第79話 HiGH&LOW
クラウディがそういうとナナイロは頷き、端にあったカードを手に取った。
「ルールは?」
「聞いてる」
話が早いと相手はシャッフルし出した。だがクラウディは手で制した。
「正直俺はそっちのイカサマを疑っている」
「……ほぅ」
「だからカードを調べさせてもらう」
「……好きにして下さい」
やれやれと肩をすくめすんなりカードを少女に渡すナナイロ。彼女はカードを番号順に並べながら調べた。
カードは薄く柔らかい金属板で出来ており、当然精密に作れるわけではないので所々擦れたり傷がある。これでは何回もやっていれば傷やわずかな大きさの違い、感触で覚えるのは容易い。
────やはりな
「俺が切ってもいいか?」
「お好きに」
カードを1枚裏返して置き、リフルシャッフルを2回、一度上下を入れ替え同じシャッフルを2回やった後に山札をテーブルの真ん中に置いた。
裏返したカードをナナイロが捲ろうとした時クラウディは再び手で制した。
「正直このカードは信頼できない」
「……ならどうするのですか?」
そう、わざわざシャッフルして使わないのは変な事だ。
クラウディはナナイロのそば付きの男を指差した。
「お互い1人ずつ監視役を決めてそっちの1人は進行役だ。監視役は相手の目の前に立ちイカサマがないか監視。1人はカードを捲り、カードを宣言する」
「目の前に立つ?なら私たちはどうやってゲームするんです?」
「俺とお前は後ろを向いて『HiGH&LOW』を宣言するだけだ」
それを聞いてルールを理解したのか片眉を上げた。
「そんなルールは認められない」
側近の1人が前に出ていう。
「やることは変わらない。ただ絶対的にお互いに公平だろ。それともイカサマがあったと宣言するのか?」
「ふん、よせ。わかったそれで行こう」
ナナイロは前に出る側近を手で制した。そして後ろを向く。アイラも計画通り彼の正面に立った。ただ彼女にはナナイロよりはディーラー役の方に注視するよう伝えているので、チラチラともう1人のディーラー役の側近を見ていた。
その様子を見届けた後クラウディも後ろを向き、目の前に側近の1人が来る。やや険しい表情である。
「イカサマを疑ったんだ、先行は譲る」
クラウディはそう言って腕組みし足を組んだ。
そんな彼らの異様な光景が珍しいのか、さっきまで他のテーブルにいた野次馬がワラワラと取り囲み出した。
「では……!?」
ディーラーがカードを捲る音が聞こえた。
「11です。ナナイロさま」
「へぇ、ついてるな。もちろん『LOW』だ」
「次は9です」
「ベットはいくらからやる?そちらの額の3倍から始めるぞ」
大きな声でナナイロが叫んだ。最初を当てたのが嬉しいのか声音は落ち着いている。
「100ユーンだ」
倍数次第では、最終的には何百万と膨れ上がる額だ。本来なら10くらいからかけるらしいが、額が額だけに周りの野次馬もざわつく。ナナイロも一瞬黙った。
「俺が勝ったら取られたものも返せ」
「わかったわかった……で、今度はそちらだ」
「『LOW』だ」
少女が答えるとカードを捲る音が聞こえる。
「6です。勝ち数は同数です。進行状態は2です」
「まあ9なら『LOW』が無難だろう。上は10しかないからな。で、ベットは?」
「もちろん3倍だ」
これで900ユーン。ここからさらに上がっていくだろう。
「次は俺だな…………無難に『LOW』、か」
ナナイロが少し間を開けて答える。
「引いた数は1です。進行状態は3です」
「うし……だが、よかったなクロー殿?おっとベットはもちろんMAXの3倍だ」
出たカードが1ならば必然的に『HiGH』を宣言だ。クラウディは宣言し、ベットも3倍を乗せた。これで8100ユーン。
「次の数は3です」
「まあ『HiGH』だな」
「7です当たりです。進行状態が5になりましたのでナナイロさまはクローさんのターンに数字を宣言出来ます」
「当ててやるぞ……そうだな『8』だ」
────来たな
