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ヒロイン視点


「ここ、自由に使って良いんですか?」

「好きにしろ」

「やったぁ!」


 嬉しくて思わずぴょん、と跳ねてしまう。


「私は仕事に戻る。わからないことがあれば庭師にでも聞け」

「はい!」


 ダンテ様を見送って、私は、さっそく腕まくりをする。

 街で見つけた私の暇つぶし一ーそれは、庭いじりだ。


 もとよりあまり家の中にいるのは性に合わなかったし、草木を触るのは好きだった。だからダンテ様に頼み込んで、私でも扱える小さなスコップと、いくつか花の種を買ってもらったのだ。


 ダンテ様の許可をもらって、庭の一角を私専用のものにしてもらった。

 ふんふん、と適当な鼻歌を歌いながら土を掘り返す。伯爵家の庭なだけあって、土もすごく状態が良い。ふかふかの土をいじっていると、


「本当に奥様が土を触ってるなんて」


 後ろから声がかけられた。

 振り向くと庭師のおじいさんが、びっくりした顔で立っているではないか。


「あっ、すみません。お仕事の邪魔にはならないようにするので……」

「いやいやお気になさらず。それで?そこの種を蒔くんですか?」

「はい!」

「あぁそれでしたらね、種同士の間隔にちょっとコツがあって……」


 庭師のおじいさんに教えられながら種を蒔く。

 種を蒔くあいだにも、おじいさんは植物の色々なことを教えてくれて、驚きの連続だった。


「はいはい、これで大丈夫。あとは毎日水をやるだけです」

「ありがとうございます!私ったら食べられる植物のことしか良く知らなくって……」

「食べれる植物?」


 あ、しまった。

 うっかり口が滑ってしまった。


「……へへ、実は食い意地がすっごい張ってて……食べられる植物ないかなって、勉強したことあるんです」

「なるほどなるほど。確かに、思いもよらぬ葉っぱが食べれたりしますからねぇ」

「そうなんですよ!」


 あぁ良かった。どうにか切り抜けられた。

 

「おや、」


 おじいさんがふいに上を向く。

 なんだろう、とおじいさんに倣って見てみれば、自分達がいるところは、執務室の窓が見えた。

 そしてその窓越し、ダンテ様が、こちらを見ているではないか!


「一ーダンテ様っ!」


 思わず手を振る。すると苦虫を潰したような顔をした後、ほんのちょっとだけ、手を振りかえしてくれた。


「おやおや、きっと恥ずかしがってるんですよ」

「そうでしょうかねぇ。私には本当に嫌そうに見えましたけど」


 もう誰も立っていない窓を眺めながら、おじいさんとそんな話しをした。

 それから、では残りの花の種も撒きましょうか、と、私とおじいさんは、土いじりを再開したのだった。





「種は無事植えられたのか」

「もちろん!ダンテ様だって見ていてくれたじゃないですか」

「……気のせいだ」


 夜、ダンテ様のベッドに転がりながら、その日あったことを話す。もっぱら話すのは私ばっかりだったけれど、ダンテ様は呆れたような顔をしながらも、いつも相槌を打ってくれていた。


「花が咲くの楽しみです!どんな色になるのかなぁ」

「赤と黄色と紫だろ。そう店主が説明していた」

「そうですけどっ!もしかしたらピンクの花も咲くかもしれませんよ!」

「どうだか」


 と、ダンテ様が私に口付けをしてきた。

 また今夜も抱かれるらしい。

 毎夜毎夜、よく飽きないな、と思う。それに、憎い私に欲情できるなんてすごいな、とも。


 私はそっと目を瞑る。すぐに夜着を脱がされて、夫婦の時間が始まった。






 ぐう、と首に強い圧迫感を感じる。

 あぁまた、この時間が始まった。

 ダンテ様が、私の首を絞める、この時間が。


 ……苦しい。

 首を絞められるの、とっても苦しい。

 ダンテ様は、私は眠っていると思っているはずだから、目も開けられない。眠ったフリをしたいなければならない。大丈夫、もうすぐ終わる、終わる、終わる、念じていると、ぱっ、とダンテ様の手が離れていった。


 良かった、おわった。でも今日は、いつもより短かった気がする。


 眠ったフリをしたままホッとしていると、ダンテ様の指が、私の首を撫でた。


 一ーまた絞められるのだろうか?


 しかし懸念とは裏腹に、ダンテ様はそれを最後に横になってしまった。

 わからなかった。

 ダンテ様の考えていることが、私には、わからなかった。

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