第98話 Aランク女山賊vsアイラ
アイラは女山賊と森の中へ入ると激しく打ち合い、木を薙ぎ倒しながら気づけば岩場の開けた空間へ来ていた。
女山賊と雑魚山賊を同時に相手しなければならないと思っていたが、仲間2人のおかげでそうはならず助かった。なぜなら意外と女山賊は強く、本当にAランク級であったためだ。
────いや、カイザックのおかげじゃねーな
アイラは掠った頬から流れる血を拭った。
「やるじゃねーかデカ女」
「そっちもやるねーチビのくせに」
何度か打ち合ったが、アイラと女山賊は力はほぼ互角だった。だが、アイラの方の武器が刃こぼれし出していた。
「あんたのとこのあの男……いい面してんじゃん。寄越せよ」
女山賊は包丁を地面に刺し腕を置いた。
────カイザックが良い男?
「はあ?あの男のどこがいいのやら。なに、男を漁ってんのか?」
所詮は顔だけの男にアイラは鼻で笑った。
「中々いいの居ないんだわ。あいつならあたしの相手が出来るかもしれないし────」
「『投擲』」
アイラは使い物にならない斧を敵に投げつけた。すごい速さで飛んでいくそれは常人なら吹き飛んでいるが、山賊は肉斬り包丁で砕いた。
「あんた名前は?私はアイラってんだけど」
アイラはインベントリに手を突っ込んだ。容量は少ないが色々詰め込んでいるので中々目当てのものを掴めない。
「あたしはロブルってんだよ覚えときな」
「いや多分忘れる、ごめんな」
アイラは苦笑いし、目当てのものを取り出した。バチバチと、電撃を纏うそれは属性大斧『ライアク』だった。
それを見て驚愕する女山賊ロブル。思わず身震いする。
「いいね~ゾクゾクする」
「ごめんね~手加減出来ないから」
アイラがライアクを構えると電撃が体に纏わりつき髪が逆立った。
「行くぜ『三波』!」
彼女は斧を地面に叩きつけ、前方三方向に斬撃を飛ばした。
女山賊はそれを飛び退いて避ける。斬撃は木の幹に衝突し根本から頭先までを綺麗に割った。
「うひょーまじかよ」
「よそ見してんなよ『投擲』」
アイラは間髪入れず足元の石を投げつけた。高速で飛んで行く石をロブルはなんとか肉斬り包丁で防ぐが、剣のひらが少しへこんだ。
舌打ちし、地面に着地するとロブルは山賊スキルの『脱肢』を使用し、肩から手先の全ての関節を外した。リーチと威力が上がる奥の手だった。手加減なんてしてる余裕はなかった。
彼女は肉斬り包丁を遠心力を利用して振り回し大斧使いに思い切り叩きつけた。しかし刃が当たってもその肉体は傷一つつかなかった。むしろ自分の武器の刃が欠けたことに驚いた。
「『金剛』……」
「まじかよ……」
刃こぼれした肉斬り包丁が反動で地面にがらんと落ちた。本来ならすぐに腕を引いて回収するが、ロブルの頭には────勝てるのか?────という疑問だけが支配していた。
「『地鳴り』」
アイラは地面を思い切り踏みつけて地響きを起こした。揺れる地面にロブルはハッと我に返るが遅かった。身体が硬直し動かない。
「悪ぃーな、ちょっと楽しかったぜ?ブルドッグ」
アイラは電撃をライアクの刃に集めて大斧振り上げた。
「『奥義・斧無双・斬』!!」
そう言って腕を地面に振り下ろすと激しい轟音と共に、雷を纏った縦長の斬撃が背景もろとも敵を通過した。
女山賊は頭から股下まで一刀両断され表面から煙が上がっていた。防ごうとしたのか肉斬り包丁も真っ二つになっている。
やがて二つの肉塊はドチャリと地面に転がった。
「ブルブルさ~カイザックはまじでやめときな」
アイラは乱れた髪を整えるとライアクを背中に背負った。
クラウディは最後の山賊の喉を掻き切ると地面に転がした。山賊の数は18人も居たようで、森の中に入っていった頭目を含めて19人になる。
辺りを警戒していると微かに地響きがし、地面が少し揺れた。長くは続かずやがて収まると何事かとカイザックも辺りを警戒しながら側に来る。
