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アストロ・ノーツ────異世界転生?女になって弱くなってるんだが……  作者: oleocan
第6章 娯楽と快楽の街ベルフルーシュ
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第81話 情報屋の情報







クラウディは次の日はまた『ナイトローズ』ギルドへ行った。賭博で得た金はインベントリに入れて宿に隠してきた。取られてはたまらない。


ギルドの受け付けに先日のバウムート討伐依頼書を提出すると報酬がもらえた。


────1万か……昨日の金額を見た後だと少なく感じるな


いや、と少女は首を振り金は大事に使わなければと金貨を握りしめて硬貨袋へと入れて懐にしまった。


「えー、クローさんでしたかね」


受け付け嬢に呼ばれて少女は顔を上げた。


「そろそろ昇級試験とか受けてみますか?」


「試験?俺が?」


「はい。えと記録では墓場の浄化。グールと彷徨う甲冑の討伐。さらに先日バウムートソロ討伐。そしてスピリットイーターの討伐とのことですので」


記録用紙か何かをペラペラと捲りながら受け付け嬢は言った。


「『魂喰らい』の件は報告してないが……?依頼でもないし」


「素材換金の際も成績が上乗せされていきますので、クローさんなら充分資格があるかと」


どうやら換金所とギルドが連動しているようで、依頼を受けなくても適当にモンスターを狩って売れば勝手に成績が上がるということらしい。


「……」


「ちなみに『魂喰らい』の素材の件で換金所がお呼びですのでこの後行かれてください」


「わかった」


「それで試験は受けますか?」


「ああ頼む」


それならば早めに受けておこうと頷くと希望日を聞かれ、明日を希望した。


「では予定は組んでおきますので、明日にまたお越しください」


少女は了解して外に出ると今度は換金所へと向かった。


換金所には相変わらず人はおらず生臭い臭いが漂ってきていた。


受け付けに声をかけると少女お待ちくださいとその場に待たされた。そして奥からまた例の男が出てきた。


そして『魂喰らい』のコアをカウンターにある銀皿に落とし少女の方へ差し出した。


「申し訳ありませんが、これは価値が分かりかねますので一旦お返しします」


「そうか……」


「決して低い価値ではないと思いますが実例が少ないもので」


落胆した様子の少女を見て男がフォローするように言う。彼女はコアを回収すると荷物にしまいバウムートの素材を代わりに出した。


それを受け取ると再びしばらく待つよう言われ、中にあるベンチに座って待った。


待つ間『魂喰らい』のコアをどうするか考えた。モノが小さいので失くすか忘れてしまいそうだ。売れないなら単純に捨てるか、誰かにあげるか、鍛冶屋にでも持って行ってみるか。Aランクの素材なだけに扱いに困る。


少しの間迷ったが、クラウディは『プリムスライム』の瓶を取り出し蓋を開けると『魂喰らい』のコアを中に落とした。


ゆっくりと中に落ちていきコアが泡立ち始める。そこまで激しくなく持ち上げて様子を眺めていると透明な液体越しに受け付け譲と目が合う。訝しむように眉間に皺を寄せていた。


────まずいか


変化が気になるが一旦瓶をしまい大人しく査定を待った。


「クローさん査定結果出ました」


呼ばれて受け付けに行くと金貨1枚が用意されていた。


「1万もするのかあれ」


出したのは大きな牙と50cm(かく)の毛皮を2枚だった。


「通常より一回り大きくて状態も悪くないとのことなのでこの額ですね。通常なら5000てところです」


じゃああのバウムートは強い個体だったと言うことかと、苦戦したのも納得出来た。ありがたく受け取ると換金所を後にした。







昼からは酒場へ行き情報収集をすることにした。


────俺の欲しいものがある……か


ベルフルーシュには占い師が予言した、クラウディ自身が欲しているものがあると言うことで来たのだが、いまいちピンと来るものがない。


そもそもそれがモノなのかどうかも怪しい。


少女はギルドの近くの『エールダンス』という酒場の前に来ると中に入った。


────名前が皮肉……


中は暖色のランプがいくつも天井に吊るさられてかなり明るい。その下では声や物音が騒がしく人が飲んだり歌ったりしていた。その中にはアイラの姿もあり他の人と肩を組んで酒を飲んでいた。


