第93話 山賊一掃依頼②
翌日、陽が昇り始めた頃、アイラはクラウディを起こそうとしたが、既に出てくるところだった。
「お、おう早いな」
「カイザックは?」
少女はカイザックが起こしに来るまでに少し離れて仮眠を取って自ら見張りを交代し、アイラとの交代の際は彼女のテントで眠った。
アイラには面倒臭いのではないかと言われたが別に苦にはならない。
「あいつはまだ寝てんじゃねーの?先に飯にしようぜ」
アイラはそう言って自分の荷物から干し肉を取り出して食べだした。
クラウディもパンと干し肉を取り出して食べた。
しかしなかなかカイザックは起きてこないため、彼のテントに向かい声をかけた。
────返事がないな
何度か声をかけるが何も反応がないため、テントの前垂れを開けて中を覗く。
テントは広く5人は余裕で寝転べる広さだった。だがタバコの臭いが強い。酒瓶も幾らか転がっており酒を飲みながら寝たようだ。
カイザック本人は中央で寝転がっていた。ただし見える部分に衣服を纏っていない。端に服が脱ぎ捨ててありおそらく全裸だろう。
軽く足をつついたが起きない。仕方なく靴を脱いで中に入り肩を揺すったが、それでも目を覚まさなかった。
────これで起きないならどうしろってんだ……
カイザックの寝顔を見ながら首を傾げた。と、不意に彼の瞼が開き目が合った。
クラウディは声を掛けようとしたが、彼はいきなり少女の腕を掴むと地面に押し倒して馬乗りになった。
しかし、一瞬間を置いたのち、少女はカイザックの腰に足を絡めると身体の位置を入れ替えるように腰を捻った。
カイザックが今度は地面に背中をつきクラウディが押し倒す形になる。
よく見ると彼の目は虚で寝ぼけているようだった。
少女が彼の頬を軽く叩くと目を瞬かせ、カイザックは怪訝な表情をした。
「俺は男に押し倒される趣味はないんだがな」
「……勘違いするな寝ぼけたお前が先にやってきたんだ」
「…………いつまでやってる」
言われて少女はカイザックから降りた。
すると彼は頭をガシガシとかきながら起き上がった。
クラウディが全裸の男の姿見て脱いであった服を彼に投げる。
「服を着ろ、出発するぞ」
少女はそう言ってテントの外に出た。アイラが何かあったのかと聞いたが少女は────何も────と返事した。
一行は野営を片付けるとすぐに出発した。山賊が出るという山まで半日歩けば着くだろう。それまでに被害を被っている村があるはずだった。
「ふぁあぁ……」
カイザックは歩きながら欠伸した。二日酔いなのか少し歩みが遅い。
「おせーよカイザック!てめー酒飲んだな?!うらや……じゃない、クエスト中は控えろよ!」
そんな彼の様子にアイラが青筋をたてた。彼女自身も酒が飲みたくてイライラしていた。
「あー、朝から女の声はきついな……」
耳をほじりながらカイザックはため息をついた。
「喧嘩売ってんのか?」
────また始まったな
悪態のつき合いが始まると思ったクラウディは歩くペースを落として2人の間に移動した。
「アイラはこの先の村には行ったことあるか?」
「ん?いやねーよ。私はあまりこっち方面には来てないから」
「カイザックは?」
「俺もないな。ただ噂では依頼書の通り山賊から被害を受けてるとは耳にしてたな。村では大した自衛手段もないらしいからな。そのくらい小さい村ってことなんだろう」
────冒険者ギルドからの依頼だったが本当は村からか?
