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サブキャラ!  作者: 緋色
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第五話 赤ずきんちゃんと狼

「うう、恥ずかしいですよ、高橋先輩。本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫!もう、食べちゃいたいくらいに可愛いから!ていうか、食べちゃっていい!?ねえ、食べちゃっていい!?」

「そ、そんな猛禽類のような目で言われると冗談に聞こえないです!」

「安心しなさい、唯。たぶん冗談じゃないです」

「・・・・・・・・え?」

「がるるるるる」

「って、え、え、え?な、何で舌なめずりしているんですか、高橋先輩!?わ、わわわわ!ちょ、ちょっと、そんなとこ触ったりしたらダメですったら!」

「楽しそうですね」

「高橋先輩だけだから!え、絵里ちゃんも見ていないで助けてよ!ヘルプミー!」

「ごめんなさい。この高橋先輩はちょっと止められそうにないです」

「そんな笑顔で言われても説得力ないよ、絵里ちゃん!」

「大丈夫です。ちゃんと唯の最後の貞操は見守っておきますから」

「見守るという言葉が放置という言葉に聞こえたのは私だけ!?というか、それならお願いだから見ないで!見ないでって!・・・・あう、あ、ああああああああ」


「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

 ・・・・・・これは、新手の拷問だろうか?

 給湯室で着替えている綾瀬さんとその手伝い(?)の高橋さんと香川さん。

 それにドア一枚隔てている生徒会室で待機している私たち男四人。

 ドア越しで聞こえてくる声はリアルに私たちの想像、もとい妄想を刺激する。さらに私から言わせてみれば、今起こっている出来事を私の手で記録できないのはもっと辛い。さぞ良い絵が撮れただろうに。至極残念だ。

「・・・・・・・・・・やはり覗くのはダメだと思うかい?」

 神谷が眼鏡を拭きながら冷静を装い、そう言った。

 恐らく皆が考え、そして誰も口には出さなかったことを。

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

 皆押し黙る。

 しかし、一番初めに池西は口を開けた。

「・・・・ダメだろ」

 さすが勇者池西だ。ここでその言葉を出せるとは。ただ、鼻血を出していなかったらもっと格好よかっただろうに。

「ダメ」

 とりあえず、私も付け加えておく。さっきデジカメを香川さんが持っていくのを見ていたから、後で見せてもらおう。しかし、この展開を予想していた香川さんには本当に脱帽だ。

 そして男三人の視線が沈黙を続けている遠藤に集まった。

 その遠藤は、まるで真理に辿り着こうとしている求道者のような表情だった。遠藤のくせに。

 そして目を瞑っていた遠藤の目が見開いた。

 遠藤の目は血走っていた。私としたことが二、三歩退いてしまう。

 それぐらい遠藤はキモかった。

「・・・・・・・・・・・」

「・・・・ど、どうした?」

 目を見開いたまま押し黙る遠藤に池西が恐る恐るといった様子で聞いた。さすがの池西も今の遠藤には引いているらしい。でも、池西。鼻血は拭いておいたほうがいいと思う。

 十五禁になりそうな顔をしながら押し黙る遠藤はついにその口を開いた。


「・・・・・・・・いや、透視できないかなぁって思って」


 神谷は全てを打ち砕くようなハイキックで遠藤の顔面を蹴る。

 池西は全てを粉砕するような左フックで遠藤のわき腹を殴る。

 私は全ての男が沈黙を余儀なくされる場所へとソフトボールの球を投げる。

 ズシュ、遠藤は300のダメージ。

 ドゴッ、遠藤は300のダメージ。




 グシャ。




 痛恨の一撃。

 遠藤に1000のダメージ。

 遠藤は力尽きた。

「・・・・・・常盤、それは酷くないかい?」

「・・・・・・俺も。少し遠藤に同情した。というより、どこにソフトボールなんてあった?」

 どこか痛ましげな顔をする神谷と池西がこちらを見てそんなことを言い出した。

 何を言うかと思えば。君たちだって攻撃していたじゃないか。

 それに。

「遠藤だったら、本当に透視しそうだった」

 哀れな目で遠藤を見る神谷と池西もそれには深く頷いていた。




 高橋さんが神谷と池西の喧騒を止めるために尊い犠牲(生徒会室の遠藤の机)を払って場を静めた後、香川さんは神谷と池西の両者を治めつつ、周りを巻き込むという最高の提案をしてくれた。それはおそらく、私などでは到底見つけ出すことのできないものだっただろう。さすが香川さん。そしてまさしく私が望んでいた展開だ。

 その提案を簡潔に言ってみよう。

 デート争奪戦。

 ・・・・簡潔すぎた。もう少し詳しく言えばこんな感じになる。

 一、まず、綾瀬さんが仮装して校内を逃げ回る。チケットはもちろん装備。

 二、その護衛に高橋さんと香川さん。綾瀬さんに近づく人間は皆殺し・・・・らしい。

 三、私たち男四人衆はその護衛付きで逃げる綾瀬さんを捕獲。

 四、見事護衛を倒し、チケットを持つ綾瀬さんを捕獲した男が綾瀬さんとデートに行ける。

 さて、ここで面白い事実に気付いた人はいるだろうか?

