2取引
半刻後。
燕燕は縄で縛られることもなく、蒼月の部屋で茶を出されていた。高価そうな茶器で出されたお茶を恐る恐る頂く。
馥郁たるこの豊かな薫りはさぞかし高級なお茶なのだろう。こんな機会二度とないに違いない、そう考えた燕燕はじっくり味わうことにした。
どうせ目の前の蒼月の気が変われば、この首と胴体は離れてしまうのだ。楽しめる時は楽しむに限る。
「ほう、この状況でのんびり茶とは、なかなか肝が座っているな。」
目の前の男がクツクツと笑う。
いや、敵に捕まったからにはもう成るように成れという投げやりな気持ちなだけだ。
それよりもさっき躊躇なく殺そうとした相手にこんな高級茶を振る舞う目の前の男の方が底しれない。
燕燕はなかなか状況を飲み込めなかった。
「燕燕とやら。君が言うように私もこの証拠には不自然な箇所があると思って調べていたんだ。」
父の冤罪証拠を持っていた蒼月だが、彼自身もその証拠に不審を抱き、独自に真犯人を探っていたのだという。
聞けば、裏には国家を牛耳っている皇太后派の影が見え隠れする為、慎重に行っていたと言う。
そんな最中に妹の珠蘭が姿を消した。選秀女試験を控えていることもあって、てっきり皇太后派に攫われたのだと思い探し回っていたのだが……。
「妹の珠蘭が男と駆け落ちして失踪した事がわかった。このままでは王家は『選秀女試験』を辞退することになり、皇太后派に粛清の口実を与える。父を助けたければ、お前が珠蘭の身代わりとなり、試験を受けろ」
そう、真相は厳しい試験勉強に嫌気の差した珠蘭が使用人と駆け落ちしたのだという。この薄氷を踏むような緊迫した状況でなんとも人騒がせなご令嬢だ。
「お断りです。選秀女試験なんて無理に決まっている。」
生まれた時から後宮に嫁ぐべく育てられてきたご令嬢でも逃げ出す試験なのだ。市井で礼儀作法も知らずのびのび生きてきた燕燕に務まるはずがない。
それに燕燕には官僚になるという夢があるのだ。ここ大遼には女性も厳しい科挙さえ受ければ官僚になれるのだ。
「父の無実を証明する証拠と、父の命。それと引き換えでもか?我が王家が失墜すればお前の父など見せしめとして即処刑されるぞ。無論お前もな。」
ヒヤリとする冷酷な表情、お前の父親などいつでも殺せるのだぞと喉元に刃物を突きつけられているような迫力に燕燕が唇を噛み締める。




