Point of No Return
見られている――
そう確信した瞬間、マルセルが即座に動いた。
「止まれ。音を殺せ。」
声は低く、短い。
それだけで、全員が理解する。
鼻の利くスカウトとして、彼はすでに“気配の正体”を掴んでいた。
ロランが無言で前に出た。
大柄な身体で、仲間を背に庇う位置に立つ。
剣には触れない。
まだ戦う段階ではない。
ヴァンサンは一歩下がり、周囲の魔力の流れを読む。
「……来る。人間だ。正規兵……中央に一人、歪みがある。」
空気が、重くなる。
ピエールが即座に全体を見渡す。
退路、遮蔽物、誰がどこに立つべきか。
戦線が、彼の中で組み上がっていく。
森を割って現れたのは、敵兵だった。
揃った装備、迷いのない動き。
そして、中央。
空間そのものを歪ませる存在。
祝福持ち。
主人公は、喉の奥が詰まる感覚を覚えた。
人間の形をしているのに、人間じゃない。
ロランが一歩踏み出す。
「我々はゴールドランク冒険者《灰鴉》だ。戦争に関わる意思は無い。」
祝福持ちは、感情のない目でロランを見る。
「この地域は作戦行動中だ」
淡々とした声。
「数刻前、貴国の祝福持ちは前線で敗北した。抵抗は無意味だ。」
胸が、嫌な音を立てた。
「貴国に残る祝福持ちは王宮守護一人。いずれ、そこも落ちる。」
——敗戦。
それを、事実として突きつけられる。
「お前たちは戦力として過剰。祝福を持たずとも、お前達は脅威足り得る。」
マルセルが小さく舌打ちする。
ロランは、表情を変えない。
だが、理解していた。
この国は、負ける。
そして今、この場にいる自分たちは——
邪魔な目撃者だ。
「逃げるぞ。」
判断は、一瞬だった。
次の瞬間、地面が爆ぜた。
祝福の一撃。
村を消した力が、今度は森を抉る。
ロランが即座に盾となり、進路を切り替える。
「踏み込みすぎるな! 引きながら距離を取れ!」
——逃げ切れるか?
胸に、嫌な予感が広がる。
近づかない理由は、分かっていた。
それでも――もう、逃げられない距離だった。