クラウディは依頼書を見ながら思った。どういう経路でギルドクエストになったのかはわからないが、そんなに小さい村が大金を出せるはずがない。
「昨日言った通り手伝ってくれるんだろうな?」
「……まあ約束だしな」
昨晩はトランプで『スピード』を教えて何回かゲームした。ほぼ反射神経のゲームであり、ほとんどクラウディが勝っていた。最後だけはカイザックが勝ったが、負けが多くて不機嫌になるかと思っていた。もしかしたらそれで酒を飲んだのかもしれないが、今は特に不機嫌さは感じないため少女は安堵した。
────機嫌を損ねると『帰る』と言い出すかもしれないしな
アイラが会話を聞いていて片眉を上げた。
「へっ、私とクローで十分だと思うけどなぁ。ま、足引っ張んなよ」
また相手を煽るがカイザックは相手することなく黙々と歩いた。返答がなくアイラはフンと鼻を鳴らした。
昼時には小さな村が見えてきた。簡易的な柵が村をぐるっと囲っているが、せいぜい家畜が外に出るのを防ぐ程度のものしかない。
入り口に近づくと見張りらしき村人が立っており、一行に気づくいて警戒し前に立ち塞がった。若い青年だ。17、8歳くらいだろうか。簡素な農業服に、頭に民族のような特有の赤と青のラインが交互に入ったバンダナを巻いている。
「どちら様で?」
「冒険者ギルドからきたAランクパーティだ」
アイラが1番高いAランクなのでパーティを組むと自動的にAランクへと引き上げとなっていた。
伝えてもまだ警戒していたが、依頼書を見せると驚いて中へ通してくれた。
村は木造の家ばかりで数も十数と少ない。人数も20人いるかいないかだろう。牧場が一つと、あとはそれぞれが畑を営んでいるようだった。
一行はそのまま村長のところへ通された。
村長の家は平屋で横に大きかった。
中に入ると大広間へと通され、大きなテーブルに3人は待機させられる。村の住人が集まって話をするとこだろうか、椅子がたくさん置いてあった。
その椅子にアイラとカイザックはお互い距離を空けて座った。座ったのはいいがテーブルに2人とも足を上げ出してクラウディは『足を下ろせ』と手で合図した。
少しして腰の曲がった老人と先程の青年、それと中年の男性が大広間に出てきた。
「これはこれはわざわざAランクのパーティ様が来てくださるとは……どうもありがとうございます」
老人が膝を曲げて礼をする。
クラウディは立ち上がりどうもと軽く会釈した。他2人は一瞥しただけだった。
────側から見たら態度最悪だな……
村長たちも椅子に座り依頼について話し出した。
「こんな寂れた村によくぞ来てくだいました。私は村長のロードル、こっちは息子のアッバスと言います。早速依頼についてですが、ここからすぐ東の森に山賊がどこからか移動してきましてな────」
村長の話では突然山賊が先月ぐらいから降りてきて畑を荒らしたり、家畜を攫ったりして行ったらしい。それが今も断続的に続いていると。
それだけならまだしも極最近では村人も何人か殺され、村娘も攫われたとか。
「それは大変だったな。よければ山賊の数とか特徴、武器……何でもいいから教えてくれ」
クラウディは話が終わったところでそう聞いた。
「数は5、6人でしたが、毎回少し人が違ったので10人以上はいるかと。特徴は皆大柄な男が多いという感じですかね……武器については多種多様でございます────」
村長はそこで咳き込んだ。息子のアッバスが慌てて身体を支えた。
「村長はお身体が弱いので、少し休みます。皆さんは客間をお貸ししますのでそこを自由にお使いください。どうかご協力お願いします」
村長とアッバスは奥へ引っ込んだ。入れ替わりで先程の青年が来て一行を部屋に案内する。
ギシギシと床の音を立てながら廊下を進んで行くと突き当たりに部屋があった。
促されて中に入ると8畳ほどの広さで、机と2段ベッドが置いてあった。
「食事はこちらで提供します。飲み物は水しかありませんが、また後で伺います。他にご入用が有れば僕が広間で待機してますのでなんなりと」
「了解した」
よく出来た若者だと感心して出て行ってドアから視線を外すと、他の2人がベッドの取り合いをしていた。
「私が上だろが、レディファーストをしらねーのか?」
「ん?お前女だったのか?うけるな」
────勘弁してくれ……
クラウディは子供のような2人に頭を抱えた。




