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『THE・GODTOOL』 ―ザ・ゴッドツール―  作者: 大噛モドキ
第一章 『不定形の男と硬鋼の大剣』
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伝説の正体

書き直しpart2です


 ゴブリンの集団に襲われベリルが窮地に陥り、通りすがりの男が謎の武器を携えて救った、その一連の装有働から数分後。



 後に絶命させたゴブリンの死体を運び終えたあと、新しい服に着替え終えたベリルと、彼女を助けゴブリンを他をした『神器』使いの男は、温め直した香草スープとパンを手に、焚き火越しに向かい合っていた。



 何でも男はトレジャーハンターらしく、『神器』とはまた違う金銀財宝を手にするため、遺跡群のあるこの森に来ていたらゴブリンの声を聞きつけ、たまたまベリルを見つけ助けたという訳らしい。


 ヘッドギアと高い襟で目しか見えないためゴロツキ的印象を受けるが、見知らぬ者とはいえ窮地に陥っていたベリルを見捨てるほど、非常な人物ではなかったようだ。



 スープを一口飲んだあと、未だ震えながらベリル顔を上げる。震えているとはいっても、その震えの主な原因は犯されかけた恐怖が大きく占めている訳では無い様で、ならば何なのかというとそれは男の腰に目線が言っていることから分から通り、今は傍に立てかけておいている『神器』のマチェテにあるらしい。


 何処か感動を含んだ面持ちで、マチェテをベリルは指差した。




「ほ、本当に……それって数ある神器の内一つ、“万変(ばんぺん)・レーヴァテイン”……なの?」

「どうもそうらしいな」

「抜いてみて、もらっていい?」

「……」





 別段隠すつもりも勿体ぶるつもりも無いのか、男は一瞬止まってから今一度鞘から剣を抜く。


 その “レーヴァテイン” と呼ばれた『神器』のマチェテは、抜くというよりは鍔元部分の突起を外すに近い感覚で鞘から出るのとほぼ同時、今までの静寂が嘘のように赤黒い奔流を吹きあげて刀身の形をとり、時に激しく時に静かに刀身を揺らがせる。


 刀身の峰側を形成する赤い奔流の色は、一般的に言う炎の赤でも花火の様な赤でもなく、さしずめ血の赤といったほうが良い色をしており、刃側として流れ形成している黒い光と、時折分かれている色が入り混じりグラデーションを作り出す所為も相まって、境界部分は若干濁った色にも見えた。




 旋律さえ覚える神器の名に恥じないを力を纏い、また不定形でありながらしっかりとした形を持つとも言う、矛盾した刃を持つその剣。



 ベリルが聞いた話では、万変という名の通り刀身を好きな形に変えることができ、その奔流の力は敵対する者を全て切り刻み、打ち砕き、肉片と化すという、神の名を冠するにふさわしい逸品だと噂されているらしい。


 所持者にも牙を剥きそうなほど禍々しい、離れていても圧力を感じると錯覚させるような刃を、しかしベリルは実物の『神器』を見れたからか逆に歓喜の表情で見つめている。



(いいな~欲しいなぁ……でも、神器は至高の武具なんだし、譲ってもらえるわけないよね……)




 見れば見る程、渇望すればするほどに、ベリルには男の持っている “万変・レーヴェテイン” が、見た事も無いのに他のどの『神器』より洗練された、戦闘特化で無駄のない『神器』にも思えてきた。



 だがベリルの見方も増長しすぎているとは言えない。



 刀身の形状は本人の趣味なのかシンプルで、柄部分はゴテゴテと宝石で飾りつけられず、炎とは違う赤と黒を混ぜた実に目立ちにくい色で大部分を塗られている、普通の農具よりも殺傷向きであり且つシンプルなフォルムを持っているのだから。


 ……そのフォルムは、『神器』の強さをより際立たせているようにも見える。


すると、あまりにジロジロ見ていたからかそれとも持っているのがいい加減だるくなってきたのか、男は隠す事も抑える事も無く呆れた溜息を吐き、ベリルの了解も取らずに―――元々彼の物だから当たり前だが――― マチェテの『神器』・“万変・レーヴァテイン” の刀身を消すと鞘にさっさと収めた。




「あ、ああぁぁぁ……」




 噴き出してしまいそうなくらい何とも情けない声を上げたベリルへ、しかし男は苦笑のくの字も無い無表情のまま、又も呆れの色を隠さず呟いた。




「こんなマチェテがそんなに羨ましいのか?」




 余りに自身の抱いている感情を隠さず、傲岸不遜とも思える感情を崩さず言い放つ男に、ベリルは怒った様な口調で詰め寄る。



「あのねぇ! アンタは『神器(レーヴァテイン)』を持っているからそんなことが言えるんでしょうけ熱っ!!」

「馬鹿が」




 焚火の上に顔を出した為に、熱せられた空気で火傷しかけてベリルは思わず顔を引っ込める。そんなちょっと間抜けな所業を見て男は今までも散々言ってきた言葉をぶつけ、それ受けたベリルは反論した。




