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背中は、未だ遠く

ダンジョンに入るたび、役目は少しずつ増えていく。


「ガキ、そこ違ぇ。」

マルセルは、相変わらずぶっきらぼうだ。

だが、怒鳴ることはない。

危ないときは、必ず腕を掴んで止めた。


「判断は悪くねぇ。だが今は、身体が追いついてねぇ。」

言葉は辛辣。だが、突き放すことはなかった。


ロランは、口数が少ない。

だが、剣を振る姿を、必ず見せた。


構え。

踏み込み。

間合い。


質問すれば、短く答える。


「焦るな。」

「型は、裏切らない。」

それだけ。


ピエールは、いつも穏やかだった。

「大丈夫ですよ。」

「大怪我をする前に、止まれている。」


小さな擦り傷にも、必ず祈りをかける。

「痛みを覚えても、無理を覚えないように。」



ヴァンサンは、必要なことしか話さない。

だが、魔法を撃つ前、必ず間を取る。


「理解できなくていい。」

魔法の詠唱。

魔力の流れ。

火力の調整。

全部、見せるだけ。


「……覚えられるなら、覚えておけ。」


俺は、覚えた。

《残す》力が、自然に働く。


剣の型。

罠の解除や周辺の警戒。

全体への気配り。

詠唱の間。


理解は、まだ追いつかない。

だが、再現なら、できる。

俺は何とか自分の力にしようと食らいついた。


* * * * * * *


五年。

俺は、十五になった。


背は伸び、身体も出来てきた。

それでも、灰鴉の背中は、まだ遠い。


ある夜、焚き火の前で、マルセルが言った。


「……坊主。」

マルセルはいつの間にか、俺の事を“ガキ”ではなく“坊主”と呼ぶようになった。

「はい。」

「お前、前に出たがらなくなったな。生き残るやつは、だいたい臆病だ。」


ロランが、静かに頷く。

「勇気と無謀は違う。」


ピエールが、微笑む。

「一緒にいられる時間は、永遠ではありませんからね。」


ヴァンサンは、炎を見つめたまま言った。

「……だからこそ、覚えろ。」


胸の奥が、少しだけ締め付けられる。


別れが、近い。


理由は分からない。

だが、分かってしまった。


(それでも)


俺は、灰鴉の背中を見続けた。


剣を振る背中。

罠を見抜く背中。

祈る背中。

詠唱する背中。


良い大人たちだった。


不器用で、口が悪くて、

それでも、命を軽く扱わない。


——俺は、こうなりたい。


そう思えたことが、何よりの救いだった。


——まだ、遠い。


だが。


追いかける背中があることを、俺は誇りに思っていた。

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