第4話 おっさんは冒険者
時は少し遡る。おっさんことマーカスは、冒険者ギルドベルムント支部のギルドマスターに呼び出されていた。こうして上の人間に呼び出されるくらいには、マーカスは名の知れた冒険者だということだ。
ちなみに、冒険者にランクというものは存在しない。いや、正確には過去にランク制度が存在したが、現在は廃止されている。
元々ランク制度というのは、ギルド側の管理のためだったり、依頼主にわかりやすくするためだったり、冒険者のモチベーションのためだったり、そうした理由で設立されたものだった。
しかしながら、不正なランク上げ、ランク差別に伴う暴言や暴行、極めつけには逆恨みによる殺人など、他にも例を挙げると切りがないが、ランク制度による弊害ばかりが目立ってしまったことで、廃止されることになったのだ。
では今現在、何を基準に冒険者は評価されるのか。結論から言えば、内部評価と口コミである。
冒険者ギルドは依頼を適切に割り振るために、冒険者個人、パーティ、クラン、それぞれの単位で評価付けを行っている。これをわかりやすくランク分けして公開していたものがランク制度なわけだが、それを流用して内部評価のみを行うようにしたのだ。
単純に公開していたものを非公開にしただけのようなものなのに、かなり効果的に運用できているらしい。
それ以外に、依頼主側の評価も当然重要である。これは単純に依頼主がリピートしたくなるかどうかというだけの話だ。
だがその評価も噂になって広がると、当然だが依頼に影響してくる。噂で誰かが勝手に名前を上げておすすめをするのだ。あいつはいいぞと。そしてそれは評判が良ければ良いほど顕著なのだ。
そうして着実に評価を得ていくことで、冒険者は有名になっていくのだ。
そしてこの場所、カタリナ王国へクサディオン領第二都市ベルムントで名を馳せる冒険者のうちの一人が、おっさんことマーカスなのだ。
それはさておき、応接室で待っていたマーカスのもとに、筋骨隆々の初老の男が顔を出した。
彼がベルムント支部のギルドマスター、ディグレットだ。
「すまん、待たせたなマーカス。立て込んでてよ。」
「ああ、いいよギルマス。気にすんないつものことだろう。」
「そう言ってくれるとありがたい。さて、それじゃあ早速本題に入るか。実はな、竜鱗病の治療方法が見つかったのさ。」
「おいおい、まじかよ!そりゃすげぇな!それで、どんな方法だ?やっぱり特効ポーションなのか?」
「ああその通り。特効ポーションらしい。どうやら王立図書館に古い文献が残されていたらしくてな。そこに原材料から製法まで詳細に載っていたらしい。」
「なるほどな。それで効果は確かなのか?」
「そのあたりも含めて実験検証して、なるべく早く実用化まで進めるつもりらしい。」
「そうか。それを俺に話したってことは採取依頼か?それとも荷運びの護衛か?」
「その両方だよ。採取から薬師のところに運ぶまで。厳密に言えば王立研究所に運ぶまで。その第一陣を任せたい。採取難易度によっちゃ継続依頼になる可能性もあるがな。」
「なるほど了解した。とりあえずメンバーに説明しとくよ。ただうちのやつらにも竜鱗病に罹ってるのがいるからな。間違いなく戦力はダウンしてるぞ。」
「ああ、それはもちろん把握している。だから今回は合同クエストを考えていてな。花霞にも打診するつもりだ。」
「花霞か!それなら戦力は十分だろうな。普段から交流はあるし、色々と上手いことやれるだろうよ。」
「おう、期待してる。お前達で無理ならもう後がねえ。サポートは万全にするから任せたぞ。」
そうした会話がなされた数日後。マーカス率いるパーティ「戦士の誓い」から3人と、女性3人で構成される有名パーティ「花霞」による合同クエストが始まった。
目的地は、竜の裾野と呼ばれる危険な森。採取目標は、竜眼草という名の薬草。竜の裾野のどこかに竜眼草の群生地があるらしい。具体的な場所はわからないが、資料によると森の奥地にある可能性が高いとのことだ。
難易度が高いうえに重要案件なだけあって、ギルドのサポートは手厚くなっている。食料やポーション、野営用品から魔道具まで、あらゆる物資が無料で支給されている。中には、アイテムポーチと呼ばれる超希少な魔道具まである。これは異空間に物資を大量に入れることができる、要は運搬用の魔道具だ。ベルムント支部にはたった一つしかない代物らしく、ギルドの本気度が窺える。
そうした手厚いサポートに加え、本人達の実力が高いこともあって、道中は恙無く進むことができた。
途中から川に出たが、川底までかなり浅く、魔物の心配がないことから川沿いを進んで行くことになった。そのおかげか精神的な余裕がさらにでき、時間をかけた入念な調査ができたのだった。
そうして着実に進んで5日目。森の深い位置まで来た




