第二話 今日も変わらぬ生徒会
生徒会メンバー全員登場によりちょっと長いですが、どうか読んでみてください!お願いします!
「あ、あの。せ、せ、先輩?」
「ん?どうしたの?」
「か、か、顔が近い気がしなくもないなぁーって思うんですけど・・・・・・」
「気のせいだよ」
「き、気のせいって。あ、あ、何で更に近づこうとしているんですか!?」
今日の生徒会室もやはりいつも通りだ。
扉を開けてまず目に入った光景は日々、生徒会室で繰り広げられているものだった。ただ、いつ見ても飽きないから良い。
生徒会室にこの二人しかいないことから、ここに至るまでの状況は容易く理解できる。恐らく生徒会室に一人で待機していたハンター神谷のところへ、無警戒なウサギさんのごとく綾瀬さんが来てしまったのだろう。可哀相に。
ぼーっと私が見つめる先にいるのは拳が一個入るか入らないかの距離まで顔を近づけている神谷。そして顔を真っ赤にしておろおろする綾瀬さん。
っと。綾瀬さんがこちらに気付いたようだ。
「あ、と、常磐先輩!た、助けてください」
「助けてって失礼だな。まるで僕が君のことを襲っているみたいじゃないか」
「実際に襲っていると思います!」
「気のせいだよ」
「き、気のせいじゃありません!ああ、それ以上近づいちゃダメですって」
必死に暴れる綾瀬さんだが、神谷に後ろから手を回されているため脱出不可能のようだ。
・・・・・・ふむ。どこかにカメラはないものか。
きょろきょろカメラを探す私に綾瀬さんは潤んだ目でこちらを見てきた。所謂「助けて!」光線。恐らく普通の男ならこの目を見てしまえばたちまち綾瀬さんに陥落してしまうだろう。いや、陥落したいと願うかもしれない。ただ、私の場合、好奇心の方が勝ってしまっている。
すまない、綾瀬さん。
ああ、そういえばまだ私の名前を言っていなかったな。私の名前は常磐京極。男らしい名前だが残念ながら私の容姿には合っていない。二年の生徒会役員だ。まあ、私のことはどうでもいいので置いておこう。
今現在、カメラ捜索中の私に絶えず視線を送ってきているのは、一年の生徒会役員、綾瀬唯。生徒会の癒しと言われる純粋無垢の女の子だ。髪はまるで綿菓子のようにふわふわで、肌は雪のごとく白い。その小柄な体格は小動物をイメージさせられる。綺麗というより可愛いに分類されるタイプだろう。クラスの中でも人気は高いらしい。容姿だけではなく、人望まで備えているのはさすが綾瀬さんと言ったところか。
そしてその綾瀬さんに暴行―いや、スキンシップをはかろうとしているのは我が生徒会会長、神谷涼。綾瀬さんとは対照的に骨の髄までドス黒く汚染された男だ。桜坂高校の覇者と呼ばれる異名を持ち、その風体は知的な印象を漂わせている。眼鏡をかけているのだが、実は伊達眼鏡。聞いてみれば、「生徒会長と言えば眼鏡だろう」と返された。そのときは激しく同意し、お互いに熱い握手を交わしたものだ。
現状を見ればわかるだろうが、神谷涼は綾瀬唯に惚れている。
四月の入学式に見かけたとき一目惚れしたとかしないとか。強引に綾瀬さんを生徒会役員にした後、このようにいつも口説いている。ただ、実際はあまりうまくいっていないようだ。原因としては神谷が綾瀬さんで遊んでいることと、綾瀬さんが戸惑っていることと、副会長によるものと、この三つ。最後の原因についてはすぐにその理由がわかるだろう。
我が高校の生徒会は本来、一年から二年までの各クラスから一名役員が選出されるはずなのだが、神谷の独断と偏見により実際に活動しているのは七人程度。他はただの生徒会役員という看板を背負っているだけで何もしていない。何もさせてもらえないと言ったほうが正しいか。使えない人間などいらないから、と神谷は言っていたが綾瀬さんから男を遠ざけるための策略ではないかと私は睨んでいる。まあ、多分それでも近づいてくる男はいろいろな方法で抹消されているのだろうが。
「と、常磐せんぱ〜い!助けてくださいよぉ」
神谷の顔を必死で抑えながら綾瀬さんが切なく声を出す。
