第87話 スティクスラッシュ
翌日、クラウディはギルドへ依頼の報告をしに行くと直接依頼主のところへ行くよう言われ、仕立て屋に訪れていた。
「ありがとう、結構状態いいから報酬ちょっとだけ上乗せておくよ」
「助かる」
カルザルの皮は柔らかくて寒い時期にうってつけなのだそう。1着買って置いてもよかったかもしれないが、依頼主に素材を納品したあとすぐにクラウディは外に出た。
アイラの方は宿で休んでおくと言ってついては来なかった。
昼食は宿で食べたばかりでこれからどうしようかと街を歩く少女。ギルドのクエストは少し休むことにしたは良いがやることがない。また本でも買って帰るかと娯楽街にくると例の棒斬りゲームが目に入った。
今日はいつもより人が少なめで、少し覗こうと観客の後ろから背伸びをした。が、前の人の身長が高くて見えない。
記録だけはなんとか隙間からチラリと見え、この前は9が最高だったが、今は塗り替えられて10となっている。
「おい坊主、ちょっとここ順番並んでてくれや、駄賃やるから。ションベン行ってくる」
クラウディは不意に力強い腕に捕まれると半ば強引に参加列に並ばされ、手に何か握らされた。
手を開くと銀貨が一枚あった。
────安い駄賃だ
待つ義理もないのですぐに離れようと思ったが先程の男が抜けたことでゲームの様子が見えてその場に留まった。
ゲームの行われるステージは円形で左右2箇所で棒斬りを行うみたいだった。
棒はそれ用にこしらえたのか大体同じくらいの太さ、長さで、縦に立てて斬っていくものだった。棒は立てる針が置いてあるがそれ自体にはそこまで支える能力はなく棒が倒れた時点で終了らしい。
参加費は1人1000ユーン。制限時間は大体10分くらい。審判らしき人物と進行役の人、列を整える人が取り仕切っているようだった。
クラウディが現在並んでいるのは前から6人目だった。後ろにはかなり並んでいる。
そして今2人終わったので2人前に出て次の次となった。
剣は自前のものを使うらしく、今出た2人は腰に下げていた剣を抜いて競技を始めた。
お互い特に速さを競うものではなく、時間をかけて集中している。
2人の剣は普通のロングソードで、左の者は横からぶつけて1回斬ったが棒が倒れてしまい終わった。
「くぁー!難しい!!」
悔しそうに項垂れた。
もう1人も同じように2回斬り、倒れそうになったところでもう一度斬って3回で終わる。
「記録1回と3回!残念!また挑戦して下さい!」
参加した2人が悔しそうに出ていき、少女の前の2人がステージに上がった。
────もう少し見たら帰るか……
辺りを見渡しても先程の男は見当たらず。
ステージを見ると左の男がさっさと5回斬って歓声が上がった。武器は刀身の幅の広いブレードソードのようだった。
一方で右の男は2回で終了し、左の男に注目が集まる。
クラウディも気になったがそろそろとその場を後にしようとする。
「坊主次だろう並んでなきゃダメだろ」
少女の後ろの順番の人が腕を掴んで元の位置に戻した。
「いや俺は……」
「あー!惜しいね7回!残念またいらしてください!では次の人!」
もたもたしていると後ろから押され前に出てしまった。
「お二人ですね、では初めてください」
────あーまあいいか……
さっきの男の順番取ってしまったなと気にしつつもやってみたかった元男の少女は右の棒の方に行き、鞘からシミターを抜いた。棒の長さは150cmくらいだろうか。木製で綺麗な不規則の木目が見えた。
刃を軽く押し当ててみるが簡単に倒れはしない。試しに横に斬りつけた。
弾ける音と共に枝が真っ二つになり上50cm分が地面に落ちた。
────あ、けっこう斬ってしまったな
クラウディはチラリと記録をみてあと10回斬る長さを目測した。あと1mでそこまで斬れるか微妙である。
今度は斜めに斬り下ろし、衝撃が下に行き切る前に斬り返し斜め上に斬り上げる。
棒はほとんど揺れずその場に留まった。少女はそれを繰り返しあっという間に追加で9回輪切りにする。
あと1回で記録更新のため、一度剣を構え直した。
「いいぞチビ!」
「まじかよすげー!」
周りからは歓声が上がった。
棒は横に刃を入れると倒れやすくなるため斜めに斬り下ろすのが1番だった。ただあと50cmくらいしかないので余程斬れ味が良い刀とかでない限り難しい。
勢いよく斬ると地面に当たって刃が欠けるかもしれない。
