第94話 山賊一掃依頼③
部屋に荷を解いた後少ししたら食事が運ばれてきた。
パンと肉が多く入ったスープに芋を蒸して塩を振ったものだった。
アイラはガツガツと平らげたがカイザックは空腹ではないといい半分も食べなかった。
少女も流石に量が多くて食べられず残してしまった。
「これからどう動く?」
クラウディは口を拭いながら椅子にもたれている2人に聞いた。
「酒」
「女」
「…………」
────こいつら……
「山賊退治はどうするんだって」
呆れながらもう一度聞いた。
「冗談冗談。……そうだな取り敢えず村の住人から山賊の出没時期やらもう少し詳しい人数、武器とか聞き込むのが定石だろ」
「え?あ、そうそう、はは、ジョーダンだって」
カイザックがまともに返すのを聞いてアイラは慌てて言った。彼女は本気で酒を飲むつもりだったらしい。
彼らは食後は各々行動する事にした。
クラウディはもう一度村長を訪ねるため、大広間を通って奥の部屋に行った。廊下の先が続いておりどうやら左右対称のようで突き当たりに部屋があった。
ノックをすると先程の村長の息子アッバスがドアを開けた。
「冒険者さんでしたか、どうかしましたか?」
「もう少し話を聞きたくてな」
彼は中の様子を一度見て部屋の外に出た。
「村長はもう歳なので休ませたいです。私で良ければ何でも答えましょう」
2人は大広間に移動し、クラウディは促されて席に座った。男はお茶のような飲み物を出し、少女の近くの席に座った。
「それで何を聞きたいのでしょう?」
「思い出せるだけでいいからもう少し詳しい敵の戦力と出来れば根城も知りたい。あと連れ去られた人数も」
アッバスは難しい顔をして少しの間思い出そうと顎を触った。
「最低でも敵は10人はいるでしょうね。サーベルや斧を持った人が多かったように思います。山賊の根城については詳しい位置はわかりません、山の中としか……あと連れ去られたのは10代の女の子5人です」
「……そうか」
クラウディは出された飲み物を啜った。この『アストロ』にもお茶というものがあるのかわからないが、味はお茶のようであった。
────かなり渋いな
「私も村の者たちの情報も集めてはいたのですが……あまり役に立てず申し訳ない」
頭を下げる村長の息子に少女は顔を上げるよう言い、そんなことはないと伝えた。
とはいえ村の情報をまとめたものが今のものなら他の2人も大した収穫はないかもしれない。
クラウディはアッバスに礼を言い外に出た。
他の2人を探したが、村は小さいのですぐに見つかった。
アイラは村の子供と遊んでおり、カイザックに至っては比較的美人な村人を口説いているようだった。
カイザックはクラウディの視線に気づくと肩をすくめ村人と別れた。女性は満更でもないのか手を振りながら帰っていく。
「良いところだったのにな」
「お前、見境なしか」
「おいおい、もう2日も女を抱いてないんだ。仕方ないだろ」
「……」
少女はニヤニヤと笑う彼を無視してアイラの方へ向かった。
子供を両腕にぶら下げて危なっかしく揺らしている。子供たちは嬉しそうにキャッキャと笑っているが、見てる親は気が気でないだろう。
「アイラ危ないから降ろせ」
「え?でも笑ってるぜ?」
「こいつらの親だろう?こっち見てるぞ」
アイラはクラウディが顔を向ける方向を見て親らしき何人かが心配そうに見ているのに気づき、仕方なく降ろした。
「お姉ちゃん、この人怖いー」
子供のうち、下の歯抜けの子がクラウディを指差した。
「おーよしよし、大丈夫大丈夫。こいつは金持ってるから大丈夫なんだぞー」
────金?
