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『THE・GODTOOL』 ―ザ・ゴッドツール―  作者: 大噛モドキ
第一章 『不定形の男と硬鋼の大剣』
3/4

地図の行方

 取り敢えず森の中で一晩明かした―――――無論別々のテントで―――――ベリルと男は、どちらもが持っていた本物っぽい(・・・・・)地図が本物なのかどうか取り敢えず確かめるべく、森から一番近い街によっていた。



 目的が同じだから共に歩いているの筈なのだが、何故だか男はベリルから微妙に離れた位置に居り、一応速度を落とせば近付き上げれば離れるものの、一定の距離を保ってそれ以上進もうとしない。


 しびれを切らし、ベリルは振り返って声を上げる。




「ちょっとあんた! なんでそんな微妙な位置にいるのよ!」

「ロリータコンプレックスとか言われたかないからな」

「ロリコっ・・・アタシはもう17歳だからね!?」

「嘘は吐くなよガキんちょ」

「嘘じゃニャいっ・・・あぅ」




 少女の背は(男から見れば)低いのでそう見られるかもしれないが、男の場合無機質に声を発して無機質に返しているので、本気でそう思っているのか誂っているのかが分かりづらい。

 その態度が、ベリルの怒りに拍車をかけるが、噛んでしまった為信ぴょう性が薄れてしまった。やっちゃったと言わんばかりに、ベリルの尻尾が垂れ下がる。



 街にやって来る前も、自身の抱いていた神器のイメージをバラバラに崩されたことによる精神的疲れから頭痛がしていたベリルだったが、このやりとりで精神的ダメージはさらに加速する。




 ともかく、まずは鑑定屋に行かなければ先にも進めないと苛立ちを必死に飲み込み、“Appraisal shop” という看板が掛けてある古ぼけた店の戸を開ける。


 内装も古ぼけており、カウンターに居る亀人族の老人は、椅子に腰掛けて新聞らしきものを読んでいた。


 老人はすぐにベリル達に気付くと、新聞を慣れた手つきで折りたたみ椅子を土台替わりにして向き合う。



「おや、お客さんかね。いらっしゃい」

「早速だけど、この地図を本物かどうか鑑定して欲しいの」

「俺のも頼む」

「なるほど、そうかい・・・それじゃ、お一人さま70カニア払って貰えるかね」




 カニアとは、地球で言う円硬貨やユーロ硬貨の事であり、硬貨の他にも紙幣というドル札のようなお金や、本物の金貨もある。


 二人共懐から七十枚づつ硬貨を出して払うと、店主の老人は少し待っていておくれと店の奥に消える。



 男が、錆びた様な色合いを持つ柄のみが見える『万変(ばんぺん)・レーヴァテイン』を壁に立てかけたのを見はからい、ベリルは男に少し近寄った。




「なんだ」

「えっと、色々あって言えなかったけど、今言わせてもらうわ・・・助けてくれて、ありがとう」

「まあ、放っておける状況じゃなかったからな。宝が見つからなかったから、ゴブリンどもで憂さ晴らしも出来たし」




 憂さ晴らしできたと言いながらも、やっぱり無機質な声色で話す男に、ベリルは苦笑しながら、尻尾を振り振り対応した。




「そういえば、まだ名乗ってなかったよね。あたしの名前はベリル、ベリル・ミュラス。アナタは?」

「・・・ゲオン、ゲオン・アルーザだ」

「ゲオンか・・・短い間だけど、よろしくねゲオン」

「ああ、ベリル」




 それぞれ自己紹介を終えたベリルとゲオンは、店主が戻ってくるまでしばし店の奥に繋がる扉を見つめる。

 そのせいで店主は二人の熱烈な(間違ってはいない)視線を受ける事になりビクッと反応したが、商売人魂からかそれとも慣れているのかすぐに取り直して、地図を二人の前に広げた。



「結論から言うとね、これは本物であって、本物じゃないよ」

「・・・ニャ?」

「どういう事だ爺さん」



 トントンと地図を叩きながら老人は説明しだす。




「地図の地理自体はあってるし、方角もこれで間違いはない。問題はここ・・・大まかな場所を示す土地の名前なんだけれど・・・本当はここよりも北の『カイラス』の鉱山に広がる森林の地図なのに、これは書き換えでもしてあるのか、名前のみがこの土地『カーミラ』の遺跡跡の傍になっているのさ」

「じゃ、じゃあ私が森を迷いに迷ったのは方向音痴だからじゃなくて・・・」

「書き換えられた地図のせいってことになるねぇ。尤も、『カイラス』と『カーミラ』は “兄弟” って言われるぐらい土地も街も似てるから、気づきにくかったんだろうけどね・・・」