 ・・・・そう、綾瀬さんが仮装をする理由は何一つ見当たらない。

 ぶっちゃければ、仮装をする必要性など皆無なのだ。

 しかし、そこで神谷の口八丁が活躍。

 まず綾瀬さんが仮装をすることの重要性とそれによる生徒会の意義を長々と論じ、それによって生じる生徒会の利益と自分の欲望を熱く語ることによって、まるでそれが正論であるかのように信じ込ませていた。

 ふと、神谷が今まで騙してきた人たちの顔が浮かびそうになったが、意識して封印しておいた。

 最後に何かを刷り込まれた綾瀬さんがひたすら頷いていたのが、瞼の裏に鮮明に残っている。それを見て目頭が熱くなってしまったのは言うまでもないだろう。

 綾瀬さん。君は何て単純なんだ。

 



 足元にへばりついてピクリとも動かない遠藤を無視し、あの綾瀬さんの姿を回想していると目の前の給湯室のドアが叩かれた。どうやら着替え終わり、襲われ終わったらしい。

 ゆっくりと、ドアが開く――

 ――と同時にすさまじい勢いで閉められた。

「無理!無理だって!絶対変だもん!」

「何を今更。ほら、腹をくくりなさい」

「大丈夫よ!もう、可愛すぎて襲っちゃったくらいなんだから!」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・さて、行きますよ、唯」

「・・・・うん。ごめんね、絵里ちゃん」

「あれ?どうしたの?何か急に素直になっちゃって」

 ガラガラとドアが開く。

 何か悲愴な音に聞こえたのは私だけだろうか?

 出てきたのは香川さんと、赤い頭巾を目深く被りフワフワした可愛らしい服を着た女の子だった。

 まあ、演劇部の衣装を借りたと言っていたから妥当といったところか。

 目の前の、俯きながら顔を赤くする赤ずきんの綾瀬さんを見てそんなことを考える。

 そして両隣の異様な雰囲気に気付き、綾瀬さんからその二人に視線を向けた。

 神谷は震えている。

 池西は再び鼻血を垂らしている。

 ・・・・・・・重傷だ。

「そうか、ようやくわかったよ。すまない、唯くん。君の気持ちに気付いてあげられなかった過去の自分が僕は憎い」

「な、何ですか?」

 拳を握り締める神谷に怪訝そうに綾瀬さんは顔を上げた。

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」


 予想外だ。


 顔を上げた綾瀬さんの顔を見てそんな言葉が浮かぶ。さしもの神谷も開けた口が塞がらないといった様子だ。池西もその鼻血の量を蛇口全開並にパワーアップさせる。

 いやいや、まさか化粧をしてくるとは。

 普段化粧らしい化粧をしていない綾瀬はそれでも可愛かったのだが、化粧をした綾瀬さんはもはや人ではなかった。

 いつもよりも赤く瑞々しい唇。ほのかに赤く染められた頬。カールされた長い睫。

 ああ、これは危ないな、と私が思ったのと同時だった。

 神谷が綾瀬さんに襲い掛かった。

「きゃああああああああああ!な、な、な、何するんですか!いきなり!」

「・・・・・・・・・・。あ、ああ。すまない。あまりのことに脳がおかしくなってしまったようだ。だけど、これには君にも責任があると思わないかい?これはもう、僕の愛を受け取る準備は万端なのだと、そう言いたいのかと思ったよ」

「全然、一言も、言ってないです!何でそうなるんですか!?」

「赤ずきんの話しを知らないのかな?赤ずきんは一体何に食べられたと思う?」

「・・・・・・・・」

「そういうことだよ」

「た、た、た、助けて!」

 押し倒されている綾瀬さんはかなり切羽詰まった声で助けを求める。

 そして私と目が合った。

 放たれる無意識下でのウルウルビーム。しかも今の綾瀬さんの顔ではその効力は数十万倍までに跳ね上がる。

 ああ、これは堪えられない。

 私は無言で香川さんに手を伸ばした。

 香川さんは無言で私の手にデジカメを置く。

 そして私はアイテムを装備。

 使用。

 使用中。

「うえええええええええん。い、い、池西先輩!」

 最後の頼みの綱とばかりに池西の方へと綾瀬さんは視線を向けた。

 しかし、そこには池西などいない。

 そこには出血多量で倒れる『男』が一人いるだけだった。幸せそうな寝顔だ。悔いはないだろう。

「池西先輩!?い、一体何があったんですか!?」

「聞いてあげるな、唯くん。彼は自分の心に殉死したのさ。あれが男の生き様だよ。目を離さないでやって欲しい」

「は、はぁ。・・・・って、ど、ど、どうして先輩は離れないんですか!?そして私が顔を背けている間に手をどこにやっているんですか!?」

「気にしないで」

「気にします!」

 言い争いを続ける綾瀬さんと神谷。

 股間を押さえて倒れる遠藤に、満足そうな顔の池西。

 綾瀬さんをうっとりと眺める高橋さん。

 傍観を続ける香川さんとデジカメを回す私。

 さて、そろそろか。

「・・・・香川さん」

「はい?何ですか、常磐先輩」

 こちらに顔を向ける香川さん。

 そんな香川さんに私は笑顔を向ける。もちろん、口だけの笑いになってしまっていると思うが。

「ふふふふ。少し、用事がある。後はよろしく」

「いいんですか?神谷先輩が満足したらもうゲームは始まりますよ。常磐先輩も参加するはずではなかったでしょうか」

「面白いことをより面白くする。これは大切。サブキャラにはサブキャラの役割があるのさ」

「・・・・悪巧みですか?」

「そうとも言う」

 そして手元にあるデジカメを香川さんに渡して、もう一度口元だけ笑った。

 そんな私に香川さんはにっこりと笑う。

「頑張ってくださいね」

「そうするよ。ゲームはいつでも始めていい。じゃ」

 私はいつも通りの生徒会室を出ると、廊下を歩いて、ある一室を目指した。

 ふふふふ。さて、楽しませてもらおうか。



今回の話は長くなりそうです。

綾瀬さんのデートは一体誰の手に渡るのでしょうか。作者もわかりません。

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