第80話 タネ明かし
「え、イカサマだったのか?」
宿に帰った後、クラウディは『HiGH&LOW』の必勝法をしつこく聞かれた。
「ああ、残念だが……」
「マジかよ……すげーと思ってたのに────ちなみにどんな?」
アイラは落胆はするがすぐに切り替えて耳を近づけた。少女は彼女を押し除け説明した。
あの『HiGH&LOW』ではカードを11枚を使用するが、1枚を最初の札として除き、やり易いよう残り10枚でパーフェクトシャッフルをすると決まった順番で混ざるので、最初の数字の順番を覚えておけば全てのカードを把握する事が出来るのだ。
最初にカードを調べると言って見た時点で1から順に11まで並べておき、11を最初に裏向きにして台へ。
あとは1〜5、6〜10を均等にリフルシャッフルして別の混ぜ方も併用するといかにも混ざった風である。しかし実際のところは全て把握できていると言うことだ。
11を伏せた時に相手は何か思うことがあったかもしれないが、確定で当てれるようにして先行を譲ったので、結局何も言われなかった。突っ込まれたら五分になっていた可能性があったので幸いであった。
元男の少女は、元の世界で多少は賭博をかじっており、少数のカードならパーフェクトシャッフル出来、他にも簡単なものならイカサマが出来た。
ただタネを仕掛ける他に、今回は相手もカードをその場で把握する可能性が高かったので、誰がどう見てもイカサマ出来ない状況を作る事が必要だった。
自分で触らない、見ない、受け取らないに加えて通信手段、例えば手話、アイコンタクトなどさせない事が絶対だったのだ。
故に背を向けて監視もつけた。
こちらは最初のシャッフルですでにタネは植え付けたので何もする必要がない。強いて言うなら相手が早々に降りないよう演技するくらいだった。
アイラにはディーラーをよく見るよう伝え、とにかく何をするにしても黙っているよう指示していた。
「へぁーそういうことか……すげー!すげーなクロー!なぁ!」
アイラは感激を示して少女の背中を力強く何回も叩く。その度にガクンガクンと身体が揺れた。
────痛い……
「なあ!私にも少し金を分けてくれよ!!」
「……まあ5万くらいなら出してやる」
「えー?!さすがに少ねーよ!!もう少し分けてくれよ!せめて10万!」
クラウディはすがりつくAランク冒険者を仮面越しにジロリと見た。情けない顔からはとても高ランク冒険者には見えない。
「何に使うつもりだ?」
「なにって、決まってんだろ?」
彼女は何かを飲む仕草をし盛大に息を吐いた。
────酒か……
まあ賭博よりは良いかと仕方なく少女は金貨を10枚だけ渡した。
「かあー!わかってるね!サンキュー!」
アイラは金貨を握りしめるとさっそく外に飛び出して行った。
クラウディは行動の速さに呆気に取られ、やれやれと首を振った。
別の賭博場ではクラウディの行った特殊な賭けの噂が広がり、1人の退屈そうにしている男の耳に入った。
「────という事です、カイザック様」
「へぇー……面白い奴がいるな。外見はどんな感じだ?」
報告に来た手下に男は聞いた。タバコに火をつける。顔に傷でもある男か、手癖の悪い女狐か……。
「妙な仮面をつけた小さい男だと聞いてます」
「妙な仮面~?」
────そういえばどこかで見たな
男はは少し記憶を辿り、そのシーンを思い出すとニヤリと笑った。嫌に目が良い小柄な男だ。
────ただの良い子ちゃんかと思ったが
「あいつか……」