 方向音痴になってしまったんじゃないのかとベリルは心配していたらしく、複雑な気分ながらもホッと息をつく。

 が、そこで老人がメガネを上げながらベリルの問い掛けた。




「そういえば、お連れさんの姿が見えないようだけれども」

「へ? ゲオン?」




 言われて振り向くと、先ほどまで壁にすがって腕を組んでいたゲオンが、いつの間にやら居なくなっている。


 一体どこへ・・・そう考えた数秒後、ドアが開いてゲオンが姿を現した。明らかに不機嫌だという事が分かるほど、眉を寄せ目尻を釣り上げている。




「チッ・・・」

「ど、どうしたの、ゲオン」

「ダメもとで地図を売っていた奴が居た場所に行ったんだが・・・もぬけの殻だった」




 どうやら、偽物であって偽物でない地図を売りつけた商人のもとへ行っていたようだったが、既にトンズラされていた様である。




「しかし、ただ騙すだけなら偽物を売りつければ良いものを・・・何故こんな複雑な詐欺商売をしたのやら」

「あ、そう言われると・・・確かに」




 恐らくその商人の元には、ベリルのような神器目的の人物や、ゲオンのようなトレジャーハンター達が、地図を買うために立ち寄ったはず。だ箸で商売するならわかるが、その商人は書き換えただけの地図を売るという、金銭的には得しない詐欺を行ったのだ。


 何故大幅な利益の見込めない商売をしたのだろうか。




「鑑定しただけの爺さんなら分かる。だがお前まで気付かないとはやっぱり馬鹿なのか? ベリル」

「うニャッ!? ま、また馬鹿って言った~っ!? 何でよぉっ!!」

「俺はお宝探しに、お前は神器探しに地図を頼りに行った。が、しかし、地図はここの土地の物ではないのでたどり着けるはずもない。そしてそれを知っているであろう商人は既にトンズラ・・・もう分かるだろ」

「あ! まさか!?」

「・・・そうだ、あの商人は偽物を売りつけ『自分だけ財宝を手に入れ、あわよくば神器も手に入れる』計画を立てていたんだろうさ」




 商人は地図が書かれている本当の場所を知っているので、頃合を見て抜け出せば誰よりも早く行けるだろうし、地図自体は本物なので鑑定士でもない限り熟練の者にも見抜きにくい。

 オマケに、先に誰かがたどり着いていても、財宝か神器のどちらかは手に入れられる・・・と、なかなかに考えられた計画であった。




「どどどどうしよ~っ!? まんまと一杯食わされちゃってぇ!?」

「・・・・」

「不幸な目に遭っちまったみたいだね」




 わたわたと頻りに耳と尻尾を動かして跳回るベリルとは対照的に、ゲオンは腕を組んだまま微動だにしない。


 だが、生暖かい風が隙間から入ってきたのを合図にしたかのように、ゲオンが口を――――襟に隠れて見えないが――――開いた。




「爺さん、この地図に書いてある本来の場所は、ここより北でいいんだな?」

「ん? ああ、北川の出口から出てまっすぐ行って、似たような木々の生えた場所がそこに相当すると思うがね・・・」

「感謝する」




 その言葉を言い終えるや否や、ゲオンは扉を開けて出て行った。


 これまでとあまり変わらないように見えたが、その背にははっきりと『怒り』が見えていた。



「あ、あの! ありがとうございました!」

「んにゃ、毎度。また来とくれよ」



 二人が出て行ったあと、老人は顎髭を摩りながら頻りに頷いていた。



(・・・今しがた思い出したんだけど、同じような事を言って地図の鑑定を求めてきた冒険者やトレジャーハンターが沢山いたんだよ・・・そう言う事だったんだねぇ)







 さっさと店を出て行ってしまったゲオンを慌てて追いかけたベリルは、北の出入り口付近で彼の姿を見つけ、駆け寄って呼び止める。




「ちょっと、ちょっと待って! 何に行くのゲオン。今から行ってももう財宝とか取られてすっからかんかも―――――」

「そうじゃない確率もある。それに賭けて俺はカイラスの森へ向かう」




 そこでベリルはハッとなった。相手は商人であり冒険者ではない。また、仮に冒険者だったとしても、全ての宝を持って帰れるわけではないし、たどり着けているかもまだ分からないのである。




「ゲオン、アタシも行く! 神器のことを諦めきれないから!」

「あと・・・」

「あと、何?」


「もし見つけたらちょいと(暴力)をしようとも、思ってな」

「そっか! ・・・え?」




 頷きかけたベリルだったが、話という単語に妙な響きがあったのを感じ取り、しかしその後何もなかったので、聞き間違えたかと気を取り直して歩き出す。




「・・・さて、財宝や談話(半殺し)を楽しみに向かうとするか」

「聞き間違えじゃニャかったぁ!?」




 やたらと物騒な空気を漂わせるゲオンの後から、尻尾をげんなりと垂れさせて、ベリルもついて行くのだった。




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