「うっさい! ……『神器』を持っているから言えるかもしれないけど! 私は『神器』を持たず夢見るだけの平凡な一冒険者なのよ!? しかも『神器』は各武具毎に固有の力を持ち、どんな達人でも造る事の出来ない頑丈さを持って……そして、民間の伝承でも伝わるほどの力を持つ《至高の武具》! 羨ましいに決まってるじゃない!」

「……至高の、武具か……」




 男は鞘に収めたまま三度持ち上げて “レーヴァテイン” を眺めまわし、やがてため息ひとつ吐かず表情一つ変えず、もう一度自分の傍に置いてから、それを見もせずベリルへも視線を向けずに呟く。




「ハ……これが“至高”……ねぇ……?」

「!? このっ……!」




 鼻で笑ったような言い方をした男へと、ベリルはついに大きく怒りを露わにした。



 自分が持っていない物を持っているにも拘らず武器をぞんざいに扱い、憧れている者を踏みにじるかのようにせせら笑い、どれだけの実力があるかも分からないが此方の言う事を端から否定する。


 ベリルは特に人一倍『神器』へのあこがれが強かったのだから、そんな人物を見て怒りを抱かない訳もなかったのだ。



「これがって……!? あんた、そのマチェテの『神器』がどんな物か分かってんでしょ!? 刀身を古今東西あらゆる刃へと自由自在に変えられて、そのうえ本気を出せば立ちはだかる者を粉微塵とかす力の奔流を持つ、変幻自在にして破壊そのものである神器……刀剣司る神の武器、『万変(ばんぺん)・レーヴァテイン』なのよ!? それを “これ” 扱いって、そこらの武具以下の扱いって本当に何なのよ! ……そんなにいらないなら」




 ベリルは内から滲みだした怒りと欲望をさらに強め、その勢いのままに言い放つ。




「私によこ―――」







「変幻自在? んな訳あるか」




「せっ……て、え? ……えっ??」




 男が言った一言が聞こえなかったか、ベリルは目を白黒させて拳を握った格好のままストップし、怒りも欲望も納めてただ戸惑う。


 そんなベリルへと、男は軽く溜息を吐いてもう一度言った。




「『変幻自在なんかじゃあない』、といったんだ。こいつの刃は確かに形が変わるが、伸び縮みするだけだ。自由自在に変わるかよ。それに伸びて形を変化させた所で、結局は“長さ” が変わっただけだろうが」



 詰まる所、“万変・レーヴァテイン” は伸び縮みはするけど基本の刀身の形からそこまで変わらないよ、ということらしい。


 渇望していた『神器』が持つ力の、その余りの真実にベリルは絶句した。


 だがまだ諦めきれないらしく、男にくってかかる。





「試してないだけなんじゃないの!? 本当は東方のカタナから新大陸のツヴァイハンダーまでいろんな形に」

「変えられない。同じことを言わせるな」

「う、ぐぅっ……」




 表情が分かりにくいので何とも言えないが、ここでベリルを騙したとしても余り利点が無いし、他でもない所持者本人がこういうのだから、伸び縮み以外出来ないというのは恐らく本当の事だろう。


 つまるところ、マチェテ状の刀身は男の趣味では無く元々のものらしい。


 『神器』求めて無謀にも飛びだして来た身として、ベリルは信じたくはなかったが、もしかして……と脳裏に閃く、“獄焱・レーヴァテイン” に存在する筈のもう一つの特徴へと希望をかけた。




「じゃあ伝承は大げさなだけで、本当は力の奔流を自在に操るための剣なのね」

「ああ、奔流か」

「そう、奔流!」




 この世界の魔法にも光球などを出す魔法はあるが、前にも記したようにこの世界の魔法は道具が無ければ十分な効力を発揮できず、おまけにそこらのものでは火力が足りないので大がかりな増幅装置が居るうえ、それは現代の火炎放射気の様なものだから持ち運びが辛く取り扱いが難しく、おまけに値段も高いので極論を言ってしまうと個人間なら魔法銃を放った方が手っとり早い。



 しかし、取り扱い自由でしかも破壊そのものである奔流を自由自在に扱える武具ともなれば、伸び縮みする刀身もより一番の特徴を押し上げる活躍をしてくれる。



 そう考え嬉しそうに身を乗り出すベリルに、男は大して興奮もせず静かに告げた。




「アレか……あんな『飾り』みたいな奴に何の意味があるのやら……」

「やっぱりそうだと思ったのよ、刃は伸びるだけだけど奔流も飾りで―――――――え?」




 ベリル、本日二度目のフリーズ。笑顔のまま固まったベリルをよそに、男は彼女へしっかり聴かせるように、再びベリルの幻想を砕く、真実の言葉を口にした。




「聞こえなかったか? 俺は『あんな奔流は飾りだ』と言ったんだ。この奔流……光なのか炎なのか分からん物で造られた奔流は、『あ、何か流れてるな』ぐらいの感覚しか受けねえ。精々一応の熱を持っているから冷めたものを温めるのに使えるぐらいだな」


