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分かっていたはずの距離

今回のダンジョンは、思ったよりも深かった。


一本道のようでいて、微妙に曲がる通路。湿った空気。足元に散らばる小石。


(……嫌な配置だ。)

前世の感覚が、また騒ぐ。


狭い。逃げ場が少ない。音が反響しやすい。


マルセルが先頭で、ふっと立ち止まった。


「……来る。」

声は低い。


次の瞬間、壁の影から、影が跳ねた。


コボルト。

数は——七。


「多いな。」

ロランが前に出る。


だが。狭い。

(このまま前で受けると、横から来る。)


分かっていた。

分かっていた、はずだった。


——なのに。


「下がって!」

咄嗟に声が出てしまった。


ロランが、一瞬だけ視線をこちらに向ける。


その、ほんの一瞬。

コボルトの一体が、ロランの脇を抜けた。


「——チッ!」

マルセルが舌打ちする。


ロランが即座に斬り返すが、隊列が乱れた。


「ガキ、動くな!」

マルセルの声。


分かってる。

分かってるのに、足が竦む。


ピエールが一歩前に出る。

「落ち着いてください!」


短い祈り。淡い光が、ロランを包む。


ヴァンサンの火球が、通路を焼いた。


戦いは、すぐに終わった。


だが。

空気が、少しだけ重い。


「……余計な声出すな。」

マルセルが、俺を見る。

責めるでもなく、淡々と。


「分かってたんだろ。」


喉が、鳴る。


「……はい。」


「だったら、黙ってろ。判断するのは、俺たちだ。」


正論だった。

前世では、俺もそう言う側だった。


(……ああ。)

胸の奥が、少し痛む。

分かっているのに、今は何もできない。


ロランが、静かに言った。

「悪くはない。だが、早い。」


それだけだった。


ピエールが、俺の肩にそっと手を置く。

「焦らなくていいのですよ。今は、見る役目です。」


見る。

覚える。

——それだけでいい。


分かっているのに。

前世の感覚が、どうしても口を出す。


(……俺は、前に立てる立場じゃない。)


その事実を、

ダンジョンの冷たい空気が、はっきりと教えてくれた。


俺は、拳を握りしめ、もう二度と、勝手に口を出さないと心に決めた。


——少なくとも、この身体のうちは。

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