第6話 クエスト達成
マーカスはヘレンと共に再び少年のもとへ訪れた。少年が文字を読めるならば、情報収集が捗る可能性がある。ダメで元々。そのくらいの感覚だ。
「さてどうしたもんか。とりあえず渡してみるか?」
「そうですね!説明のしようがないですし!それがいいかと!」
そうして2人は軽く相談すると、少年に紙を差し出した。内容は簡潔に、竜眼草を知っているか、場所も知っていたら教えて欲しい。とそんな感じだ。
紙を渡された少年は、首を傾げたまま2人を見つめてくる。これには思わず2人も首を傾げてしまった。
「これは、どういう意味だ?わからねえってことか?」
「その可能性もありますね!しかし、考え中の可能性もあります!」
「なるほど。あとはこっちを見定めてるってこともあるか。大事な情報だろうしな。」
「ですね!なのでもうしばらく待ちましょうか!」
そしてしばらくすると少年はあたふたし始め、首を振ったりバツ印を作ったり頭を下げたりしてきた。
「これは、今度はどういう意味だ?」
「私が思うに、知っていて情報を渡さないなら強気の態度を取るかと!そして情報を渡すことを禁止されているなら、素直に謝るような素振りを見せるだけかと!」
「これはそのどちらでもないな。つまり?文字が読めないって解釈でいいか?」
「おそらくそうかと!」
「なるほど、まあしょうがねえか。」
そんな会話をして、2人は少年の別れを告げて引き返した。
そして仲間のもとに戻ると、再び相談をする。
「ダメだった。やっぱり文字は読めねえみてえだ。」
「やはりそうでしたか。まあそれは予想できたことでしたし仕方ないかと。」
「だな。さて、問題はこの後どうするかだ。他に少年に伝わる方法を考えるか、諦めて自力で探すかの二択なわけだが。」
「それについてだけど、いいかしら。実は2人が離れてからもちょっと話し合ったのよ。他に方法はないかってね。それで、セシャが絵ならどうかって言ってくれたの。」
「絵か。確かにそれは期待できそうだな。」
「ええ。でもここにいるみんなは竜眼草の絵は描けないでしょ?特徴を聞かされただけだし、当然実物を見たこともない。しかも絵心があるのはバッジェスだけ。で、もちろんバッジェスは竜眼草の絵なんて描けないのよね?」
「そうっすね。見たこともないのは流石に無理っす。」
「そうなの。だから可能性があるとすれば、図鑑とか何か資料があればそれを取り寄せるってことになるんだけど。」
「なるほど。問題はその資料とやらがあるかもわからないし、あったとしても取り寄せるのにどれくらいの費用と時間を要するかもわからないと。」
「そういうことよ。それを踏まえてどっちにするかってことになるわ。」
「我々4人の意見は実はもう決まってまして、少年が持っているかもしれない情報に賭けてみようと。資料があろうがなかろうが、少年が知っていようがいまいが、時間がかかるのは変わらないですし、そもそも焦ってどうにかなる問題ではないので。」
「ならもう決まりですね!少年に賭けましょう!マーカスさん!」
「ああ、そうだな。闇雲に探すよりいいだろう。」
「ん。手紙は書いた。あとはギルドに届けるだけ。」
「なら後はお任せを!私の優秀な使い魔君に頼んじゃいましょう!」
「お願いします。あとはそうですね。これからどうするか、具体的にはこの場で留まるか、長期を見越して一度街に引き返すかを決めましょうか。」
その後、結局のところ街まで引き返すことになった一行は、無事に貴重な図鑑を手に入れることができた。手続きにすったもんだあったようだが、それはまた別のお話。
図鑑を入手するまでに要した期間は一ヶ月。
その間、森の浅層から中層にかけて入念に調査をしたものの結果は得られなかった。
そのためやはり少年に話を聞くべきだろうと、図鑑を入手してからは急いで深層へ向かったが、なかなか少年に会うことができずにいた。
それも考えてみれば当然で、そもそも少年に出会ったのは川で釣りをしていたあの日のみ。それ以外に手掛かりは何もないのだから。そのためできることはただ待つのみ。周辺を探索しつつ、機会を待った。
そうして深層にて5日ほど待ち、ようやく少年に再会できたのだった。
少年に接触するのは前回同様に、マーカスとヘレン。2人は逸る気持ちを抑えつつ、否、抑えきれずに少年に声をかけた。
「やあ、少年。久しぶりだな。元気だったか。今日も釣りをしているのか。相変わらず釣りが好きだな。それより俺たちのことは覚えているか?一月ほど前にここで会ったんだが。」
「マーカスさん!アホなんですか!耳が聞こえないの忘れたんですか!では少年!早速本題です!竜眼草って見たことありますか!これ見てください!えっと、あれ?どのページだっけ?」
マーカスが話しかけていたのを遮るように、ヘレンは身体を捩じ込んでまで本題に入ったのだが、見せるべきページを忘れてなんとも締まらない様子。
少年は何が何だかわからず首を傾げているが、マーカスはヘレンに呆れて首をすくめてしまった。ほんとこいつポンコツだよなという同意の気持ちで。その行為が少年の反感を買っているとも知らず。
