鑑定能力
駄文、散文ではありますがよろしくお付き合いをお願い致します。
お題は『鑑定能力』サクサク行きましょう。まず、鑑定能力の前提条件として世界が数値で表される事が可能である、という事象が必要となります。レベルであったり能力であったり技能などが数値化可能な世界ということですね。
デジタルなゲーム機が氾濫して久しい現在であればこの様な狂った世界もわりと抵抗無く読者に受け容れられるのでしょうが、現実的に考えると割とありえない状況です。
そもそも人間がアナログな存在であると言う前提条件というか常識というか、もっとこう根本的なトコロをギタギタに踏みにじっている感じがするのです。
さて、まずは何故その様な狂気の沙汰が現実に氾濫してしまったのかを考える必要があるでしょう。
前段にも挙げましたデジタルなゲームに数値化されたキャラクター達が登場し、ゲーム内の世界を所狭しと活躍したものが小説に取り込まれた物と考えるのが自然ですね。この場合の利点はわかりやすさにあるとけそけそは考えます。ゲームや小説といった閉じた世界では世界の全てを事細かに説明していっては、とてもではありませんが限が有りません。ゲームであれば容量をオーバーし、小説であれば冗長となりとりとめがなくなってしまいます。
そこでこの数値化を利用して、説明しなければならない部分を極端に省いてしまっている訳です。そしてこれは長所でもあり、短所でもあります。
説明が省けるからこそ、省いてはいけない説明を語り忘れてしまうというミスを誘発しやすくなるのです。
例えば武力100のキャラクターが出てくるのは構わないのです。敵だろうと味方だろうと関係がありません、彼、または彼女が何故武力100を持つに至ったかの解説やそれを維持する為の努力が描かれていれば何の問題も無いのですが、数値で明確になってしまっている分そんな描写を省いても彼、または彼女は武力100なのです。
これがゲームであれば強ユニットとしての存在理由がありますのである程度は許容されてしまうのですが、小説内でこれをやってしまうと作者の理想を読者に押し付ける事になってしまい、ご都合主義的な何でも有りな部分を強く印象付ける結果にしかなりません。
さて、それではそのゲームに数値化をもたらした原因は何になるでしょう?答えを先に言ってしまうと実はコレ小説なんですよ。
魅力的な小説がありその世界に心底魅了された読者が、自分もそんな世界の一部として遊びたいと考えた結果生まれたシステムが、数値を使い強さの目安をつけた世界であり、俗にテーブルトークアールピージーと言われています。それのデジタル化を行った物がRPG、前述していたゲームの元祖な訳ですね。
何というタイトルの小説が流行り、どんなゲームが生まれて等と言う具体名はここでは関係がありませんので調べたい人は勝手に調べてください。ここではそう言った流れがあったと理解できていれば構いません。
つまり、小説の世界を再構成しようとした結果が現在に至って再度小説に逆輸入されていると言う現象が起こった訳です。実に興味深い所ではありますがこれもまた今日の本筋ではなく、ここでけそけそが主張したいのは数値化とは世界を構成する為の舞台装置であり世界の舞台裏に他ならないという事です。
複数の人間と一つの世界を共有する為に用いられた公平を取るための装置が数値化なのであって、世界ありきの数値化なのです。
そんな世界の舞台裏と言うべき数字を覗き見る能力こそがこの鑑定能力に他ならないのです。ようやくお題に戻ってこれました。
主人公に与えられる事の多いこの能力ですが、はっきり言って異常な性能です。世界そのものと繋がる能力ですので全知全能どころの騒ぎでは無いのです。こんな能力が発覚すれば文明レベルの低い異世界では良くて権力者の飼い殺し、悪ければ異端として火あぶりです。
現代レベルの文明世界であったとしても異常者として爪弾きにされるのが関の山です。残された道としては、限りなく低い可能性を手繰り類稀なる英雄として名を馳せるか隠遁して俗世との関わりを捨て静かに暮らすかでしょうか。
そして、もう一つ異常事態が世界の舞台裏を覗くという性質上避けては通れない道であるメタ発言です。通常舞台役者が舞台に出演中に自ら「自分は今、役者としてこんな役を演じています」と発言する事が無いように、物語りには壊してはいけない壁と言う物が存在しており、それを壊す事を芸風としているのでない限りギャグであったとしても避けるべきものです。
それを鑑定能力を使う事によって主人公はメタ発言を繰り返し、自ら舞台裏を暴露し続けると言うとんでもないデメリットを持っているのです。
世界が判りやすくなるのは当然です、何しろ舞台裏の暴露を行っている訳ですからね。そうして、世界の秘密は主人公によって暴露され続けて非常にうすっぺらな物となり僅かな嘘すら許容されない厳密なものとなっていくのです。しかも、うすっぺらな為にその世界は非常に嘘臭く感じられるのに主人公の鑑定能力により嘘は許容されないと言う矛盾に陥る破目になるのです。
そもそも、鑑定能力という言い回し自体が胡散臭いのですがそれを言い出すとまた長くなってしまいますので今回はここまでです。
この文章があなたの一助になれば幸いです。
今回はいつも以上に長くまとまりの無いものになってしまいました。
お付き合い頂いてありがとうございました。
10/30誤字訂正しました。