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サブキャラ!  作者: 緋色
3/8

第三話 購買でのできごと

今回は生徒会の癒し、綾瀬唯視点です。

「うう、待ってよ、絵里ちゃん」

「早くしなさい、唯。唯の大好きなイチゴメロンパンが無くなっちゃいますよ」

「それは嫌!・・・・・・だけどさすがにこの人ごみを掻き分けて行くのは」

「・・・・・・確かに。そうですね」


 今、私は人生においてこれ以上にないピンチを迎えています!

 ・・・・・・いや、すいません嘘つきました。そこまで私の人生しょぼくないよ。

 まあ、だけどそれなりに一大事。

 今日はお弁当を忘れてしまって、申し訳なく思いながらも絵里ちゃんに付き合ってもらって購買でパンでも買おうと思ったんだけど、この人ごみ。はっきり言ってものすごい。見渡す限り人、人、人。

 四月に二回ほど買いに行ったことはあったんだけど、そのとき買いに行った時間は二時間目が終わった休憩時間。思ったよりも簡単にパンが取れて、これならいつ行っても楽勝かな、なんて思ったりして・・・・・・。でも、今の時間は昼休み。お昼どきです。ちょっと甘く見ていたよ。

 でも、どうしよう。まだ購買の場所すら見えていない。

「ど、どうしよう。絵里ちゃん!」

「・・・・・・仕方がありません。最終手段です」

 さ、最終手段!?

「そんなのがあるの?」

「ええ。少なくとも私はお弁当を持っています。つまり」

「つまり?」

 分けてくれるの?でも、それって絵里ちゃんに申し訳ないな。絵里ちゃんもお腹空いちゃうし、遠慮しないと。

「唯を見捨てる」

「見捨てないで!」

 お昼抜きは嫌だ!

 絶対授業中にお腹の音なるもん、私。

「いいじゃないですか。それなら、生徒会長か副会長に分けてもらえばいいんですから」

「えっ?で、でも、神谷先輩に分けてなんて言ったら『ようやく僕の愛に応えてくれるんだね。ありがとう。どうせならあっちの部屋で食べようよ』とか言われて密室に連れて行かれそうだし!」

「よくわかっているじゃないですか」

「池西先輩に言ったら『うん?仕方がないなぁ。ま、可愛い後輩のためだしな』とか言ってくれそうな気はするけど、その後すぐ後ろから『ずるいなぁ、隼人』とか言って神谷先輩が現れて大変なことになりそうだし!」

「ああ、そんな感じですね」

「だから無理!そういうわけで見捨てないでよぉ。絵里ちゃん」

 絵里ちゃんに見捨てられたら私もう今日は生きていけないよ!

「はぁ、じゃあ無駄話している時間はありませんよね。イチゴメロンパンは無理でも急げば焼きそばパンとかチョコデッシュとか定番物ならなんとか買えるかもしれませんよ」

「え、絵里ちゃん」

 心の友と書いて心友。

 ちょっと感動だよ。やっぱり神が私を見捨てても絵里ちゃんは見捨てないんだね。見捨てようとはしたけれど。

「ほら、急ぎますよ」

「うん!」




 で、急いだけれど。


「う、う、う」

「ごめんねぇ。もうほとんど残っていないのよ。耳ちゃんなら残っているんだけど」


 そういうわけだったりする。

 やっぱり物理的にあの人ごみを掻き分けようとすることなんて不可能だった。残っているのは耳ちゃんだけ。ちなみに耳ちゃんとは食パンの耳の部分だけを切り取って砂糖で揚げたもの。よく小さい頃三時のおやつで食べました。私的にも好きなんですけど、それでお昼を過ごせというのはあんまりだよ。

「本当にごめんなさいねぇ。はい、耳ちゃんおまけしといたから」

「う、う、ありがとうございます・・・・・・」

 購買のおばさんの優しさが目に染みる。決して悔し涙なんかではないのだよ。

「え、絵里ちゃん。今日は天気がいいし、外で食べよっか!」

 振り返って笑顔で絵里ちゃんに顔を向ける。絵里ちゃんが霞んで見えるのは、おばさんの優しさ故。耳ちゃん大好きだもんね、私!