「こっちは終わったか……」
「ああ、多分」
少女は血みどろのシミターを敵の衣服で綺麗に拭き取り鞘に納めた。
先程の地響きもあり、アイラは大丈夫だろうかと加勢しに踵を返したところでアイラに出会う。ところどころ汚れているが大した怪我は見られない。頬の小さい傷以外は。
「よっ」
アイラは手を上げて笑った。
「ち、生きてたか……」
カイザックは残念だと腕組みし唾を地面に吐く仕草をした。アイラの顔を見て何かに気づいて片眉を上げる。
クラウディも同じ視線を辿り、頬を流れる血が止まってないことに気づいた。
そこまで深い傷ではなさそうであるが、ダラダラと垂れ止まらない。
「アイラ、頬はどうした?血が止まってないが」
少女は彼女の頬に触れた。見たところ傷は浅くここまで出血するようには見えない。
「大丈夫だって」
アイラは傷を押さえて顔を背けた。
「カイザック……何か知ってるな?」
先程の表情の変化に何か知識があると思っていた少女は彼の方に顔を向けた。いつの間にかタバコに火をつけ吸っている。
彼は知らぬ存ぜぬとそっぽを向いていたが、視線に居た堪れなくなったのかため息をついた。
「『呪属性の武器』にやられたな。そのままだと死ぬぞ」
「私が?いやいやそんなバカな……」
クラウディはポーションを取り出してアイラに渡した。彼女はすぐに飲んだが、出血は止まらない。
「治し方は?」
「傷口を削ぐしかないな」
「え、削ぐ……?」
その答えにアイラの顔面が青くなった。しかしこのままでは死んでしまうことは明らかだった。
クラウディはナイフを取り出してアイラに近づいた。が、嫌なのか後ずさる。
「Aランク冒険者が逃げてるな……面白い光景だ」
カイザックがニヤニヤする様子を見て、アイラは眉間に皺を寄せその場にドンと胡座をかいて座った。
「はっ!怖くねーよ!やってくれクロー!」
クラウディは頷き素早く頬に切りつけた。表面の皮膚が剥がれて地面に落ちる。出血も一時さらに垂れるが、ポーションを服用すると綺麗に治った。
「カイザック、助かった」
「ふ、貸し2な」
────ん、2?
一行はその後洞窟内の細道を念の為確認した。やはり山賊たちそれぞれの寝床になっており、他には食糧庫や武器庫などもあった。
特に目ぼしいものはなくあとはギルドに報告すれば死体や物品は回収してくれるだろう。
女山賊にやられた青年は気の毒であるが仕方がない。
隅で震えている捉えられた村娘を解放し、一行は村へと帰った。
村に帰ると最初に会った青年が出迎えてくれ、村娘を確認すると急いで村中に知らせに行った。
各々の家族や友人が抱き合い、帰還を喜んだ。
一行も肩を叩かれたり抱きつかれたりともみくちゃにされながら村長の家へ再び案内された。
その夜は場所を教えると山賊に奪われた食料を取り戻して来たらしく、豪勢な────といってもシチューのようなもの────食事がもてなされた。
「たった3人であの数を倒すとは、さすがAランク冒険者様です」
村長の息子のアッバスが賞賛する。カイザックは特に表情の変化はないが、アイラは得意げに腕組みしており、鼻が高くなるのが見えるようだった。
「私が大将をぶった斬ったんだぜ?!」
「流石です!」
煽てるように拍手され、アイラはさらに鼻が高くなった。そして調子に乗りテーブルに足を乗せ立ち上がった。
「覚えとけよ!私たちはAランクパーティ『レゾナンス』だ!」
声高々に宣言するがその際にカイザックの手元が揺れてフォークに刺していた肉が地面に落ちた。
彼は無言で彼女の足を払いのけ、アイラは顔面からテーブルに突っ伏した。
────やれやれ……
クラウディは仮面をずらして食事を摂っていたが、喧嘩を始める2人の仲裁が面倒で早々に部屋に戻ろうと手を早く動かした。