庇護欲と言うのだろうか。それを突き動かされるような声だ。なかなかぐっとくる。仕方がないのでカメラを見つけたら助けてあげよう。
「カメラ、どこ?」
「え?カメラですか。確か遠藤先輩の机にあったと思いますけど」
そこで素直に教えてくれる綾瀬さんが素敵だ。
遠藤の机の中を漁って見れば確かにあった。インスタントカメラ。できれば本格的なカメラで撮りたいところだが、まあ今日のところはこれでいいだろう。
「・・・・・・ん、あった」
「ありましたか!じゃあ早く助けてくれると・・・・・って何をしようとしているんですか!?」
「思い出に」
「いや、思い出にじゃなくて!」
「ありがとう。常磐。綺麗に撮ってくれよ」
「ばっちこい」
「ああ、常磐せんぱ〜い!」
見つけても使用しないと意味がない。数枚撮ったら助けてあげるよ。綾瀬さん。
生徒会室に響くシャッター音。
カメラ目線の神谷はそれでも綾瀬さんを放さない。真っ赤になる綾瀬さんはもがくがやはり意味がない。
そんなとき慌しい足音が廊下から聞こえてきた。だんだんこちらに近づいてくる。
その足音がピタっと止んだかと思うと、大きい音をたててドアが開いた。
「てめぇ、涼!綾瀬に何してんだよ!」
「池西先輩!」
救世主降臨!といった感じの綾瀬さん。
ちっ、と舌打ちをする神谷。
シャッターを切る私。
そして怒鳴る副会長、池西隼人。
「ほら、綾瀬が嫌がっているだろうが!」
「君の見解で全てを決めて欲しくはないな、隼人。これは嫌よ嫌よも好きのうち、だ」
「俺の見解どころか世間一般世界一般でその行為はセクハラと呼ぶぞ!」
「失礼な。お互い合意の下ではどんな行為も正当と化すというのに」
「わ、私認めていません!」
「照れなくていいよ」
「照れてないです!」
ふぅ〜仕方がないなぁ、とため息を吐いた後、神谷は手を放した。
それにほっと息を吐き、すぐさま離れる綾瀬さん。そしてへにゃへにゃと言う効果音が最も合うほど地面に座り込んでしまった。よほど精神的に消耗してしまったのだろう。労う意味も込めて頭を撫でてやった。
「・・・・・・ナイスファイ」
「うう、常磐先輩」
撫でてあげているんだからそんな恨みがかった目で見上げてこないように。
「・・・・・・常磐。お前も何でカメラなんか撮ってんだよ。早く綾瀬を助けろよ」
「思い出って大事」
「いや、訳わからないから」
「気にするなよ、隼人。常磐はいつも訳がわからないぞ」
「お前は黙ってろ諸悪の根源」
訳がわからないとはひどい。私はただこの面白い光景を一つの絵として収めたかっただけなのに。・・・・・・「いつも」の部分は聞かなかったことにしておこう。
池西隼人。生徒会副会長のポジションにいる神谷の幼馴染だ。ちなみにそう言うと池西はへこむ。どうやら神谷の幼馴染として生まれたことが人生最大の汚点だと思っているらしい。あながち間違いでもない。高い身長と切れ長の目をしたワイルドな風貌をしており、一目見た分では怖がられることが多そうだ。実際によく子供に泣かれるらしい。
そんな池西はいつも神谷の魔の手から綾瀬を救い出している。それはもう姫君を救う勇者のごとく。勇猛に果敢に。なぜ隼人がそんなに綾瀬を構うのかは説明するまでもないだろう。神谷ほど嫉妬深くはないが男が綾瀬に近づけば機嫌が悪くなるし、綾瀬に見つめられると赤くなる。見た目と反して可愛い奴なのだ。池西は。
しばらく神谷と池西が言い争っていると、足音が二つ聞こえてきた。先ほどとはうって変わって静かな足音は生徒会室の前で止まり、再びドアが開く。
ドアの向こうにいたのは長く艶やかなストレートの髪をした女子と髪をボブカットにしている女子。高橋さんと香川さんだ。
「ああ、またやっているね。今日はどうしたの?」
「高橋先輩。聞く必要もないと思いますが」
「ま、そうだね。でもえっちゃんって淡白〜」
「そういう性格ですから」
「え、絵里ちゃん、遅いよ〜。教室に迎えに行ったとき用事って言っていたけど何かあったの?」
「ええ。唯を先に行かせたほうが何かと面白い―もとい楽しいかと思って」
「言い直しても意味は大して変わっていないよ、絵里ちゃん!わ、私たち親友だよね?」
