第六話 捕虜?
「ぐああああああああああああああああああああ」
「うわあああああああああああああああああああ」
「誰か、誰かいないのか!?」
「早く、早く本隊に連絡しろ!」
「今やっているの!こちら第三班。応答よろしくお願いします。どうぞ」
『――――通じた!こちら本隊だ。一体現場はどうなっている。どうぞ』
「やった、通じたわ!こちら第三班!ただ今、第二関門までも突破されました!」
『何!?敵は一人のはずだろう。なぜこうも簡単に突破された!』
「一人ですが・・・・その一人が問題なんです」
『・・・・・・・・・・まさか。生徒会メンバーなのか!?』
「はい。しかも、相手はナンバー004。もはや我々だけでは太刀打ちできません!」
『ナンバー004。「謎人」の常磐京極か。くっ、だ、だが諦めるな!我ら放送委員会の名にかけて放送室は死守せねばならん!』
「で、ですが・・・・」
『弱気になるな!お前たちは桜坂高校のエリート放送委員だ!例え相手が生徒会だろうと劣るはずがない!』
「・・・・委員長。そうですよね、すいません。私、弱気になっていました。絶対ここは死守します。我ら放送委員の名にかけて」
『・・・・戸口』
「委員長。こんなときに言うなんて馬鹿だって笑ってください。でも、言います。私、委員長のことが・・・・・・」
――ドンッ
『な、何だ今の銃声は?・・・・・・戸口?どうした。応答しろ。戸口ーーー!』
「ふふふふ。なかなか、面白かった」
『き、貴様!常磐京極!』
「これからゲームが始まる。ちょっと、放送室。借りるよ」
『くっ、い、一体何を始めるつもりだ!クーデターでも起こすつもりか!』
「いや、綾瀬さんのデート争奪戦の予告」
・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・今なんと?』
「綾瀬さんのデート争奪戦の予告」
『・・・・・・』
「どうした?」
『・・・・・・聞いたか野郎ども!おお、何だ、そんなことならどんどん使ってくれ。うん、遠慮はいらない。私、放送委員会会長の名において全てを許そう。ああ、それと私はこれから用事があるので勝手に使ってくれ。さらばだ!・・・・・・・・早く、唯ちゃんを探せ!』
ポチッとな。
私はそのトランシバー・・・・ではなくて携帯の電源を切った。そして私の前に倒れる女子に視線を向けてみる。今は私のペイント弾をくらい、顔が爬虫類の警戒色と同じ色をしているのだが。
「・・・・・・」
「・・・・・・うう、委員長のバカ」
黄色に染まった顔から一筋の涙が流れる。
・・・・哀れだな。
あまりに哀れすぎるので、このまま放置するのも気が引ける。確かに相手が綾瀬さんでは分が悪いとは思うが、十分この子も美人と言える顔立ちなのだ。まあ今は少々、ドキツイ色をしているが、洗えば取れるので何の問題もない。
とりあえずポケットからハンカチを取り出し、その子に投げ出しておいた。
「・・・・何の真似?敵の施しなんていらないわよ」
「今日の味方は明日の敵。今日の敵は明日の味方」
「っ!」
「言葉なんて、いらない」
「う、う、う」
「じゃ」
そして私は走り出した。
決して振り返ることなく、走り出した。
ペイントが涙で取れかけ、すさまじい顔をしていた女子の顔を見ないため走り出した。
正直、怖かった。
ピンポンパンポーン。
『・・・・・・こちら、二年生徒会委員の常磐京極。連絡をするので、聞く。今現在、一年生徒会委員の綾瀬さんが赤ずきんの格好をして逃走中。綾瀬さんを捕まえた人は綾瀬さんと一日デートが実現。夢の国へとご招待。男子諸君、または特殊な趣味の女子諸君。ぜひ、頑張るがいい。ふふふふふふふふふ』
ピンポンパンポーン。
放送終了。
一瞬の沈黙。
と、同時に学校が揺れた。
すさまじい熱気だ。放送室まで声が届くとなると、全校の生徒及び教師が声を出しているとしか考えられない。いやはや、作戦大成功。綾瀬さんの学校での人気が嫌でもわかるというものだ。さすが生徒会の癒し。
しかし・・・・疲れたな。放送委員を軒並み倒すのも、あんなに長く話したのも久しぶりだ。
できれば綾瀬さんが淹れてくれたコーヒーでも飲んでゆっくりしたいところだが、綾瀬さんは今大変なことになっているだろうし、私にもそんな暇はないので仕方がない。早く綾瀬さんを探し出してその様子を映像に収めねばならないのだ。
やれやれ、サブキャラも裏方で大変なのだな。
そんなことを噛み締める瞬間だった。まあ、悠長にしている時間は本当にない。確かに護衛として高橋さんと香川さんがいるが、さすがの二人も桜坂高校の男子全員と女子少々には勝てないだろう。それに、もし遠藤などが綾瀬さんを捕まえてしまったら一大事だ。主に、遠藤の身が。
そう思い、放送室を出ようと後ろ振り返った。
しかし、そこで私の動きは止まる。
・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・しまった。
そんな言葉はもう遅かった。振り返った視線の先には――悪魔の姿があったのだ。
・・・・・・神谷涼。
「やってくれたね、常磐。君が何かを仕掛けてくるとは思ったが、まさかこう出るとは。どうしてくれるんだい?綾瀬さんを探すのがより困難になったよ。いや、それどころかもしかして他の連中が唯くんを捕まえるなんて事態になるかもしれない」
「・・・・・・」
「答えたまえ」
神谷が眼鏡を上げる。最終警告が発令されてしまった。
ため息をつく。
このピンチを回避するには一つの方法しかないだろう。
「・・・・・・すまない、神谷」
「謝って済むとでも?」
「いや、そのことじゃない」
「・・・・じゃあ、何のことだ?」
「このことだ」
袖口から取り出す閃光弾。
それを手にかけると同時に思いっきり床に叩きつける。
放送室に強烈な光があふれ出した。
「くっ、常磐!」
「私は、油断していた。でもお前もだ、神谷。相変わらず詰めが甘い。ふふふふふふ。では、さらばだ」
私は走り出した。
決して振り返ることなく、走り出した。
そして壁に激突した。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
光が収まり、放送室は元の明るさへと戻っていく。
目元を押さえる神谷。
額を押さえる私。
そして、目が合う。
「常磐、閃光弾を使うならお前はサングラスなどを装着すべきではなかったのかな?」
「・・・・・・」
「相変わらず、詰めが甘い」
「・・・・・・」
「それで、一体どうするつもりなのか、教えてくれるかい?常磐?」
「・・・・・・」
私はゆっくりと両手を挙げた。
ちょっと短くなってしまいました。話しの長さを調節するというのは難しいんですね・・・・。
このデート争奪戦はまだまだ続きます。飽きないような話を書いていきたいと思いますので、よろしくお願いします!