「・・・・・・唯」

 ああ、でもなぜか絵里ちゃんの顔は霞んでいてもよくわかる。

「どうしたの?私もうお腹減っちゃったぁ。早く食べようよ!」

「唯」

「ほら、競争だよ。スタート!」

 猛ダッシュ!

 絵里ちゃんのその哀れむような目は、心の傷に塩を塗りたくられているような気分を受けるんだよ。

 お願いだからそんな目で私を見ないで、絵里ちゃん。




「あれ?あれって常磐先輩じゃないですか?」

 結局、猛スピードで走った私は途中で息切れして後から歩いてきた絵里ちゃんに追いつかれ、追い抜かれてしまった。そこで待っていてくれないのが絵里ちゃんだよね。ま、まあ私も絵里ちゃんを置いていってしまったけど・・・・・・あれは不可抗力ってことで。

 その後、外に出て食べるのに良いポジションを絵里ちゃんと探していると絵里ちゃんが突然ある方向を指差した。そこに目を遣ってみれば、確かにそこにいるのは常磐先輩。大きな木に寄りかかって雑草の上に座っていた。その横には大きな黒いゴミ袋。あれは何なんだろう?そしてあんなところで何をしているんだろう?・・・・・・ってお昼を食べている以外にないか。

「おーい。常磐せんぱーい!」

 大きな声で呼びかけると気付いてくれたようで、小さく手を振ってくれた。

 よかったぁ。もしかしたら無視されるかと思った。

 特にまだ場所も決めていなかったので、私と絵里ちゃんはそのまま常磐先輩のもとへ。近くに寄ってみれば先輩は確かに昼食であるパンを食べていた。


・・・・・・・・・・。


・・・・・・・・・・。


・・・・・・・・・・って。


 も、も、もしかして!と、常磐先輩が食べているのって幻のイチゴメロンパン!?先輩どうしてそれを!?

「すいません。常磐先輩。一緒に昼食を食べてもよろしいですか」

「うん、よろしいよ」

「ありがとうございます」

 ペコリと綺麗にお辞儀してその場に座る絵里ちゃん。

 私はちょっと放心していたりする。だ、だって常盤先輩が、あ、あのイチゴメロンパンを!

 そばに来て動かない私を不審に思ったのか、先輩はその変わらない表情のまま首を傾けた。 それに気付いて隣を見てみれば、ようやく絵里ちゃんがもう座っていたことを思い出す。私も慌ててそこに座り込んだ。


 常磐京極先輩。実を言うと私は少し苦手だったりする。


 男の人とは思えないほどの女っぽくって可愛い顔の持ち主。アイドルって言われたら絶対納得する。身長が普通の男の人と比べてちょっと低いのと、肩まである長めの髪も助長して、後ろ姿を見れば男だと思う人はまずいないだろう。正面から見て男だと言われても半信半疑と言ったところなんだし。

 そんな常磐先輩なのだけど、幾分その表情がほとんど変わらないから、何を考えているかわからないというかなんというか。あまり口数が多い先輩でもないので話をしたこともあまりない。もう生徒会に入ってから一ヶ月以上経つのに・・・・・・。でもでも、これを機に仲良くしないとね!同じ生徒会なんだし!

 ・・・・・・と、思う私だけど。どうしてもその視線はイチゴメロンパンに。

 そしてふと、視線を落として私の手元を見れば、そこにあるのは小さな袋に詰まった耳ちゃん。所謂、パンの耳。

 う、これは、あまりにも、不公平じゃないですか、神様!

「どうしたの?」

「へ?」

 思いっきり見当違いに八つ当たりしていた私は、いきなり常磐先輩に話しかけられてびっくりしてしまった。

 な、なんか間抜けな声が出たような・・・・・・。

「さっきから見ている」

「あ、え、えっとごめんなさい!」

 慌てて視線を逸らす私。明らかに不自然だ。

 うう、変な子だと思われる。

 そして気になったので、ちらっと隣の絵里ちゃんの方を見てみると、

 あ、呆れられている。

 あの目はなんかもう、私の心なんか全部見抜いちゃっていますよ、って目だ。でもさ、仕方がないと思うんだよね、絵里ちゃん!常磐先輩と私の昼食の格差を見れば!