「親友でも裏切らないとは限らないんですよ。唯」
「う、うわああああああん!」
ああ、面白い。面白すぎる。君は最高だよ、香川さん。
生徒会室に入ってきた二人の内、腰まで届くかというほどに伸びた黒髪の女子の名は高橋加奈。二年生で生徒会書記を務めていたりする。見た目は清楚な和風の美女と言った感じだが、中身はそれを全面否定するかのごとし凶暴だ。逆らう奴には鉄拳制裁。可愛いものには愛を注ぐが、醜いものには死を。そして付いたあだ名は怪獣カナゴン。それを言った者もすでに命はない。
そして黒髪ボブカットの女子は一年生徒会役員会計の香川絵里。やや冷たい美貌を兼ね備えている香川さんは日本人形のような印象を与える。その見た目通りいつも冷静沈着で尚且つ、静かな物腰だ。高橋さんの性格と香川さんの性格を足して二で割るとちょうどいいかもしれない。綾瀬さんとは中学からの親友らしく、いつも綾瀬さんで楽しんでいるのだそうだ。素敵な友情だ。
言い争っていた神谷と池西も高橋さんと香川さんが来たことに気付いたらしく、ようやく言い争いを止めた。二人とも何事もなかったかのように席に座る。
「さて、そろそろ仕事を始めようか」
飄然と語る神谷にツッコム人間は誰もいない。本来は池西の役目なのだが、どうやらもうすでにHPが足りないようだ。
各々自分の定期位置に座る。
ここで席順について少し説明しておこう。まず、生徒会室に入って正面から見える位置にある座席が生徒会長、神谷涼の机である。何気に豪華だ。そして右と左の二列に席が分かれており、右は神谷に近いところから綾瀬さん、香川さん、高橋さんだ。どうして神谷の近くが綾瀬さんかは言わなくてもいいだろう。そして左は池西、私、遠藤の順番だ。
座った自分の机には書類がちゃんと置かれていた。他の人の机を見てもちゃんと今日の分の書類が置かれている。どうやら先に来ていた神谷は綾瀬さんに手を出すばかりではなく、しっかりと仕事の配分もしてくれていたようだ。腐っても生徒会長らしい。
もちろん私はそれでも仕事をする気などさらさらないが。
カリカリとペンを動かす音だけが聞こえ始めた生徒会室で、綾瀬さんだけがその場から動かずまだおろおろしていた。それに気付いた高橋さんがペンを止め、眉を顰める。
「どうしたの?あやぽん」
「え、あ、あの。まだ遠藤先輩が来ていないんですけど、始めちゃってもいいんですか?」
シーンと言う効果音が聞こえるようだった。
静まり返る一同。
そして私がポツリと一言。
「・・・・・・・・忘れてた」
「ええ!そんなひどいこと・・・・・・」
「いやでも遠藤だし」
「ああ、遠藤だしな」
「仕方がないってあやぽん。遠藤だから」
「まあ、遠藤先輩ですしね」
「あう」
それで諦めたのか綾瀬さんも自分の席に着いた。みんなその後は特に気にするつもりもなく仕事を続ける。まあ仕方がないのだろう、遠藤だから。
カリカリ。カリカリ。カリカリ。
生徒会室では仕事中はあまり話さない。ペンだけを走らせている。結構みんなは真面目なのだ。私以外は。
私はというと、自分の分の書類を隣の遠藤の机に少しずつ回している。多分綾瀬さん以外は全員気付いていると思うが、それに何か言う人もいない。恐らく胸中では皆「ま、いっか。遠藤だし」と思っていることだろう。恐るべし遠藤効果。
「・・・・・・・・疲れた」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「えっ、何か飲み物でも用意しましょうか?」
何もしていない私の第一声。何もしていないが、何もしていないのはそれだけで十分精神力を要する。しかし、それに反応してくれたのは綾瀬さんだけだった。少し悲しい。
「うん、コーヒーお願い」
「はい、わかりました」
綾瀬さんは立ち上がり、隣の給湯室へと足を運ぶ。
生徒会室のドア続きになっている給湯室には簡易キッチンがあり、淹れ立てのコーヒーや紅茶を楽しむことができる。更には冷蔵庫も完備しており、冷蔵庫には果物や調理実習で作った食べ物が入っていたりする。暇だとわざわざこの給湯室でお菓子を作ったりもするのだ。まさしくここは桃源郷。最高のくつろぎ空間。
