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選ばれた理由

光の中で、俺はしばらく黙っていた。


何かを言うべきなんだろうが、

何を聞けばいいのかも分からなかった。

死んだ。

それだけは、分かる。


だが、その後が重すぎる。


 魔神。

 神々。

 英雄。


どれも、酒場で聞く噂話の中の存在だ。

それが「世界が崩れる理由」だと言われても、

頭が追いつかない。


映像が流れる。


強くなった魔物。

街道に溢れる死体。

城壁を壊す戦争。


「……こんなになってんのか」


思わず、そう呟いていた。


『十年だ』


光が告げる。


「……十年?」


『お前が死んでから』


長い。

だが、それ以上に——

もう「元に戻る時間」ではないことが、はっきり分かる光景だった。


『最初の十年は、可能性の時間だった』


光は、淡々と語る。


『魔神が引く可能性』

『神々が手を止める可能性』

『英雄が、英雄で終わる可能性』


だが、どれも叶わなかった。


映像の中で、英雄と呼ばれる者が街を焼いていた。

正義の旗を掲げて。


『止めるべき対象が、ようやく定まった』


背中に、嫌な冷たさが走る。


「……それで、俺か?」


思わず、そう言っていた。


納得はしていない。

だが、否定する言葉も見つからない。


『お前は、強くない』


光が言う。

それは、否定しようのない事実だった。


才能はない。

だが、生き残ってきた。


ウッドから這い上がり、アイアン、ブロンズを越え、無理をしてシルバーに上がった。

冒険者としての腕前は、並より少し上。

突出はしていない。

だが、それで十分だと思っていた。


『だから、お前だ』


光の言葉は、どこか淡々としていた。


『英雄ではなく』

『神でもなく』

『だが、現場を知っている』


底辺も、限界も。

勝てない現実も。


『調停者は、世界を壊さないための存在だ』


救えとは言われなかった。

勝てとも言われなかった。


ただ、壊すな、と。


『そのために与える力がある』


光が、少しだけ形を変える。


『《残録レコード》』


説明は、簡単だった。


見たもの。

聞いたこと。

起きた出来事。


それらを、忘れにくくする力。

技術や儀式、魔法陣。

形あるもの、手順あるもの。


そういったものを、正確に残す。


「……記憶力が良くなる、みたいなもんか?」


『それに近い』


だが、同じではない、と光は続ける。


『お前は、世界に起きたことを“なかったことにしない”』


それが、調停者に必要な力だという。


英雄が勝っても。神が歴史を書き換えても。


『残録されたものは、消えない』


それを聞いて、俺は少しだけ安心した。

派手じゃない。

だが、分からない力でもない。


「……まあ、俺向きだな」


正直な感想だった。


前に出る柄じゃない。

だが、後始末なら、やってきた人生だ。


『転生先は、人間』


『男』


『時代は、十年後』


『開拓村の夫婦の子として生まれる』


どれも、特別じゃない。

王都でもない。貴族の家でもない。

最前線でも、中心でもない。


——だが、現実が見える場所だ。


「……逃げ場はなさそうだな」


『逃げるための役目ではない』


それだけ告げて、光が近づく。


不安は、消えなかった。

だが、妙なことに、

「無理だ」と切り捨てる気にもならなかった。


これでいいじゃないか。

そう思い込んできた人生だ。

そんな俺を拾い上げてくれたんだ。

なら、最後まで、

その“つもり”でやるしかない。


光が、俺を包む。

意識が、沈む。



——この時の俺は、まだ知らなかった。


この力が、どれだけ「足りない」ものなのかを。


産声が、響いた。


荒れた土地。疲れ切った夫婦。


「……生きてる」


「よかった……」


その声を、俺は確かに《残録》した。


名は残らなくてもいい。


だが、世界が壊れるのを、見過ごすつもりはなかった。


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