新しい歩み
この話で第1章は終了です。
第12話
街を出て、半日。
舗装の途切れた街道を西へ進む。
風が冷たく、遠くの山は白い。
俺は、ロランの背中にまとめた荷を必死に追っていた。
「……遅ぇ。」
「す、すみません。」
「謝るくらいなら、足を動かせ。」
マルセルはそう言いながらも、歩調を落とす。
ヴァンサンが、地図を見て言った。
「この先で一泊。明日、ダンジョンだ。」
ダンジョン。
胸が、少しだけざわつく。
「……あの。」
歩きながら、聞いてみた。
「皆さんは……戦争に、行かないんですか?」
一瞬、空気が止まった。
ロランが、ちらりとこちらを見る。
「行かない。」
即答だった。
「どうしてですか?」
間を置いて、マルセルが口を開く。
「国の喧嘩に、命を張るほど安くねぇからだ。」
軽い口調。だが、目は笑っていない。
ヴァンサンが、補足する。
「祝福持ちは、別だ。彼らは自ら戦場に行くものも居る。国に管理され、兵器の様に扱われる場合もある。だが、俺たちは違う。」
ピエールが、静かに続けた。
「我々は、依頼を受けて動く冒険者です。国に雇われる騎士ではありません。」
「……でも。」
言葉を探す。俺は今世で戦争被害の一端を被った。村は焼け生き残りも…俺だけなのだろう。前世の自分だったらどうしただろうか。戦争なんて隣国との小競り合いが稀にあるくらいの平和なもんだった。だが、もし今俺が前世の俺だったら。
シルバー3で腐っていた俺がお国のためにと動けていただろうか。
被害を受けたものとして、どうしようもない胸のザワつきが口をついて、つい聞いてしまった。
重い沈黙。
「……戦争に関われば。」
ヴァンサンが、淡々と続ける。
「守るべきものを選ばされる。選べなかったものは、切り捨てることになる。」
マルセルが、鼻で笑った。
「俺はな、そういうの、向いてねぇ。」
少し、ニヒルな笑み。
「助けられる範囲で助ける。それ以上は、神様の仕事だろ。」
ピエールが、頷く。
「我々がダンジョンを攻略するのも、街や村の負担を減らすためです。」
「魔物を減らし、資源を回す。それが、冒険者の戦い方です。」
俺は、黙って聞いていた。
戦わない理由。逃げているわけじゃない。
——自分の道を自分で選んでいる。
ロランが、歩き出す。
「お前も、その道だ。」
「剣を振らなくても、戦場に行かなくても、やれることはある。」
俺は、強く頷いた。
「……はい。」
その背中を、必死に追いながら思う。
英雄でもない。
祝福持ちでもない。
名前を刻むほどの力もない。
それでも。
助けられる範囲で助ける。
見捨てないと、決める。
——その選択を、俺は残したい。
冷たい風が吹き抜ける。
西の山影に、ダンジョンの入り口が見えた。
ここから先は、守られる側ではいられない。
だが、まだ何者でもない俺にも、歩く場所はある。
そう信じて、俺は一歩、踏み出した。
第1章・了