「・・・・・・・・お前何もしていないんだから自分でコーヒーぐらい淹れろよ」
こちらを睨みながら池西が言ってきた。
どうでもいいが、池西君。君は顔が怖いんだからそんな表情をすると皆が泣くぞ。そして私がコーヒーを淹れない理由など言うまでもない。
「・・・・・・面倒だから」
「あのな、その怠け癖なんとかしろ。というか面倒なことを綾瀬にやらせるな」
「綾瀬さんの独り占め反対」
「なっ、だ、誰が独り占めしてんだよ!」
「池西隼人。十六歳。獅子座のA型。趣味はバスケットと綾瀬さんの観察。特技はちら見の人」
「な、な、な」
「ほどほどにしないと綾瀬さん、気付くよ」
「べ、べ、べ、別に綾瀬なんかちら見してねぇぞ!」
それは全面肯定に等しい台詞だぞ、池西。
カリカリ音だけが聞こえる室内で立ち上がって叫ぶ池西の声はよく響く。
そして何かの破砕音が向かいの席から聞こえてきた。
私と池西は二人でその破壊音の元凶、カナゴンこと高橋加奈の方へと恐る恐る目を移す。そこで高橋さんは手に持ったシャーペンを粉砕していた。注意しておくが、へし折ったのではなく、粉砕したのだ。あの細い腕で一体いかほどの握力があるというのか。
「池西。ぎゃあぎゃあうっせぇぞ。こちとら集中してんだよ。次騒いだら――」
握り拳をゆっくり開いた。
パラパラっとシャーペンだったものが落ちる。
「――殺す」
ごくっと喉を鳴らす音が池西から聞こえた。しかし、不服なのか怯えながらも反論する。
「お、お、俺のせいじゃねぇだろ。常磐が変なこと言うから・・・・・・」
「いいんだよ。京ちゃんは可愛いから」
私にとって有利ならば偏見万歳である。
これ以上反論する勇気はないのか命の危険を本格的に感じたのか、池西は静かに座り、仕事の続きを始めた。
ピリピリした雰囲気がようやく納まったことで、誰もがほっと息を吐く。
―――その瞬間ドアが豪快に開いた。
「悪い!宿題忘れて居残りさせられちまった!」
・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・さよならだ、遠藤。
私は目を瞑り、静かに遠藤に黙祷を捧げた。
「あれっ、どうしたの?みんな。元気ないじゃん!・・・・・・ん?絵里ちゃん。その哀れむような目は何?」
空気が読めない男。二年の生徒会役員である遠藤達也はそのままぎゃあぎゃあと騒いだ。
神谷は十字を切り、池西は手を合わせている。
「・・・・・・遠藤。ちょっとこっち来い」
眠れる獅子が今ここに目覚める。
「ど、どうしたんだよ、加奈ちゃん。も、もしかしてご機嫌斜め?」
ようやく馬鹿も今の状況を悟ったらしい。残念なことに遅すぎるが。
「いいからこっち来い」
「え、あ、い、痛い。痛い!痛いって!う、腕が折れる!」
そのまま遠藤の腕を掴んだ状態で高橋さんは給湯室の方へと歩んでいく。そのとき、ちょうどお盆を持った綾瀬さんが給湯室のドアを開けた。
「すいません。みんなの分作っていたんで遅れちゃいました」
「ああ、あやぽん、ちょうど良かった」
「えっ、どうしたんですか?・・・・・・あ、遠藤先輩」
「ゆ、唯ちゃん!助けて!」
「え、え、え?」
「この馬鹿のことは気にしなくていいからね。すぐ終わるから私の分は机にでも置いといて。この馬鹿の分は捨てていいから」
「は、はぁ」
「納得しないで、唯ちゃん!騙されちゃいけない!って、ああ。閉めないで。お願いだからドアを閉めないで」
ぱたんっと無情な音がした。
そしてぐちょ、べちゃ、ごきっ、と本来なら聞こえるはずもない音が鳴り響く。
皆無言だった。言葉なんて何も意味をなさない。
私はとりあえず放心している綾瀬さんのもとへと行くとコーヒーと砂糖とミルクを受け取り、小さく「ありがとう」とお礼を言った後、自分の席へと戻った。
それで我に返った綾瀬が急におろおろし始める。
「え、え、何か私悪いことしました?」