アイラは適当なことを言って子供を親元に返すと立ち上がった。
「なんだ?子供に嫌われる口か?そんな仮面してるからじゃないのか?」
カイザックはクラウディの顔を覗き込みながら言った。
「慣れてる。それよりお前らの方はどうだった?」
「私は特にないかな」
────だろうな
「俺も特にないな」
────だろうな……
クラウディはため息をつき、2人に先に部屋に戻っているように伝えたが、2人きりになるのが嫌なのかついてきた。2人には黙っているよう伝えて他の住人に話を聞いたが予想通り、大して有益な情報はなかった。
なので一行は一旦部屋に戻り、今後の作戦を立てる事にした。
しかし部屋に帰るや否やカイザックはベッドに上の方に寝転がる。アイラがそれを見て文句を言い始めた。
「取り敢えず明日は森に入ってみようと思う。誰かが囮としてど真ん中を歩くとかどうだ?」
クラウディは彼らの間に入るように、アイラに提案した。
「そこを一網打尽にするということだな?」
アイラは頷いた。単純な作戦ではある。
「誰がそれをやるんだよ」
上からカイザックが欠伸しながら言う。
「そりゃカイザック、てめーだろ」
アイラが鼻で笑った。
「おいおい、女の方がいいだろーが」
────また始まりそうだな
少女は言い争いにやれやれと思いながらも話題を変えようとさらに口を挟んだ。
「今のうちにお互い何が出来るか確認したいんだがいいか?作戦組む上でも必要な情報だ」
「私は『戦士』だからな。スキルは全般習得済み。Aランクモンスターは大体倒したことあるぜ?」
腰に手を当て得意げにアイラは背筋を伸ばした。
カルザルの件でも彼女は少女よりも敵を倒し余裕を見せた。もし山賊に本当にAランク級がいても任せられるだろう。
「カイザックは?何が出来る?」
「何をして欲しいんだ?」
アイラは攻撃が出来るし、クラウディ自身もある程度戦えるし撹乱もできる。欲しいのはやはり後方支援。
「魔法か、遠距離攻撃の手段があれば」
「……弓ならある程度使える、か」
カイザックはそう答えた。含むような言い方だが、遠距離が出来るなら言うことはない。
「お前は何が出来るんだ?」
今度は彼がベッドからチラリと顔を覗かせた。
「俺は剣術。あと多少攻撃魔法も使えないこともないが、あまり頼らないでくれ」
『生命石』は現在はマナの補充が難しく多用は避けたい。ほとんど使ってない為まだまだ使えるが魔法によっては一気に消耗するので頼っては欲しくなかった。
2人からは特に何か言われることはなかったので陣形を考えようとしたが、アイラの腹の虫が鳴った。
「そろそろ飯にしよーぜ」
腹をさすりながらアイラはヘラヘラと笑った。
外を見ると夕暮れ時だった。
「クローなんか作ってくれよ。ここの飯も良いけどこの前の肉とか美味かったからさ」
「へー。お前料理できるのか?俺のも頼むよ」
「…………仲良くするなら作る」
「「了解~」」
2人の声がハモり一瞬険悪な空気が流れるが、クラウディが咳払いするとお互い作り笑いを浮かべた。
「台所ですか?」
クラウディは村長の息子の部屋を訪ね、台所が借りれないか聞いた。
「ああ、ちょっと料理を作ろうと思ってな」
「私たちのですか?」
「……ん、まあまとめて作ろうか?」
それは悪いですね、と言いながらも台所へと案内し、材料は保管庫から適当に使って良いと説明を受ける。
アッバスは村長の様子を見に台所を出て行った。
────さて、何作るかな
クラウディは保管庫にある食材を見ながら、自分のインベントリも漁った。保管庫には基本的な野菜はあり、卵が多めにあった。肉は少なかったのでこの間のボアムートの肉を、残り少ないが使う事にした。
フライパンに油を敷いて温めている間に野菜をザク切りにし、それを炒めている間に肉を細かく切る。
肉を加えてよく焼けたら全体に塩胡椒で味付けして──── 5人分なので結構重たい。────5皿に分けて置いておく。
再度フライパンに油を敷いて温めている間に卵を溶き、軽く味付けしてフライパンにゆっくり落とした。
グルグルとかき混ぜ、程よく固まったら楕円に成形し先程の肉野菜の上に乗せる。それをもう4回繰り返して、前作ったケチャップもどきをかけて完成とした。
2皿は村長と息子に持っていき、あとは部屋に持って行った。テーブルに置くと2人が良い匂いだなと寄ってきた。
「おお?なんだこれ?初めて見るな」
アイラが肉オムレツを見ていろんな角度から見ている。クラウディはナイフで丸めた卵焼きに切れ目を入れて広げた。
卵が肉野菜を包む姿を見てアイラは感嘆の声を上げた。早速椅子に座ってスプーンで口に運ぶ。
「う、うめー!!」
「ほぅ……」
カイザックもクラウディのやり方に倣って卵焼きを割って口に運び、声を上げた。
────そんなにすごいものではないんだが……
元の世界では逆にこういう簡単なものしか作れなかった元男は、美味しそうに食べる2人を見て首を傾げた。
少女自身もスプーンを口に運ぶが予想通りの味で大した感動はなかった。
「おかわりねーの?」
「え」
「ワインはないのか?」
「……」
クラウディはさすがにもう一回作るのは面倒なのでアイラには適当にパンと干し肉を追加で渡した。
カイザックも何か期待した様子だったが、生憎酒はないので持ってきてるなら自分のを飲むよう言った。
2人ともやや不満げだったが料理を作ってもらった手前なのかそれ以上文句は言わなかった。
後に村長の息子が部屋に訪ねてきて料理を褒めていたが、慣れてないクラウディは終始困惑した表情だった。とは言っても仮面で表情は伝わらなかっただろうが。
その日の夜は各々湯浴び場を借りて体をキレイにし早々に床についた。
ただクラウディはカイザックに夜遅くまでトランプゲームに付き合わされた。