そんなこんなで何とかヘレンは該当箇所を見つけ、必死にそこを指差しながら少年に図鑑を見せた。
すると意図が伝わったのか、少年は森の奥を指差した。
「え!そっちにあるんですか!少年!本当ですか!やった!やりましたよマーカスさん!」
嬉しくなって子供のように飛び跳ねるヘレン。
「おい!少年!本当なのか!本当なんだな!?その情報は!間違いないんだな!?ありがとう!ありがとう!」
嬉しくなって思わず少年の肩を揺するマーカス。
気圧されたのか、死んだ目をする少年。
この構図がしばらく続くのだった。
その後、我に返ったマーカスとヘレンは改めて少年に感謝し頭を下げて、仲間の方へと急いで戻った。
「みなさん!勝ちましたよ!少年は知っていました!我々の求めるものを!」
「え、まじっすか!うわー、ありがたいっす。」
「それはよかったです。それで、具体的にどの辺りなんですか?どれくらいかかりそうです?」
「あ、いや、その、マ、マーカスさん!どうでしたっけ!」
「すまん。聞けていない。」
「ん。ヘレンはアホの子。マーカスも同類。」
「ふふ、しょうがないわよ。ようやく掴んだ手掛かりなんだもの。それじゃあみんなで聞きに行きましょう。」
そうして再び、今度は全員で少年のもとへ訪れた。
「いやあ少年、すまんね。聞きそびれたことがあって。」
「マーカスさん。早速本題に入ってください。」
「そうだな。えっと、どう聞けばいいんだ?」
「いや、知りませんよ。ボディランゲージは専門外ですので。そういうのは2人にお任せします。」
「え、マジっすかベルゴさん。」
「そういうのはマーカスさんとバッジェスの得意分野でしょう。頼りにしてますよ。」
「おい、俺はむしろ苦手だぞ。」
「えぇ、どうしよう。とりあえずやってみるっすね。がんばるっすよマーカスさん。」
「いや、だから、ああもう、やるしかないか。」
そんなこんなであれこれやってみせる男性陣だが、一向に伝わる様子はない。
それを見かねたのか、ヘレンが前に躍り出た。
「私にお任せを!汚名返上ですよ!少年!さっき見せたこれ!あっちですよね!そこまでいっしょに行きましょう!案内してください!どうかお願いします!そこをなんとか!先っちょだけでも!くっ!強情ですね!どうしましょうルチナ!セシャ!助けてください!」
早々に折れたヘレンは仲間の方へ逃げ込んだ。
しばらく女性陣で相談した後、今度はセシャが少年に歩み寄った。そしてセシャは少年の横にしゃがみ込むと、手に持った木の枝で地面に地図を描きながら話しかける。
「ん。少年。これ見て。ここが現在地。図鑑のこれがあっちだよね?それがここだとして。ここからここまでどのくらい?」
かなり簡潔に尋ねたセシャだが、あっさり伝わったのか少年は大きく頷いて見せた。
そして少年は太陽を指差し大きく一周円を描いて、1本指を立てる。次に地図の現在地と目的地を指差して、その場で歩くように足踏み。最後に指をくるくる3周して3本指を立てた。
「ん。歩いて3日。ここからここまで3日?片道?ん。合ってるみたい。ありがとう。」
セシャは少年に感謝の気持ちを込めてサムズアップする。それに対して少年もすぐさまサムズアップ。完璧なコミュニケーションだ。
「な!な、なんで!なんでセシャのは通じるんですか!どういうことですか!籠絡したんですか!?」
ヘレンがなにやら喚いているが、そんな中でも少年は地図に何やら描き足していく。セシャは当然のようにヘレンを無視して、少年の描く内容の理解に努めるのだった。
「それは、野営地?1日ごとに全部で3箇所ね。ちょっと直線からずれると。そのくらいは大丈夫。それは岩山?迂回はだめ?間を抜けるんだ。なるほど、わかった。ありがとう。それにしても詳しい。すごい。」
そうしてしばらく地図を見ていたセシャだが、少年に見られていることに気づいて顔を上げ、拍手と共に賛辞を送った。そして最後にサムズアップ。それに対して少年もサムズアップ。またしても完璧なコミュニケーションだ。
「ぐぬぬ!やっぱり通じてる!通じ合ってる!セシャばっかりずるいですよ!私もいいところ見せたいのに!」
「ふふ。それにしても本当にすごいわね。この情報は貴重よ。ありがとうセシャ。少年。君もありがとう。」
「そうでした!少年!ありがとうございます!」
こうして一行は、ようやく竜眼草の情報を入手した。
それからは早いもので、移動の準備を整えると少年に各々が感謝を伝える。とりあえず入念に頭を下げて。もちろんマーカスからは情報料もきっちりと。
そうして少年と別れ、目的地へと進んでいった。
その後の一行は、少年の情報通りに歩みを進め、驚くほど安全にあっさりと目的地に辿り着いた。
そして帰り道も何事もなく戻ることができ、無事に街まで帰還するのだった。
このクエストをきっかけに、国内の竜鱗病患者は劇的に回復していった。
戦士の誓いと花霞の評判も鰻登りである。
しかし数ヶ月後、好事魔多しな事態が起こる。