ここから反撃が出来るようになる。クラウディの種が芽吹く時が来た。ナナイロは少しでも相手の当たる確率を下げようとするのか、盤面で確率の低い方を宣言するようだ。
残りの数字は『2 4 5 8 10』。『LOW』の方が確率は高い。
そう、これまで確立の高いほうで両者全て当たっているのだ。そろそろ逆が来てもおかしくはない時期ではある。
「『LOW』だ」
しかしクラウディは迷わずそう答えた。これで当たれば72900ユーンとなる。
ディーラーがカードを捲り口を開く。
「4です。クローさんは当たりです。ナナイロさまの攻撃は外れです。次はクローさんです」
「8だ」
「おいおい、真似するなよ……そうだな、『HiGH』だ」
「!?」
ディーラーがカードを捲るが、それを見てピタリと止まったのがわかる。その様子に周囲もざわついた。
「8、です。ナナイロさまの当たりですがクローさんの攻撃が決まりましたので現時点で勝ち点3-3となります」
「なに……」
「ベット3倍」
驚くナナイロに追い打ちをかけるよう金額を釣り上げるクラウディ。これで218700ユーンとなった。
ざわざわと周囲が騒がしくなり、また人が集まり出した。
「俺のターンだろ『HiGH』だ」
さらに畳み掛けられナナイロは冷や汗をかいた。
「くっ、『5』だ」
ディーラーがカードを捲る音がし、間が開いた。
「……10で……す。ナナイロ様の攻撃は外れてこれで3-4となります」
『10』が出たという事は残るカードは『2』と『5』だけであり、必然的に宣言するのは『LOW』のみ。あとは数字を宣言する側が当てられるかどうか。
「ベット3倍」
これで656100ユーン。
「降りるなら今だぞ。これで俺が当てれば終わりだ。荷物だけ返してくれてもいいんだがな」
この賭博場ではいつでも降りる事ができる。そうする事で被害は最小限に出来るのだ。仮にこれでクラウディが当たれば実質相手の負けだった。勝負が決まった時点で最後のベットが残りのゲーム全てに適応される。つまり5904900ユーンの払い出しとなる。
流石に安くはないだろう。
「ふ、ふふ……バカが1回当たったくらいでいい気になるなよ」
強がってはいたがナナイロの声は震えていた。
「じゃあ数は……『5』だ」
少し考える風に間を置いて少女はそう答えた。
ディーラーはゆっくりカードを捲り息を呑んだ。
「数は…………『5』です」
────終わったな
一拍置き、周囲から歓声が上がった。賭博場のイカサマ師がやられて嬉しいのか、ただ興奮しているのかわからない。中には少女のイカサマを叫ぶ者もいたが数は少なく歓声にかき消された。
クラウディは立ち上がり、ディーラーの方へ歩いて行った。
「で?勝敗は?まさかこれだけの証人がいて無効とは言わないよな?」
ディーラーは言われて辺りを見渡し、主人の方を見た。ナナイロはまだ背を向けており項垂れていた。
「……おい、用意させろ」
やがて彼は静かに側近に言った。そして立ち上がるとアイラの荷物をテーブルへ投げてよこした。
「投げんな!!」
アイラが怒り掴みかかろうとするのをクラウディは背後から肩を掴んでなんとか引き離す。
「やめろ!返ってきたんだからそれでよしだろ!」
「へ、殴ってきたらイチャモンつけてやろうと思ったが……まあ負けは負けだ」
ナナイロは側近が用意した硬貨袋を、ドンとテーブルに置いた。
「持ってけ!」
それを見たアイラはすぐさま金に飛びかかったが、寸前でクラウディが横から取り上げた。
「おい!それは私のだろ!」
「何言ってる?これは勝った俺のだ……いいから出るぞこんなところ」
クラウディは金を懐にしまうと足早に出て行った。アイラは釈然としない様子だったが自分の荷物を取り返すと急いで追いかけた。
後ろからは野次馬が褒め称えていた。
※ナナイロ側目線。そろそろHiGH&LOWを外す確率の方が高いので、ワザと盤面では確率の低いHiGHの8を選んだ?そうする事でクラウディがHiGHを選びにくいようにした?期待値的にそろそろ逆のが出る確率高い。HiGH側の数字は2分の1なので数字を当てられる確率が高い。




