村
丘を越えた先で、マルセルが足を止めた。
「……遅かったな。」
その一言で、全員が察した。
焼け落ちた木の匂い。
血と煤が混じった空気。
村だったものが、そこにあった。
昨日まで、確かに人の営みがあったはずの場所。
柵は崩れ、家屋は黒く焦げ、
人の気配は——ない。
マルセルが低く舌打ちする。
「派手にやってくれたもんだな。」
彼はしゃがみ込み、地面を一瞥した。
「……祝福持ちだ。しかも複数」
ヴァンサンが目を細める。
「魔物の数は少ない。後から寄ってきた程度だ。主犯は……人間だな。」
胸の奥が、ひやりと冷える。
脳裏に、今世の故郷であるあの開拓村の光景が重なる。
同じ匂い。
同じ、何も残らない静けさ。
ピエールが、崩れた柱の前で膝をついた。
「……創造神よ。」
だが、祈りは宙に消えた。
ロランは剣の柄に手を置いたまま、動かない。
「奴らは自国以外の全てを戦場だと思ってる。邪魔なものは、踏み潰す。」
祝福持ち。
神に選ばれた存在。
人類の域を超えた者たち。
マルセルが、吐き捨てるように言った。
「奴らにとっちゃ、村の中もそこらの草原も変わらねえってことだ。」
堪えきれず、声が漏れた。
「……近くを通ってたんですよね。」
自分でも分かる。
責めている。
彼らを。
そして、助けを待っていた“自分自身”を。
ロランは、静かに答えた。
「正しい選択をしても、間に合わないことはある。」
「……それでも……!」
言葉が続かない。
ヴァンサンが地面を調べながら、淡々と告げる。
「生存者はいない。連れていかれた形跡もない。」
その報告で、世界が一段、遠のいた。
ピエールが立ち上がり、静かに続ける。
「……この場で祈ることしか、できません。」
拳を、強く握りしめた。
(また、何も出来なかった。)
だが——今回は、違う。
理由が、はっきり見えた。
魔物じゃない。
災害でもない。
力を持った人間が、「邪魔だから」壊した。
「……止められないんですか。」
震える声で問う。
ロランが、首を横に振った。
「俺たちは、冒険者だ。」
「戦争を終わらせる力はない。」
マルセルが、煙草に火をつける。
「坊主。」
初めて、真正面から向き合う。
「これが現実だ」
「祝福持ちが通った後は、こうなる」
煙が、ゆっくりと空に溶けていく。
胸が、痛いほど締め付けられる。
この光景を。
この無力感を。
——忘れない。
残す。
いつか、止めるために。
灰鴉の背中を見ながら、
そう、強く誓った。
「……長居はできない。」
マルセルの声が低くなる。
「誰かに見られてる。」
その瞬間、主人公の背中に冷たいものが走った。
森の奥。
確かに――視線がある。




