第99話 ドローポーカー
その夜────
アイラは湯を浴びると早々にいびきをかいて眠ってしまい、クラウディとカイザックはトランプカードで遊んでいた。もっとも、少女の方は仕方なく付き合っていたというのが正しい。
「……他のルールやゲームはないのか?」
『ダウト』をやっていたが、不意に彼は言った。
ダウトの勝率はカイザックが6割、クラウディは4割と言った具合で、割と勝てるものだから飽きたのだろう。
クラウディも決して手を抜いたわけではなかったが、相手の記憶力や戦術に圧倒されてしまっていた。カイザックはそれほどまでにIQが高いのだ。
少女は少しの間どうしようかと考え、『ポーカー』を教えることにした。
「『ポーカー』?」
「ああ、5枚のカードを手札として────」
少女がポーカーの説明をするとカイザックは目を輝かせた。早速やろうとやや興奮様だった。
────役ちゃんと覚えたのか?
そう思いつつもカードをシャッフルし、カードを配ろうとする。
「まて」
カイザックは手で制した。妖艶な顔がニヤリといやらしく笑う。
「ただやるのはやっぱりつまらない。賭けをしよう」
「……何を賭ける」
「お前が勝ったら求める情報をやろう」
その発言にクラウディはシャッフルする手を止めた。どうやって例の情報を聞き出そうかとずっと考えていたところだったのだ。彼の方から提案があるとはありがたい。
「俺が負けたら?」
念の為聞いてみる。無理難題を吹っ掛けられたらたまったものじゃない。
「仮面を取れ」
「……なぜ?」
「興味だ。傷が嫌だとかどうとか言ってたが、単に俺の好奇心を満たしたい」
クラウディはカイザックには道中仮面については傷があるから見せられないと適当に誤魔化していた。
客観的にみるとかなりの好条件だ。たかが素顔くらいで情報が手に入るなら安いものだ。
本当ならすぐに仮面を取って情報を得たかったが、カイザックには彼のやり方で満たした方がいい。
クラウディは頷いて手札を配った。
ポーカー(元男ルール)────
jokerありのドローポーカー形式で、チェンジは2回。持ち金1000ユーンで3回勝負。一度にかけるのは100ユーンまで。レイズは倍額まで。最終的に持つ金額が多い方の勝ち。
少女は相手が配られたカードを確認するのを見て、自分のカードを見た。
『ダイヤ6』『クローバA』『クローバ5』『ハートの7』『ダイヤ7』
役でいうならワンペア。ここから狙うならスリーカードかストレートだろう。
「どちらからいく?」
カイザックが言う。表情からは今のところ何も読み取れない。少女は手のひらを上にして相手に差し出した。
「初心者だろう、そっちからでいい」
「……ベット100」
「コール」
お互いアクションし、それぞれ手札カードを山札から交換する。
カイザックは3枚、クラウディは2枚。
『ハート5』『クローバA』『ダイヤK』『ハートの7』『ダイヤ7』
変わらずワンペア。
次は新たにレイズせず、お互いチェックアクションし、カードを交換する。2人とも2枚だ。
『クローバ9』『クローバA』『スペードQ』『ハートの7』『ダイヤ7』
────ちっ……
心の中で舌打ちし、カイザックをみる少女。表情はさすがと言うべきで無表情だった。
先程2枚交換したということはおそらくワンペア以上は確定だろう。少女もワンペアであるが、7は正直弱い。
「レイズ100」
「…………フォールド」
チェックであれば勝負に出れるが、流石にそうはさせてくれないかとクラウディは勝負を降りた。
結果はカイザックがJのワンペア、クラウディが7のワンペアで負けていた。
負けた分の100ユーンが相手に渡る。カイザックはニヤリと笑い、今度は彼がカードをシャッフルし、カードを配った。
初手は『ハート8』『ハート9』『スペード5』『クローバーA』『ダイヤ9』のワンペア。
少女は100ユーンをベットし、カイザックがコールしてカードチェンジとなる。
1回目のチェンジでは『スペード4』『ハート9』『クローバ7』『ハート4』『ダイヤ9』とツーペアとなった。カイザックは3枚の交換。
少女がチラリとカイザックを見ると目が合った。彼はニヤリと笑い口を開いた。
「どうする?」
「……レイズ100」
「レイズ100」
クラウディが金額を上げるとさらに上乗せするカイザック。少女はコールし、カイザックもそれにならい2回目のチェンジを行う。
少女の手札は『スペード4』『ハート9』『クローバ4』『ハート4』『ダイヤ9』
────フルハウス
クラウディは声音に出ないよう息を吐き、宣言する。
「レイズ100」
カイザックはクラウディの発言に眉を顰めた。5秒ほどだが、経過すると彼はため息をついて札を置いた。
「…………フォールド」
ちなみに相手の役はスリーカードだった。
賭けた金が手元に集まり、これで1200と800でクラウディ有利となる。
再度クラウディがカードをシャッフルし、5枚配った。
『ダイヤ6』『ダイヤ5』『ダイヤ8』『スペードJ』『joker』。
『joker』が来ておりワンペア以上が確定する。
カイザックが100ユーンをベットし3回戦目が始まった。
「レイズ100」
「コール」
カイザックのみ金額を釣り上げチェンジを行う。クラウディは1枚交換、カイザックも1枚交換。
『ダイヤ6』『ダイヤ5』『ダイヤ8』『スペード4』『joker』。
チェンジは上手く行き、役はストレートとなった。
────ストレート……勝ったか?
