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【完結】偽りの華は後宮に咲く〜義賊の娘は冷徹義兄と食えない暗愚皇帝に振り回される〜  作者: 降魔 鬼灯
第一話 選秀女試験

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6/7

5弱点

燕燕の学習能力の高さに熱の入った蒼月は、珠蘭に施そうとして逃げられた教育も燕燕に施し始めた。

 

 後宮の歴史、複雑な血縁図、陰謀のパターン、そして政治情勢。


 大遼随一の大貴族だからこそ知り得る情報に燕燕の目は輝いた。メモを取ることは決して許されぬ、まさに秘宝とも言うべき情報に燕燕の目は輝いた。


(情報は金なり。こんな貴重な情報、一言一句漏らしてなるものですか。)

  

 珠蘭がこの十分の一、いや百分の一で良いから興味を持っていてくれていたならば……。 


 目の前の、美貌だけが取り柄の妹と瓜二つの少女を見る。辺りを払うような気高さに知性が加わり妹よりもはるかに母親である公主の雰囲気を纏って見えた。

 両親を知るものから見た時、逃亡した妹と目の前の義賊の娘。どちらが本物かと問われれればどちらを指差すのだろう。

 果たして自分の教育の賜物だけでここまで似るものなのか。

 僅かな疑問が蒼月の胸にちいさな染みを作った。


 完璧な礼儀作法に優秀な座学、燕燕の替え玉作戦は順調に見えた。



 しかし、天は彼女に壊滅的な欠点を与えていた。


 楽器に触れたことのない彼女は楽器の音すら出せなかったのだ。

 

 珠蘭が得意だったという二胡は弦が2本しかなく覚えるのは簡単に違いないと燕燕は考えた。

 それにここでも蒼月による厳格な角度と指を押さえる位置、弦を当てる場所全てが数値化されていたのだ。きっと、大丈夫。しかし……。

 ちゃんと弾いている筈なのに、二胡は「カスカス」「キーキー」という耳障りな音しか鳴らさなかった。


「二胡は音を鳴らすのに時間のかかる難しい楽器だ。試験まで時間がない。琵琶にしよう。」


 試験は二胡、琵琶、古箏、唄、舞の5種類から選べるはずだ。だとしたら、珠蘭の得意だった二胡にこだわる必要などない。


 爪の伸びていない燕燕は付け爪を付けて練習する。試験までに爪を伸ばさねばならない。

 今まで爪を伸ばしたことなどなかったから気付かなかったけど上流階級の娘は不便なものね。

 爪が引っ掛かりそうで気にしながら燕燕は伸びかけの爪を眺めた。


 右手の複雑な動きは難なく習得出来た。外向きに弾く「ピー」と内向きに弾く「パー」から楽器名がついたなんて初めて知ったわ。燕燕は深まっていく知識に満足していた。しかし。


「難しい右手の動きは完璧だ。しかし、何故だ、何故音が出ぬ。」

 頭を抱える蒼月になんとか音を出そうと強く弾く。

 ビィーン

 

 弦が切れる。


「力加減に気をつけろ。 強く弾けば良い音が鳴るわけではないぞ。弦の振動を最大限に引き出すための、適切な力加減と角度が重要だ。」


 しかし、この短時間では琵琶も難しい。あとは古箏。初心者でも音は出やすいが、21弦で複雑な操作を覚えられるのか。

 楽器は諦めて唄や舞に特化させるべきか。舞ならばこのものの驚異的な身体能力なら……。


「舞?」

 舞なんて見たことないけれど。燕燕は言われるままに舞った。

 だが……。


 何故だ、何故なんだ。目の前には頭を抱える蒼月。


「フハハハ、これは、舞と言うよりは、手練の暗殺者の暗殺術そのものだな。一切無駄のない動き、ある意味芸術だ。」


 失礼な。燕燕はいつの間にか窓から入ってきていた遊び人、風天に手にした扇を投げた。


 すんでのところで喉元の扇を剣で弾いた風天に燕燕は艶然と微笑みかけた。

 そう燕燕は学びましたの。令嬢たるや、いついかなる時でも優雅でなくては。

 そして己の矜持を揺るがす不届き者には制裁を……。


「まあ手が滑ってしまいましてよ。お兄様方、これが舞で本当によろしかったですわね。手練の暗殺者でしたら、一発で仕留めてましたわよ。」


 目の前のおっとりとしたこの令嬢の目の奥には『私が本気を出したら、わかってんだろうなこの野郎』というメッセージが見えた。

 目は口ほどに物を言う。この言葉を改めて実感した2人であった。

 

 舞は、舞だけは絶対にやめよう。蒼月は心に決めた。

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