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日常のあった場所

四匹の狼型魔獣は、瞬きする間に片付けられた。


剣閃。

鈍い衝撃音。

短い叫び。


気づけば、地面に転がっているのは、もう動かない魔獣の死体だけだった。


——終わった。


膝が、抜けた。

張り詰めていたものが一気に解け、その場にへたり込む。


「……大丈夫か?」


声をかけてきたのは、さっき前に出ていた大柄な冒険者だった。


グレーのマント、使い込まれた質の良い鎧と剣。首からかかっている金色の札。


——ゴールドランク。


「お、俺の……村が……!」


喉が、うまく動かない。


「父が……みんなが……まだ……!助けて……ください……!」

必死に懇願する。


一瞬、冒険者たちは顔を見合わせた。

そして、頷く。


「案内しろ。」

「急ぐぞ。」


大柄な冒険者が、俺を軽々と背負い上げた。


「しっかり掴まれ。」


その背中は、熱かった。


走る。

森を抜ける。

夜明け前の冷たい空気。


だが——


村は、もう、村ではなかった。


焼け落ちた家屋。倒れた柵。焦げた匂い。

血の跡。

引きずられた痕。

死体は、無い。


「……持っていかれたな。」


低く、誰かが言った。


俺は、必死に目を走らせる。

父が居ないか。村の男たちは居ないか。


そして——


地面に、突き立てられていた。

一本の、槍。

見慣れた柄。

数打ちのものだが何度も手入れしていた穂先。


父の槍だった。


息が、詰まる。

声が、出ない。


冒険者たちは、静かに散開した。


「魔獣が残ってる。」

「全部片付けるからここに居ろよ。」


その言葉通り、村の周辺に潜んでいた魔獣は、瞬く間に一掃された。

だが。

村の男達が戻ってくる事はなかった。


俺は、縋るように言った。


「……母が……。」

「母と、子どもたちが……北へ……逃げたんです……。」


大柄な冒険者は、俺の顔をじっと見た。

そして、静かに首を振る。


「限界だな。」


その一言で、自分がどれだけ無理をしていたか、分かった。

足が、震えている。視界が、滲む。


「……休め。」

「俺が見に行ってやるからよ。」

スカウトらしき仲間の一人が、来た道を戻っていった。


俺は、地面に座り込んだまま、動けなかった。

どれくらい、時間が経っただろう。

戻ってきた冒険者が、首を横に振る。


「……痕跡は、なかった。少なくとも、近くにはいないな。」


胸の奥が、静かに、落ちていく。


「……関所へは、明日向かう。」

「今夜は、ここで休みましょう。」


反論は、出なかった。

出せなかった。


父の槍が、地面に突き立ったまま、そこにある。


それだけが、確かに“あった”証だった。


——せめて。


せめて、母だけでも。そう思ったはずなのに。

意識が、暗く沈んでいく。


最後に残ったのは、焼けた木の匂いと、槍の感触。


それだけだった。

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