「と、常磐先輩はイチゴメロンパンを獲得したんですね・・・・・・」

「うん、おいしいよ。これ」

 知っています!

 無表情のままパンを食べ続ける常盤先輩は実際においしいと思っているかどうかわからないけど・・・・・・まあ、本当に好きなんだろうな。常磐先輩、甘いもの大好きだし。コーヒーに砂糖を五、六個入れる人だし。

「・・・・・・・・そんなに欲しいなら、あげようか?」

「ほへ?」

 ああ、なんかまた間抜けな声が!

 しかも、先輩が言ったその言葉の意味を理解するのに少々時間がかかってしまった。

 くれるって、イチゴメロンパンをだよね?え、でも、それって。

「い、い、いや、先輩の食べかけをいただくなんてそんな恐れ多いことは」

「食べかけじゃないやつもある」

「そ、それってどういう――」

 私が言い終わる前に先輩はすぐ手元に置いてあった黒いゴミ袋を手に取った。

 実は私もちょっとその中身が気になっていたんだよね。

 先輩は手に持っていたゴミ袋を逆さにしてその中身を出す。で、出てきたのは。

「・・・・・・すごいですね」

 これを言ったのは絵里ちゃん。

 一人黙々と自分のお弁当を食べていた絵里ちゃんだけど、そのゴミ袋の中身が出てきたときにはさしもの絵里ちゃんも驚いてしまったらしい。いや、でも、これは驚くよね。普通。

 出てきたのは色とりどりのパン、パン、パン。

 チョコディッシュにクリームパンにカスタードパンにイチゴジャムパンにメロンパンにレーズンパンにアンパンにそして幻のイチゴメロンパン。

 ぜ、全部甘いものだし・・・・・・・・。

 それも一個じゃなくて一種類につきニ、三個ある。こ、これを一人で全部食べるつもりだったんですか、常磐先輩。なんか想像するだけで口の中が甘くなってくるんですけど。

 絵里ちゃんもちょっと口を抑えている。想像してしまったらしい。

「イチゴメロンパン、一つじゃないし。他のものもよかったら、どうぞ」

「え、で、でも。常磐先輩のお金で買ったものをタダでいただくわけには」

「いいよ、別に。私のお金じゃない。そんなこと言う権利は、私にない」

「え?誰かがくれたんですか?」

「いや、親の金」

 ぐはっ。

 なんですか、それ。お小遣いも親のお金だから自分は好きにできないってやつですか。私はもう、お小遣いというものになった瞬間でそのお金は自分のものだって思っちゃう派ですよ。 

 常磐先輩。偉すぎる!


 で、でもそれはやっぱり。

「いや、でも、ほら、あれじゃないですか。常磐先輩の親から貰ったお金で買ったものならなおさらいただけませんよ。常磐先輩の両親が常磐先輩のためを思ってくれたお金だと思うし。常磐先輩も、両親からいただいたお金で買ったものをそんなほいほいあげちゃだめです」

 いや、本当は喉から手が出るくらい欲しいんだよ!?だけどやっぱりタダでは貰えないし。 うう、私は耳ちゃんで我慢するもん。

 常磐先輩はというと、なんだか目をちょっと大きく開けている。たぶん驚いて、呆れている顔なんだと思うけど・・・・・・。うう、仲良くしようと思ったのに、変に意固地になってしまった。多分、生意気な後輩だって思っているんだろうな、常磐先輩。

 ああ、絵里ちゃん。お願いだからそんな呆れた目で見ないで〜。

「ふふ」

 突然声を出した常磐先輩の方を見ると、口元がにんまり笑っていた。だ、だけど目が笑ってない!怒っている?怒っていますよね?

「ご、ご、ごめんなさい。生意気なこと言っちゃって。本当は何があっても欲しいんですけどやっぱりタダというものには抵抗があるというかなんというかタダより高いものはないってお母さんが言っていたせいかどうかわからないんですけど無償という言葉にどこか弱い自分がありまして――」

 ああ、もう自分でも何を言っているかわからない。

 必死でなんとか機嫌を伺おうとする私の頭に常磐先輩は手を乗せてきた。

「な、何ですか?」

 何をされてしまうのですか?

