灰色の巣で
焚き火が、低く音を立てて燃えている。
俺は毛布に包まれ、地面に横になっていた。
身体が、鉛のように重い。
少し離れたところで、男たちが輪を作って座っている。
ダンジョン帰り特有の、疲れと緊張がまだ抜けていない空気。
* * * * * * *
「……しっかしよぉ。」
最初に口を開いたのは、スカウトのマルセルだった。
焚き火を棒で突きながら、いつものニヒルな笑みを浮かべている。
「ダンジョン帰りに焼け跡の匂いだぜ?ついてねぇにも程がある。」
「匂いに気づいたのは、お前だろ。」
と大柄な剣士ロランが言う。
「血と、焦げだ。」
マルセルは肩をすくめる。
「鼻が利くのが取り柄でね。」
「結果的には、正解だった」
魔術師のヴァンサンが、冷静に続けた。
「魔獣達も様子が変でした。祝福持ちの軍が通った後なら、説明はつきます。」
ピエールが、焚き火越しに目を伏せる。
「……村は、間に合いませんでしたが…。」
一瞬、沈黙。
「それよりだ。」
マルセルが、ちらりと少年を見る。
「ガキ一人で、ラッシュウルフの群れを引き離したなんて、正直、信じられねぇ。」
「偶然じゃないな。」
ロランが言い切る。
「追われながら、音を立てて横に逸れた。明確に“囮”の動きだった。」
「判断が早すぎる。」
ヴァンサンが腕を組む。
「普通の子どもなら、親に縋るし、離れる判断はしない。」
「俺たちがもっと早く気づいてりゃ、あの村、もう少しマシな終わり方もあったかもしれねぇ。」
マルセルが、珍しく声を落とした。
焚き火が、ぱちりと弾ける。
「後悔しても戻らん。」
ロランは淡々と言った。
「あの子は助けられた。それだけは、事実です。」
と、ピエールが、小さく頷く。
「……北へ逃げた集団の痕跡も、確認した。」
マルセルが、口元を歪める。
「血痕、だろ?」
沈黙が、答えだった。
「……今お伝えするべきでは、ありませんね。この子の心が、持ちません」
「今日一日で、全部背負わせる話じゃねぇ。賛成だ。」
ヴァンサンも頷く。
「体力も精神も、限界だ。明日、北の関所へ向かう。そのまま街へ行き、孤児院に預ける手続きをする。」
「……仕方ねぇな」
マルセルが、ぶっきらぼうに言った。
「俺たちは冒険者だ。保護者にはなれねぇ」
ちらりと少年を見る。
その時。
毛布の中で、少年の指が僅かに動いた。
* * * * * * *
「……起きてるか?」
大柄な剣士の声。
俺は、ゆっくり目を開けた。
「……すみません……。」
「謝るな」
剣士は短く言った。
「今日は、よくやった。」
「……でも。」
喉が、ひりつく。
「母は……?」
一瞬、空気が張り詰める。
だが、プリーストらしき冒険者が穏やかに口を開いた。
「今は、休みなさい。明日、関所へ向かいます。そこで、また探しましょう。」
全部は、語られない。
だが、俺はそれ以上聞けなかった。
「……はい……。」
視界が、暗くなる。
焚き火の向こうで、灰色の鴉が、夜を見張っている。
そんな気がした。




