦などと言われたくはないだろう。




(大丈夫かなぁ・・・いろんな意味で)




 出かける前から疲れた表情となったベリルは、レーヴァテインが微妙だったことも合わせて、この先がとても不安になるのだった。







 余談となるが、やっとこさ頼んだ料理が来た時。




「お待たせっ・・・しましたぁーっ・・・ハンバーグセット各種にサンドイッチですーっ」

「やった、キタキタ!!」

「はしゃぐな馬鹿が」

「あんたねぇ・・・もう自分が馬鹿って言える立場に無い事に気がついてないの?」

「そうだな、訂正しよう・・・・間抜け(・・・・)

「言葉が変わっただけ!?」

「どうでもいいから早くとってぇ! わふうっ!」




 罵倒記録再更新の叫びと、店員の悲痛な声が同時に響いた時、近くの人達は彼らの奇妙さ故にガン無視していたという。



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