覚える
俺の村、ヴァロワ村は、地図に載らない。
載せるほどの価値が、まだないからだ。
レオニス王国が南へ押し広げた国境地帯。
寒冷地よりはまし、という程度の土地。
三十世帯、六十人。
開拓村としては、よくある規模だった。
俺が生まれたのは、開墾が程々に進んだ年の春。
村にとっても、俺にとっても、「始まり」だった。
父の名は、マルセル。母は、エリーヌ。
貧しい生活ではあるが、開拓村なのだししょうがない。
父は狩りに出て、畑も耕す。
冒険者ではないが、槍の扱いは村で一番だ。
母は、家事と畑、そして子どもたちの世話。
信仰深く、創造神への祈りを欠かさない。
前世で、親というものを知らなかった俺には、二人はとても大きな存在だった。
声をかけられる。名前を呼ばれる。叱られ、褒められる。
理由なく世話をされるという感覚。
それが、どれほど重く、ありがたいものかを、
俺はこの村で知った。
村の子どもは、十人。
開拓村では食糧や物資の問題があり、余裕を持って計画的に子作りする必要がある。
子どもは村全体で育てる。
足りないものだらけのため、少しでもまとまって生活して足りないところを補い合うのだ。
「リュシアン、水、持てるか?」
「うん」
三歳を過ぎた頃から、簡単な仕事を任される。
水汲み。薪拾い。畑の端の草取り。
同年代の男の子たちのピエール、ノエ、ルシル。
皆、似たような背丈。似たような服。
「競争な!」
「負けないぞ!」
笑い、転び、怒られて、また笑う。
俺は、気をつけていた。
前世の知識を、出しすぎない。理解を、示しすぎない。
不気味に思われない程度に。
それでも、この村で生きることは、悪くなかった。
そうしているうちに、段々と自分の精神が子どもの身体に引っ張られているのか、幼くなっているように感じた。
夜、薄いスープをすすりながら、父の話を聞く。
「森の奥は、魔物が多くて危ねぇ。冬までに柵を強くしねぇとな。リュシアン。手伝い出来て偉いな!だけど、無理はするなよ。森の方には行かないようにな。」
母は、祈る。
「創造神よ……」
この時間が、当たり前に続くものだと、どこかで思っていた。