「にゃ……」

「にゃ?」

「ニャンだってーーーっ!!??」

「うおっ!? いきなりデカイ声出すな!」




 衝撃の真実part2の暴露により、ベリルは固まったまま数秒間絶句、次いで弾けたように叫んだベリルに、男は少々睨みながら抗議するが、迫力という点では彼女の方が上だった。


 何とか男の言葉を脳内で消化してから、男へ―――今度は焚火を避けてから―――勢いよく詰め寄る。




「ニャニャニャ、ニャンで!? ニャンでよ!? 赤黒く噴き出してていたじゃニャいのよ!? っていうか謎の力じゃにゃいの!?」

「色の事なんざ知らんがな。作った奴に言え作った奴に」

「役に立つのそれ!?」

「立たなくもないが……はっきり言って『微妙』だな」




 微妙。本当にはっきり言われたその言葉に、ベリルは自身の抱いていた『神器』のイメージがボロボロと崩れていくのを感じた。


 悪足掻きとしてもう一度“レーヴァテイン”を抜いて貰い触ってみれば、確かに見た目と矛盾する程に激しさを感じず小川の流れの様で、少し暖かいので冬にはまぁ少しばかり熱いかもしれないがちょうど良いぐらいの温度を感じ、ショックで頭をヘヴィメタの如く振りまくる。


 ……ちなみに、時折僅かに揺らぐという現象に反し、刀身は意外と固かったらしい



 勿論ベリルは、男の所持しているマチェテの『神器』・ “万変・レーヴァテイン” が偽物であるという可能性も考えたのだが、謎の力の本流が剣の形を取りしかもそんな微妙な温度を持たせる武具など、どんなに神業を持った職人でも生み出せないため、完璧に否定することが出来無くなっていた。


 長ーく押し付ければ火傷をさせられる、伸び縮みが売りのマチェテ。それでは単なる『熱した刃物』と、伸縮性以外何が違うのだろうか。……いや、押し付けずとも少し触れれば火傷する熱した刃物の方が、まだ熱攻撃という点ではマシかもしれない。


 伸びて縮むのはそりゃ利点ではあるだろうが、神の名を冠する武器としては余りにもダサすぎる。……折角謎の力が刀身と化しているというのにこんな性能だという点も、その微妙さに拍車をかける。



 もしかしたら自分の狙っている大剣の『神器』らしい “黭鋼(おんこう)・エッケザックス” も、ただ丈夫なだけで重すぎて運べないだとか、ある一方向以外から攻撃を加えると崩れてしまうとか、そんな残念性能を持っているんじゃないかとベリルは疑ってしまう。




(まあ、リーチを誤魔化せるのは他のどんな武器にもない良い所だよね)




 そう考えて、ベリルは納得することにした。


 考えてみれば、弱肉強食の世界へと踏み込む冒険者や、数多の罠を潜り抜けなければならないトレジャーハンターにとって、思わぬ距離から攻撃できるのはかなりの長所とも言える。


 突き技なら、殺傷力のある切っ先が貫くべき相手を真正面に捉えるだけでいいのだし、流石に丈夫さは本当であろうから、その切れ味を持って周りのモノごとぶった斬る事もできそうだ。



 最初よりも大分減衰したが、依然『神器』へ抱く夢を捨てないベリルへ……







「オマケにこいつ、鋭利なフォルムで刃もあるくせに、妙な力の奔流が形とってる所為か『斬れない』し『貫けない』し、本当に刃物なのか疑わしいところなんだが……」





 ……男はさらなる絶望をはさみこんできた。



 その言葉で、ベリルは本日三回目のフリーズ。今度は食って掛からずに、ギギギと音がしそうなほど人形じみた動きで振り向き、ブリキで出来ているが如き口の動きで問いかけた。




「え……? え……? 斬れ、ない……? 貫けない……??」


「ん? あぁ……ゴブリンに攻撃を当てたとき気が付かなかったか? 俺はあいつらに打撃は与えたが、『斬撃は一度も』与えていない」




 そう、股間を打ち抜いた時も頬を打ち抜いた時も、最後に腹に当てた時も、ゴブリン達は皆『押されたように』後ろに飛んだのだ。


 もうお分かりであろう……彼の持っている『万変・レーヴァテイン』とは、それすなわち―――――







「伸びること “だけ” が利点の剣なのぉ!?」


「みたいだな」

「う……ニャーーーーーーーーーッ!!??」

「五月蝿ぇよ馬鹿が」




 噂に伝承で伝え聞く『神器』と、実物の『神器』のあまり残念な違いに、ベリルは気絶するかのように倒れ込んでしまったのだった

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