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【完結】偽りの華は後宮に咲く〜義賊の娘は冷徹義兄と食えない暗愚皇帝に振り回される〜  作者: 降魔 鬼灯
第一話 選秀女試験

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10最終話

合奏でのまさかの高評価に、燕燕は追い詰められていた。

 

 残るは最終選定、皇帝と皇太后による面接のみ。そして、この試験では運を試す試験という。


 せっかくだから暗愚だが、顔だけは良いと評判の尊顔を拝してやろうと思っていたのに皇帝は御簾奥に入っておりその姿は見えない。

 絶世の美女だが気の強そうな皇太后の姿だけが見えた。


 皇太后は、王家の娘が後宮に入るのを良しとしないはず。意地の悪い質問が投げかけられるだろう。


 しかし、しかしだ。その質問にきちんと答えねば何らかのいちゃもんをつけて王家を追い落としにかけてくるだろう。

 きちんと答えれば点数があがり、答えねば攻め込む格好の口実を与えてしまう。

 前門の虎、後門の狼とはまさにこの事ね。


 だが、一つだけ救済があるという。


 それはハズレの座布団に座った者は、試験の結果が良かろうと悪かろうと問答無用で落とされると言うなかなか画期的なシステム。

 願わくば、ハズレを引きたいものだ。


 大広間には、豪華な座布団が並べられている。その中で一つだけ、刺繍がほつれ、綿が偏って歪んだ座布団があった。


 あれ、なんだか怪しいわね。罠かしら、それとも燕燕は逡巡した。

 高貴な令嬢はあんなものに絶対に座らない。それに何かが隠されていて一筋縄では座れない気がする。

 座布団を選ぶのは家格順。私が座らねば、家格の低い柳惜月が座る羽目になるだろう。

 あんなにひたむきに努力していたのに、もったいないわ。


 あんな粗末なものに座れば、良家の令嬢としての品位がないあるいは、皇帝を軽んじているとみなされる恐れもある。


 燕燕は迷った末に、その歪んだ座布団を選び、優雅に座った。


 皇太后があら、あんな汚い席に……と嘲笑するように口角を上げたのがわかる。


 やった。正解かしら?燕燕はこころの中でガッツポーズする。


 だが、その座布団は綿が偏っているだけでなく、ボコボコと硬い何かが下に敷かれていた。

 痛い。燕燕は勝ち誇ったように笑う皇太后に抗うように、一際優雅に振る舞う。

 たとえこれが針のむしろだろうと、王家の令嬢として威厳をもって座るべし。

 体重を上手く分散させて上手く痛みを凌ぐ。歪んだ座布団だろうとこの私は優雅に座って見せるわ。


 皇太后からの諮問は他の令嬢達には最近の流行や美容方法などだった。

 しかし、燕燕にだけは四書五経からの一節を引用して答えよなど難しいことこの上ない質問をしていた。

 しかし、燕燕は今回ばかりは皇太后に感謝した。


 燕燕に最近の流行や美容方法などを聞いていれば、ボロも出ただろう。

 しかし、得意分野の四書五経となると、しかも、解説せよとかではなく、諳んじよなど。朝飯前なのである。

 立て板に水の如く、令嬢としての気品ある佇まいですらすらと応える燕燕に皇太后の方がタジタジとなっていた。


 質問に窮した皇太后が皇帝に質問はないかと尋ねた。


「母上、私にはこの様な難しい問いはわかりかねます。」

 

 御簾奥の気弱な皇帝の発言に皇太后が目を剥く。


「ただ、座布団の裏に『長』『半』いずれかの文字が貼ってありますので、私のサイコロの目で落とすものを決めましょう。これで半分に絞れます。」


 か細く話す典雅な皇帝の言葉に燕燕は耳を疑った。座布団の裏に合否が貼ってあると思っていたのに。

 格式ある選秀女試験の合否を、まさかサイコロの長半で決めるなんて。

 皇帝の雅な口調に騙されているが、やってることは下町の賭場、いわゆるチンチロリンである。


「陛下、さすがにそれは……。」


 皇太后が止める。


「運も実力のうちと申します。私も先帝の14皇子でありながら、長兄が次々亡くなったり、罪を賜ったりで、即位いたしました。母上も運がおありだ。運のあるものこそが後宮で生き延びるのです。そうでしょう、母君。」


 皇子や妃たちを汚い手を使って追い落としてきたと囁かれる皇太后にその何もかんがえていないような悪びれのない言葉が刃となって突き刺さる。皇太后の言葉が詰まった。


 しかし、この座布団がハズレであると思い、この痛い座布団に座った燕燕としては当てが外れた。


「では。」


 チンチロリン。豪華な黄金製のふたつのサイコロが黄金の龍が細工されたなんとも豪華な壺の中で綺麗な音を慣らした。


「これは……。偶数かな?奇数かな?」


 皇帝は暗愚と聞いていたが、足し算の暗算も難しいようである。 


「半でございます。」


 宦官が甲高い声で報せる。


「では、端から座布団をめくるがよい。」


 どうか、長でありますように。


「王珠蘭を、正三品・婕妤しょうよに封じる!」

 

 甲高い宦官の声に会場がどよめいた。いきなりの高待遇だ。


 負けた。燕燕はもうあの瞬間の事を思い出したくない。

 令嬢らしく優雅にすらりと立ち(本当は、中に仕込まれた謎の異物のせいで上手く立ち上がれなかったが、そこは根性で乗り切った)

 ボロボロの座布団をいと優雅にめくると、そこには胡桃やナツメ、栗などの果実がゴロゴロと転がり、(くそっ、これがあの異物の正体か、と天女の如き笑顔の影で密かに睨みつける燕燕の目には『半』の文字が……。)



 負けたわ。


 燕燕はそっと上座を見上げた。分厚い御簾越しに微かに見える皇帝・紫龍天の口角がわずかに上がったように見えた。


「大儀。そして、なんということでしょう母上。しかも縁起のよい胡桃や栗、なつめなどが敷いてある席を引き当てるとは、この幸運ぞ如何に。」


 皇帝の細々と頼りない声が聞こえる。ふと、その声が豪放磊落たるあの風天の声に似ているような気がしたが。

 あの筋肉隆々たる風天とこの雅びやかな風吹けば飛んでいきそうな、か弱きボンクラ皇帝が似ているのは落とし胤かなにか故なのだろうと考え直す。


 こうして、義賊の娘・李燕燕の、落選して終了するはずだった令嬢生活は後宮生活へと装いを変えて幕を開けたのである。





 ちなみに余談ではあるが、皇太后によりこの座布団のからくりを知らされた皇太后の息のかかった令嬢達はこぞって粗末な座布団に座った。


 しかし、果実が足にあたりその傷みにより、みっともなくひっくり返った為、その後合格者は出なかったという。


                  

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