3共犯関係
その時、窓からひらりと派手な着物を着た男が入ってきた。
「よう、蒼月! 今夜も相変わらず堅苦しい顔をしてるな~。お綺麗な顔が台無しだぞ。おっ、誰だその美人?」
酒臭い息を吐きながら現れたのは、街の遊び人にしか見えない男。
色白で女のような綺麗な顔をしているが、はだけた胸元からは隆々たる筋肉がのぞいていて、ただの優男ではなさそうだ。
手練の武官か何かなのだろうと燕燕はふんだ。
蒼月が呆れたように溜息をついた。
「……り、風天。夜遊びも程々にしてください」
燕燕は目を丸くした。このペラペラに軽薄な武官風の男に大貴族の当主たる蒼月が丁寧な言葉で話している。
しかしだ。この男、豪快に笑っているが、時折出る所作が非常に美しい。
大貴族の子息か、この美しさ、もしかしたら皇族の落とし胤なのかもれない。
風天は燕燕の顔を覗き込み、「ほほう、これは美しいな。逃げた妹御にそっくりじゃないか、蒼月。」と面白がった。
事情を聞いた風天は、ニヤリと笑う。
「いいじゃないか。だが、偽物の娘を妃にするわけにはいかん。後々バレたら皇族をたばかった罪で九族皆殺しになるからな。そこでだ。きちんと選秀女試験を受けた上で正々堂々と不合格になる、というのはどうだ?」
思案顔の蒼月の眉間にシワが刻まれる。そんな顔も魅力的なのだから顔が良いというのは得なのである。
「不合格?」
不正は嫌いだと顔に出ている燕燕を宥めるように頭をぽんぽんと撫でた酔っ払いが続ける。
「そうだ。王家は娘を差し出したという義理を果たせる。お前は才能が足りずに落ちた、として堂々と家に帰れる。ばれなかった暁には父黒燕の釈放も約束しよう。」
燕燕の目が輝いた。
「それなら乗ります。私、わざと失敗するのは得意ではありませんが、全力を尽くして落ちてみせます」
記憶力に自身のある燕燕にとって試験ならば自信がある。学ぶことは苦ではない。やってやろうではないか。
「よし。ただし、一つ問題がある」
蒼月が頭を抱えた。
「こいつは令嬢としての所作がなっとらん。茶を飲む仕草もほれこの通り」
蒼月が燕燕を指差した。
「確かに、酷いな。品性の欠片も感じられん。」
どう見ても品性の欠片も感じられない酔っぱらいの遊び人がこちらを見る。
チャラチャラした雰囲気の瞳の奥が一瞬冷たく光った。
「品性って。」
蒼月にはともかく風天に言われたくない。こう見えても、宮女試験に向けて礼儀も勉強したのだ。
「科挙や宮女ならば筆記試験の点数次第では及第点を貰えるかもしれん。だが、生まれながらの令嬢の持つ品格や余裕は感じられんな。これでは偽物だと一発でバレてしまう。」
風天が豪快に笑う。
蒼月だけでなく、この酒臭い酔っ払いの目にも粗が目立つらしい。
「 このまま選秀女試験を受ければ、間違いなく落選だ!王家令嬢の不名誉な噂もつけてな。王家は野猿を飼っているらしいとかな。」
野猿だと?笑いが止まらない風天に殺意が湧く。
「風天。笑い事ではありません。」
蒼月が胃をさすりながら抗議する。心底困ったその姿に燕燕は不安になった。少なくとも蒼月には私は野猿に見えるんだ。
「死罪を賜りたくなければ頑張れよ蒼月、燕燕。」
こうして、奇妙な共犯関係が結ばれた。




