第97話 山賊一掃依頼⑥
中は松明の僅かな明かりしかなかったが、夜目が効く少女には十分空間の把握が出来た。
広さは一定であるが、いくらか細い分岐点がありその道は縦横2m幅だった。どこかに繋がっているのかもしれないし、各々の部屋等と繋がっているのかもしれない。
この世界の山賊に対する知識はあまりないクラウディは考えはほどほどに、先程の5人の足跡を頼りに進んで行った。
今のところは太い道に沿って進んでおり、姿はまだ見えない。他の人影も見当たらなかった。
そうして入り口から100m程進んだところで広間があり、急に明るくなった。全体が見え、そこに山賊が集まっているようだった。
ざっと数えて13人。円形に並んでおり、全員奥の方を向いていた。その最奥には逞しい背の高い髪のない山賊が2人、その間に赤い髪を持った同じ格好をした女性山賊がふんぞり返っていた。露出した肉体は筋骨隆々で身長も180はあるだろうか。その女性の傍には肉斬り包丁よりも大きな包丁が地面に刺してある。
もしかしたら彼女が例のAランク級の山賊かもしれない。
さらに視線を端まで広げると簡易的な檻があり、その中に村から攫われただろう村娘が5人、身を寄せ合って震えていた。
「で、こいつか……?」
「はい、どうでしょうお頭……」
よく見ると女山賊の前にうずくまった人影が見えた。若い男のように見えるが。
お頭と呼ばれた大女は屈んで何か調べているようだったがふいに殴りつけるような鈍い音がしたかと思えば、クラウディの足元に何かが落ちて来た。
慌てて少女は洞窟の縁に張り付き、何かを観察した。どうやら先程の若者のようで顔がへしゃげており事切れていた。
「だめだめ!顔がよくても下もちゃんと見ろ!あー、まただめじゃん。使えねー」
「す、すんません」
「雌もこんなの捕まえて……貧弱の何がいいんだか」
クラウディは息を潜めてしばらく彼らの会話に聞き入っていた。男たちの声は小さくて聞き取りづらいが、女性の声は大きく聞こえやすい。
どうやら大した理由もなく人を攫ったようだ。盗んだ食料やらもどこかに保存しているのだろう。
攫われた人たちもすぐにはどうされるわけでもないだろうと確信した少女は一旦戻ろうと踵を返した。
「────ん?……へぇ、おい、てめーら尾けられたな?」
────っ?!
その言葉に振り返ると眼前に例の肉斬り包丁が飛んできていた。
少女は咄嗟にしゃがみ、かろうじて回避した。その際にミラージュクロスがはだけて消えていた姿が露になる。肉斬り包丁はそのまま壁に突き刺さった。
ミラージュクロスはあくまで迷彩であり、動く際には空間の揺らぎのようなものがどうしても生じてしまう。女山賊はたまたまその揺らぎを目に捉えていた。
侵入者の姿を確認した山賊たちが一斉に武器を構えた。
────まずいな、合図を……
クラウディはジリジリと後退しながら生命石に触れて意識を集中し、背後に黒い球を出現させた。
敵の目がそれに集中した瞬間に色を反転させ激しく瞬く光を浴びせた。さながら元男の世界でいう閃光手榴弾の要領だ。
激しい光に山賊たちは悲鳴をあげて目を押さえよろめいた。視界を奪われて混乱しているうちにクラウディは外に駆け出した。
だが、先程の女山賊と両脇にいた大男が目を閉じたまま少女を追いかける。長年の野生の勘というものだろうか、壁に衝突する様子はない。幸い足は少女の方が速く、洞窟を出ると、合図を確認した2人に合流した。
入り口にいた見張りは既に倒され地面に転がっている。
「なんか音がしたけど大丈夫?」
アイラが心配する。
「悪い、勘がいい奴がいた……と、来たか」
クラウディが状況を説明する間もなく視力の回復した3人が洞窟から飛び出して来た。
「アイラは女を。俺とカイザックは他を相手する」
2人は頷き、アイラは口端に笑みを浮かべながら女山賊に飛びかかった。
クラウディは素早く剣を左右に握り、左の大男に突進した。
敵はサーベルを持っており振り上げて侵入者に斬り下ろした。地面を抉るほどの威力であるが、当たらなければ意味はない。
少女は当たるスレスレで回避し、即座に回転しながら背後に周り両足首の腱を切断した。
敵が痛みに呻いて膝をついたところで首が下がりそのまま斬り落とす。
カイザックの方を見ると短剣を口に咥え距離を取りながら弓を引いている。いくらか矢が刺さっていおり敵の動きも鈍っているように感じた。おそらく彼は大丈夫だろう。
────問題はアイラだが
洞窟の中から大勢の足音が聞こえ、山賊たちが次々に加勢に来ていた。
少女はアイラのことを見る余裕がなく、迎えうちに行った。
走りながらナイフを2本を先頭に投げつけ、2人の腕と足に刺さる。痛みで怯んだところを素早く喉を掻き切り次を迎え撃つ。
敵群は少し距離を取り2人が突っ込んだ。遅れて槍を使う者と弓を使う者がその背後に続いた。
「『槍刃』」
少女が2人の近接武器の相手をしていると隙間から鋭い突きが繰り出され頬を掠った。完全に回避したつもりだったがスキルというやつなのか見た目より攻撃範囲がある。
さらに矢が飛んできて慌てて剣のヒラで弾いた。
────生命石よ
クラウディはシミターを近くの山賊に突き刺し指先を弓使いに向けた。雷をイメージして魔法を放ち雷鳴が響いた。
放たれた雷は弓使いの胸を打ち壁に叩きつけた。そのまま動かなくなる。
魔法を見た山賊たちがたじろぎ一瞬動きが止まる。その隙を逃さずシミターを敵から引き抜くと脇に両腕を構えて2人の脇腹を裂き、返す手でさらに1人の首を刎ねた。
ざっと見で半数は倒したと思ったが、奥からまだで出来ているのが見えた。おそらく横穴にもいくらかいたのだ。騒動を聞きつけて加勢に来たらしい。
────何人いるんだよ……
クラウディは合流しようとする山賊目掛けて足元に雷を放って足止めし、対峙している山賊たちを先に倒そうと向き直った。
「「「『咆哮』」」」
山賊3人が少女を囲み凄まじい声を上げた。その威力に片方鼓膜が破けてその場に釘付けになる。
「うる、さ……」
何とかシミターを投げて1人倒すと声は止んだが、少女の視界は歪んだ。
平衡感覚が狂い、足元がふらついた。しかし敵は待ってくれるわけはなくサーベルが目の端に映った。慌てて首を引っ込めると頭上を刃が空を切った。
少女は剣を振り上げて敵の腕を斬り落とし、ナイフで首に突き刺した。
その際に足のバランスを崩して転倒する。そこに敵の1人が素早く動き剣を振り下ろし、それを何とかシミターで受けた。
耳鳴りが酷く、視界がさらに歪んできて他の対処が出来ず、別の敵が襲って来たら終わりだったが山賊の頭に矢が刺さったと思ったらその場に倒れ伏した。
「遅くなった、クロー」
カイザックがようやく加勢しに来て矢を番えて次々に打ち込んで倒していく。山賊の1陣は倒し、彼はクラウディの腕を掴んで立たせた。
「早くポーション飲め、まだいるぞ」
「ああ、助かる」
クラウディは袋から中級ポーションを取り出して飲み干した。傷がみるみる治っていく。耳鳴りは続いていたがほぼ全快した。
少女は敵からシミターを引き抜き構えた。山賊たちの第2陣が迫っていた。




