役目の分岐点
祝福の圧は、戦場そのものだった。
ロランは前線に立ち続ける。
祝福の一撃を正面から受けないよう、
わずかな兆しを見逃さず、進路を変え、仲間を守る。
「右、来る!」
短い声。
それだけで、全員が動く。
ヴァンサンの魔術が炸裂し、兵の進路を歪める。
致命傷にはならない。
だが、足は止まる。
「マルセル、左を散らせ!」
「任せろ!」
スカウトの姿が消える。
次の瞬間、敵兵の隊列が乱れる。
ピエールは後方で全体を見ていた。
誰が消耗しているか。
誰が次に危ないか。
「ロラン、三歩下がって!
……今!」
言われた通りに下がった瞬間、
祝福の衝撃がその場を吹き飛ばした。
——連携は、完璧だった。
それでも、決定的な差がある。
祝福持ちは、疲れない。
こちらは、削られていく。
ロランは理解した。
このままでは、全員がここで終わる。
「……切り替える」
低く、しかし確実に。
ヴァンサンが一瞬だけ目を見開き、すぐに察する。
「……了解。」
ロランが俺を見る。
「お前だ」
胸が、強く脈打つ。
「お前を逃がす」
「な……!」
言葉が詰まる。
「役目が違う」
ロランは淡々と言った。
「俺たちは、ここで止める側だ。お前は……残す側だ」
マルセルが一瞬だけ振り返る。
「覚えて逃げろ。お前は記憶力良いだろ、坊主。」
ピエールが、静かに頷く。
「あなたが生きていれば、この戦いは無駄になりません」
——残録。
忘れない力。
無かったことにしない存在。
俺は、初めて理解する。
自分は、この場で
戦うためにいるわけじゃない。
祝福持ちがこちらを見る。
一瞬だけ視線が合い、すぐに興味を失った。
優先度が低い。
だからこそ――逃がせる。
ロランが剣を構える。
「時間を稼ぐ。それが、俺たちの役目だ」
灰鴉は、完全に陣形を変えた。
勝つためではない。
生き残らせるための陣形。
足が、震える。
——選ばれなかった役目。
それでも、背負わされた役目。
戦場は、すでに後戻りできない場所にあった。