 しかし、先輩は口元だけ引き攣った笑み?を浮かべたまま。

 私の背中に何か冷たいものが流れた。怖い。怖すぎる。

 絵里ちゃんの方をヘルプのサインを込めて見てみたんだけど・・・・・・絵里ちゃん、どうしてまた君は黙々とご飯を食べているんだい?昔に交わした固い友情の絆はどこへ!?

「ふふふふふ。君はいい子だね、綾瀬さん」

「はひ?」

 ああ、本日三度目の間抜けな声が!

 いや、でも、今はそれどころじゃなくて!と、常盤先輩。今何て言いました?

「そうだね。お金は大事」

「え、ええ。そうですね」

 よくわからない状況のためこくこく頷くことしかできない私。

 先輩はそんな私の頭の上を優しく撫で始めた。

 べ、別に怒っているわけではないんですか?常磐先輩。

「じゃあ、タダじゃなければ、いい?」

「え、ああ、そうです。私今お金持っていますし、先輩から買わせていただけますか?」

「それじゃあ、つまらない」

「え?」

 つまらないって何がですか?

「貸し一、ということで」

「貸し一?」

「いつか、返してもらう」

 そして、「ふふふふふふ」と目が笑っていないまま笑いを浮かべる常磐先輩。無表情だと何を考えているかわからないと思っていたけど、それは間違いだということがわかってしまった。常磐先輩がどんな表情をしていようとも私などにはその心理を読み取ることなど不可能なのだ。

 その常磐先輩の笑いに対して、私は「あはははは」と間抜けな笑いでしか返せなかったりする。

 も、もしかしてとんでもないことしちゃったのかな!?私?

 その後、笑い(?)を止めた常磐先輩は、雑草の上に転がっているパン(もちろんパッケージの中に包まれているパン)を半分ほどゴミ袋の中に戻したかと思うと、

「じゃ」

 と言って、立ち上がりそのままどこかへ去っていってしまった。

 呆然とする私。

 黙々と食を進める絵里ちゃん。

「え、絵里ちゃん」

「何ですか?」

 すごく切実な問題があるんだけどさ。

「あ、あのさ、もしかしてこれ全部くれたのかな」

 雑草の上にはチョコディッシュが三個。カスタードパンが二個。アンパンが一個。そしてイチゴメロンパンが五個。合計十一個の菓子パンが散らばっている。

 こ、これを残りの昼休みで食べるのはちょっと不可能じゃないですか?

 困惑する私に絵里ちゃんはにっこりと微笑んだ。

「お金は無駄にしてはいけませんよね」

「うぐっ」

「それで買ったものも無駄にするわけにはいけませんよね」

「あうっ」

「常磐先輩の好意を無駄にするわけにもいきませんしね」

「へぐっ」

 え、絵里ちゃん。何だか言葉の節々に棘が見え隠れしている気がするんだけど気のせい?気のせいですか!?

 そして、絵里ちゃんは同姓も見惚れるような極上の笑顔で

「頑張ってください」

 と言った。

 それから残りの昼休みで四個。放課後に三個。家に帰ってから四個のペースでなんとか食べきることに成功。口の中が甘甘になってしまったのは言うまでもない。

か、カロリーが気になる。それに、もうイチゴメロンパンは結構です。




 そして後日談。

 どうして常磐先輩がどうしてあんなに大量のパンを購買で買えたのかが謎だったんだけど、それは翌日、購買に行く先輩の姿を見て何かわかってしまった。

 ゴミ袋と釣竿を背負って購買へと赴く常磐先輩。

 せ、先輩!それってもしかしてお金払っていないんじゃないんですか!?


 桜坂生徒会。

 そこにいる先輩たちはみんなどこか面白いというか変わっているというかおかしいというか。一番変なのは生徒会長である神谷先輩だと思っていたけど、すいません間違っていました。

 一番変なのは常磐先輩です。



う、思ったより長くなってしまった。

小説は常磐京極(主人公)→生徒会メンバー他という順に視点を変えていきたいと思います。

なるべく読みやすいように短くしたいとは思っていますが、次も長くなってしまうかも・・・・。

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