テーブルもいくつもあったがほとんど埋まっていたため、クラウディはアイラに見つからないようなんとか人混みを縫って進み、カウンターに一つ空席を見つけて座る。


「冒険者かい?何にする?」


酒場の店主が少女に気づいてグラスを出しながら聞いてくる。身綺麗な黒一色の服で髪も短く清潔感がある。


「おすすめを……あぁ、酒はなしでさっぱりした飲み物を頼む」


周りから酒の匂いがし少女はそう頼んだ。料理を待つ間辺りを見渡した。


カウンター内には大小様々な樽が並び、ジョッキやグラスも綺麗に並べられている。フロアにはウェイターが何人かおり酒の入ったジョッキを運んだり輩に絡まれたりと忙しそうにしていた。


フロアの端にはちょっとしたステージがあり、そこでは楽器を弾きながら歌を歌う男がいた。羽根つきの帽子を被り、スカーフを巻いている姿は吟遊詩人を思わせた。


────取り敢えず情報屋を探してみるか……


クラウディは隣に座って酒を煽る小太りの中年男性に話しかけた。


「『イコール』っていう情報屋を知っているか?」


レイボストンの闇市にいたオカマが言っていた名前だ。


「んー?『イコール』?なんら聞いらことあるような……?」


小太りの男は呂律の回らない舌でしゃべった。大分酔いが回っているようだ。まともに会話はできないかもしれない。


さらに聞こうか迷っているとクラウディの目の前にレモンがグラスに刺さったジュースが置かれた。


「これ、酒じゃ……」


「『イコール』といえば大きな情報ギルドのことですね、お客さん」


店主がウインクした。どうやら何か知っているらしい。


少女は金貨を1枚カウンターに置き、様子を見た。店主はさっと金貨を受け取るとニコニコと笑顔になった。


「『イコール』という言葉は等価を示すと言いますね。情報ギルドはあちこちにあるともいうし何処にもないとも言われています」


「……?」


「つまりここベルフルーシュにいるとも言えますし、居ないとも言えます」


「??」


謎かけじみた説明に全く意味がわからずクラウディは首を傾げた。その様子をみて店主は肩をすくめた。そして何か考える風に間を置いた後再び口を開く。


「全体を探そうとせず、個を探してみるのもいいかもしれませんね」


────個?


つまり情報ギルドが大なり小なり多すぎるから、個人を特定して探せと言うことだろうか。


「カイザック……」


店主は静かに言った。


「私に言えるのはここまでです」


店主はそれっきり何度か質問したが笑うだけで答えてはくれなかった。そのうちに目の前に料理が置かれる。


バゲットにサラダと細かく刻まれた肉の皿だ。


────『カイザック』……人の名前だよな


クラウディは料理を頬張りながら、何処かで聞いたことがないか記憶を探るも特に心当たりはなかった。


情報組織はそれだけ機密的なものなのだろう。


「おーいクロー!!」


後ろから少女を呼ぶアイラの声が聞こえた。おそらく少女に気付いたのだ。クラウディは無視していたがふと殺気がして首を傾けた。


すると手斧が横を素通りしカウンターに並ぶ酒瓶を叩き割り樽に突き刺さった。


「なあ!すげーだろ!?」


そんな声とともに感嘆の声がそこかしこから上がった。もっとも店主はわなわなと肩を震わせているが。


クラウディは席を降りて人混みに紛れると気配を消し、少女の姿を探すアイラの背後からナイフを首元に突きつけた。


「なんのつもりだ?」


「わっ!びっくりした!!」


首元のナイフが見えないのか少女に気づくとアイラは体重をかけてきた。慌ててナイフを離し、倒れそうな彼女を支えると一層強い酒の匂いが鼻をついた。


────大分飲んでるな


「へえ、アンタがクロー?」


そばにいた女の1人が少女を見下ろした。背が高く鍛えられた身体を見るにいかにも戦士のイメージを受ける。同じ仲間内なのだろうか。


「アイラが自慢してたぜ?大分儲けたんだって?俺にも秘訣教えてくれよ」


今度は正面の椅子に座った男がニヤついて言う。


────口止めしておくべきだったが


それからはいろんな人物がクラウディとアイラの事を聞きに来ては酒を煽り、アイラもグビグビと酒を飲んだ。


やがてアイラもダウンし眠ってしまう。


人混みが苦手な元男の少女は、我慢できなくなって適当に理由をつけてアイラを背負い宿に向かった。


外は夕方になっていたが、相変わらず娯楽街は賑やかでその中を通るに耳を塞ぎたかった。


「かち……勝ちだ、うし……つぎ……」


背後からは時折アイラの寝言が聞こえた。

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