────まああと1回くらいなら斬り返せるか
少女は姿勢を低くすると、同じように斬り下ろして棒を落とし、返す手で斬り上げる。しかし金属音が鳴って枝が吹っ飛んでいった。
どうやら支える金属の針に当たってしまい、隣の挑戦者近くで落ちた。隣の挑戦者は早々に終わってしまったようで眺めていたらしく飛んできたものに驚いていた。
観客の何人かがその様子を笑ったがそれを掻き消すほどの歓声が上がった。
「すげー11回だぜ!」
「記録更新かよ!」
「まだ行けた感じもするぜおい」
少女は剣を納めさて帰るかとステージを降りようとした。
「小さな仮面の旦那に拍手を」
進行役が叫び拍手が湧く。クラウディはびくりと辺りを見渡しそそくさと輪を出た。その際色んな人から背中を叩かれたりもみくちゃにされそうになった。
「あの、今日1位であれば賞品を届けたいのですが連絡先は?」
ようやく観客の輪を抜けたところで棒斬り競技のスタッフらしき男の人物が声をかけてきた。若く華奢な体つきの身綺麗な見た目だった。
「冒険者ギルドにでも……」
アイラの宿を言おうか迷い、迷惑になるかと思ってギルドを指定した。
「お名前を伺っても?」
「クローだ」
男はそれを聞くとお辞儀し競技場へと戻っていった。クラウディも続く競技のざわめきを聞きながら宿へ足を向けた。
宿に帰るとアイラは床にいびきをかいて寝ていた。側に酒瓶が何本も転がっており少女は危うく踏んで転びそうになる。
クラウディはため息をつきアイラをベットに寝かせると空の瓶を片付け、湯を浴び、剣の手入れをしたりして過ごした。
夕方になるとアイラは目を覚ましてベッドから起き上がった。伸びをして辺りを見渡し、少女が目に入るとニコリと笑った。
「わりぃわりぃ!寝ちまった」
「少し酒を控えてはどうだ?」
クラウディは本を閉じてテーブルに置いた。
「いやぁ、美味くてやめらんねーよ……」
アイラがベッドを降りてテーブルに置いてあった水を飲み干す。少女が彼女用に置いていたものだった。
「何しにいってたんだ?」
「昨日の報告だ。これが分け前だ」
クラウディはそう言って懐から報酬の5000ユーンを置いた。本来なら半額だが、色をつけてくれたので倍となった。揉め事は御免なのでパーティへの報酬分配は公平に均一にすることにしていた。
「へへ、サンキュー」
「あまり無駄遣いして欲しくはないんだが?」
そういうなよとヘラヘラと笑うAランク冒険者は服を脱ぎ出した。
「風呂に入ろうぜ!」
「俺はもう入った」
「あんだよつまんねーな……」
口を尖らせぶつぶつ文句を呟きながら彼女は1人で風呂へ入る。また例の鼻歌混じりに水音が跳ねた。
「アイラ、カイザックはどこにいるんだ?」
仕切り越しに少女は聞いた。やはり確かな情報としてはこれしかなく、遠回りはしたくなかった。Aランク冒険者が『カイザック』のことを知っているのは明白だった。
「げ、まだ言ってんのか……やめといた方がいいと思うけどな」
「頼む……俺には情報が必要なんだ」
「どんな情報なんだ?私がわかるものなら教えるからさ」
願ったり叶ったりの事ではあるが、果たして知っているだろうか。クラウディはアイラが風呂から上がるまで静かに待った。
「『憑依』?と『転移』『転生』関連のことか…………」
風呂から上がったあとクラウディは情報を得るのに必要なことを話した。しかし唸って難しい表情をするアイラ。やがて降参するように両手を上げた。
「だー難しいのはわかんねー!魔法なんて縁がないし……『転移』なら王都に行けばわかるだろうけど」
「王都か……」
ここからどれくらいかかるのかも、道もどれを選んで行けばいいのかわからない。
「『転移』はどこまで移動が可能なんだ?」
「し、知るかよ……私は見たこともねーんだから……ああもうわかったよ…………カイザックは北門外のテントにいるって聞いてるから行ったらいい」
少女がどうしようかと唸っているとアイラは観念したのかため息をついて教えた。
「外のテント?特徴とか」
「1番大きなやつかな……言っとくけどクロー」
アイラはクラウディの肩を掴んで真剣な顔つきになった。
「あいつは女好き!絶対にバレちゃダメだ!」
「……アイラは来ないのか?」
「私はパス!あいつ嫌い!この話おしまい!寝る!」
カイザックという男とアイラは過去に何かあったのだろうか。ベッドにふて寝するAランク冒険者の背中を見ながら少女は首を傾げた。