「レイズ200」
カイザックが掛け金を上げる。
「レイ────」
迷いなく掛け金を上げようとして手が止まる。カイザックを見ると僅かに口端が上がっていた。
────いや待て……本当にいけるか?
カイザックも1枚交換であった。その後にレイズ。ということは役は揃っている可能性が高い。
────ストレートが負けるとすれば確率的にフラッシュやフルハウスだが
金額的にもここで降りれば同点となる。3回目になるので勝負は終わるが、延長するのではないのだろうか。一旦仕切り直しても良いかもしれない。しかしせっかく勝てる可能性があるのに退くのは勿体無い気もする。
色々な思考が巡るが、クラウディはカードを伏せておいた。相手がカイザックであり、嫌な予感がして止まない。
「フォールドだ」
「……ちっ」
カイザックは残念だと舌打ちしお互いカードを見せる。
少女のストレートに対し、カイザックもストレートだった。ただし『クローバー10』『スペードK』『スペード9』『スペードQ』『スペードJ』のカードで、クラウディより強い手だ。
降りて正解だったと安堵する少女。
「引き分けか……」
カイザックはニヤつきタバコに火をつけ、横になった。
────ん?、終わりか
情報が欲しい少女はまだやりたかったがその様子がないカイザックを見てカードをまとめた。
「んー、楽しかったし……良いぜ、なんの情報が欲しい?」
「いいのか?」
「気が変わらないうちに聞いとけー」
願ってもないことにクラウディは頭を回した。
「『転生』や『次元移動』について情報が欲しい。何でも良い」
まあ、そうだよなとカイザックは笑った。
「その情報、単刀直入言うと『ない』」
「っ?!」
元の世界には二度と帰れないということかとクラウディは項垂れた。
「ただ可能性なら微レ存だな」
彼の言葉に顔を上げる。
「それはなんだ?!」
カイザックは声を荒げるなとアイラの方を見た。彼女は2段ベッドの下で寝ており時折寝返りを打っている。睡眠は深いので多少のことで起きることはないだろう。
「アーティファクトだ」
────ローレッタが持っていたやつか?
エイギレスト領の領主ローレッタが必死に取り返したアーティファクト。それはかなりの力を持っているようだった。
「地下ダンジョンの一つに『転移』系のアーティファクトが存在するという噂だ」
「ダンジョン?」
ゲームのようなものなのだろうか、元男はゲームには詳しくないと落胆した。
カイザックは少女が黙っていると仕方ないなと説明を始めた。
地下ダンジョン────
地下にできる局所的な広い空間のことをそう呼ぶ。そこにはモンスターやお宝といったものが眠っている。何故ダンジョンが出来るのかは不明だが、ダンジョンが出来るとそこには街が栄え、そしてダンジョンの最下層にはアーティファクトなど貴重なものが高確率である。ただその道のりは険しい。
「さっき言ったアーティファクトは『アーベル』のダンジョンにある……まああくまでも噂だがな」
カイザックは欠伸をすると長い灰色の髪をかき上げた。
「クロー今日は上で寝ろよ」
「……俺は下でいい」
「もう動きたくないんだ、察しろよ」
カイザックは地べたで寝返りを打つと早く行けと手をヒラヒラさせた。
クラウディは荷物を持つとアイラを起こさないよう音を立てずに2段ベッドの上の方へと上がった。
マットは硬いが布団は柔らかい。ただカイザックが寝た後もあって散乱しており、使用済み感のあるベッドに少し抵抗を感じた。
クラウディは1人の時以外は仮面を付けたまま寝ており、そのまま横になって布団をかけた。
────匂うな……
カイザックの香水か体臭わからないが良い匂いが布団からした。嫌な匂いではなく目を閉じる。
────アーベルか
少女は得た情報で次の行き先が決まり、どんな街なのか想像しているうちに眠りに落ちていった。