「仕方がないんだよ、唯くん。全てはなるようにしかならないんだから」
「か、神谷先輩」
「君が気を落とすことではないのさ。ああ、コーヒーをいただくよ。ありがとう。僕のために尽くしてくれる君の心に僕も何か報いないといけないな」
「いやこれはみんなのために・・・・・・・・って。せ、先輩!私今両手が塞がっているんですけど!」
「大丈夫。僕が君の手となろう」
「意味不明です!」
コーヒーの入ったカップをお盆の上に乗せているため両手が塞がれている綾瀬さんに狡猾にも神谷が後ろから抱きつく。非道とはあいつのことを言うのか。それとも給湯室の破壊者のことを言うのか。
まあ、この状況を見逃すはずもなく、勇者こと池西隼人が立ち上がった。
「おい!こらっ、この極悪人!綾瀬から手を放せ!」
「池西先輩!」
「ふっ、また君が邪魔をするか。まったく、男の嫉妬ほど醜いものはないね。羨ましいなら羨ましいと言えばいいのに」
「べ、べ、べ、別に羨ましくなんてねぇよ!お、俺はただ綾瀬が困っているから・・・・・・」
「何を言うかと思えば。唯くんは照れているだけで困ってなどいないのさ」
「困っています!ものすごく困っています!」
「・・・・・・唯くん。僕のこと嫌い?」
何か色気のようなものを飛ばしながら物憂げな顔で綾瀬さんの顔を覗き込む神谷。
うっ、と詰まった後、綾瀬さんの顔が急激に赤くなる。確信犯だな、神谷。
「いや、あの、き、嫌いというわけじゃ・・・・・・」
「ほら見ろ!お前の出番じゃないんだよ、隼人」
「ああっ!騙された!」
「いいから、お前は手を離せ!」
ここも騒がしくなってしまった。
とりあえず私は喧騒を避けるため、この状況下においても冷静に仕事を進める香川さんの隣にコーヒーを持って引っ越した。
「隣借りるよ、香川さん」
「どうぞ。私の席ではないですし」
そして香川さんの左隣である、今はカナゴンとなっている高橋さんの席に腰を下ろした。コーヒーを机に置き、角砂糖を六個、コーヒーに入れた後、ミルクを四つほど加える。スプーンでぐるぐるかき回していると香川さんが横目でうわっ、という顔をした。
「・・・・・・そんなに砂糖とミルクを入れるんですか?」
「私は、苦いものが嫌い」
「ならコーヒーを頼まなければいいじゃないですか」
「コーヒーは好き」
「・・・・・・・・・・それはもうコーヒーという飲み物ではない気がしますけど」
よくかき混ぜた後、そっと口にコーヒーを運んだ。砂糖のジャリっとした食感を感じると、甘ったるい味が口の中で広がる。
「うん。やはり、綾瀬さんのコーヒーはおいしい」
「・・・・・・ツッコミませんよ。私はツッコミません」
何かぶつぶつ独り言を言う香川さん。
気にする必要もないだろうと、私は残りのコーヒーを堪能する。
生徒会室の喧騒から隣の給湯室のほうに耳を澄ませば、給湯室からはもはや悲鳴は聞こえなかった。もとより聞こえていなかった気もするが。
しかし、まあ、色恋ざわめく生徒会室。虐殺場と化す給湯室。皆が皆こうだと・・・・・・。
「ふぅ、だな」
「どうしたんですか?いきなり」
怪訝そうに香川さんがこちらを見てくる。私だってため息をつきたくなるさ。
「こうも皆のキャラが濃いと、平凡な私は目立たない」
「・・・・・・・・・・」
「まあいいさ。所詮、私はサブキャラだし」
コーヒーを最後までゆっくり飲み干した後、息を吐く。感無量。おいしいね、コーヒー。
「・・・・・・・・・・常磐先輩はそういう心配をしなくても大丈夫だと思いますよ」
「ふふ、ありがとう」
「いや、本当に」
真面目な顔で頷く香川さんに私は笑顔で返しておいた。ただ、笑顔など普段使わない表情のため、口元だけしか笑えなかった気もするが。
前を見る。三角関係はまだまだ続きそうだ。その横の部屋を見る。未だに破壊音は止まない。まったく、今日も相変わらず楽しい生徒会だ。
こんな感じで物語は展開していきます。
次回は視点が変わって綾瀬唯視点となりますが、基本主人公は常磐京極なので、お忘れなく。
あと、これからはこの半分くらいの長さで進むと考えてください。・・・・たぶん。