カツカレーもカレーのうち
カレーを何にかけるか? あるいはつけるか?
日本人の大半は白ごはんにかけると思う。
ナンにつけて食べることも多いだろう。
スパゲッティーにかけたり、そうめんにかけたり、麦飯にかけたり、あるいは出汁汁にカレーを混ぜてうどんを浸したり、ラーメンを浸したり──もしくはパンの中に閉じ込めたり、色々だ。
俺は何にもかけずにそのまま飲むことだってある。
他人のすることは他人のすること、他人の好きなものは他人の好きなもの──俺にどうこう言うつもりはない。
しかしあいつにはとても我慢ができなかった。
「カツカレーってあれ、カレーじゃないよね。カツ丼の一種だ」
大原部長がいつものように言い出した。
「だってさ、カレーライスって、カレーでごはんを食うもんだけどさ、カツカレーになると違うくね? カレーのかかったトンカツでごはんを食べてるんだよ。出汁とたまごのかかったトンカツで飯を食うカツ丼とおんなじさ」
わかる。
大原部長の言いたいことは、わかる。
俺とは食い方が違うのだ。
社員食堂に行き、いつものようにカツカレーを注文した。ここのカツカレー、とにかくうまいのだ。
調理をしてくれるおばちゃんが笑顔で俺に言った。
「歌山さん、いっつもカツカレーだねぇ」
「うん! おばちゃんの作るカツカレーは世界一だからね」
「よし、特別にごはん、大盛りにしてあげよっか?」
「いいの? お願いします!」
特盛の白ごはんに、とろみのあるカレーがかかり、その上にサックサクのトンカツが乗っかって出てきた。
「いただきまーす!」
俺はスプーンを手にし、まずはカレーのかかったトンカツを持ち上げる。
衣がサックサク!
肉汁がじゅっわじゅわ!
そして牛肉のスジが溶け込んだとろみのある、重厚なカレー!
そこに紛れ込むフルーツのような福神漬け!
そして後からかき込む白ごはん!
うまし!
俺はばっくばくとスプーン一本でそいつらをかき込んだ。
カレーに何をかけるか? あるいはつけるか?
それは人それぞれだ。
俺はトンカツにカレーをかけ、白飯にもかける。
白飯を、おかずが必要なものと見るから、部長はこれをカツ丼だなどというのだ。
カレーは白飯にのみかけるものに非ず!
俺が今食しているのはカレーライスであり、同時にカレートンカツであるのだ!
なんて贅沢な食べ物であることか、カツカレー!
俺はカツカレーを愛す!
アイスクリームを愛するように、愛す!
ゆうに2000Kcalを超えるカロリーモンスターを毎日食い続け、俺の健康はじわじわと冒されていった。
それでもやめることなんてできない!
トンカツはけっして『トッピング』などでないのだ!
それはじゅうぶんに『主役』と呼べる存在であるのだ!
トンカツばんざい!
白飯ばんざい!
カレーばんざい!
君たちはみんな違って、みんなよくて、みんな主役だよ!