第76話 Aランク冒険者アイラ
「へへ、ここは娯楽街の1番良い所なんだぜ?」
娯楽街まで戻ると一際大きな2階建ての宿に彼女らは入り、1番上の角部屋へとクラウディは案内された。バニーガール衣装は店に返して腕相撲の時に装備していた、露出の多い戦士の服を身につけていた。
アイラは鍵を胸の間から出すと鍵を開け扉を開けた。
────どこから出すんだよ……
中は15畳くらいの広さのワンルームだった。クイーンサイズはあるベッドは窓際に設置され、化粧棚や衣装棚もあり、テーブルと椅子も装飾がされており高級感があった。
「…………」
ただ物が散乱しており、空の酒瓶や食事の跡がそこかしこに見える。
「まあゆっくりしてくれよ。取り敢えず飯にするか?風呂にするか?それとも私にするか?」
最後の方は冗談っぽくにたりと笑った。
────帰りたい……あ、宿ないんだった
早くも眩暈がする光景にクラウディは頭を抑えた。
「取り敢えず片付けてくれ……こんなところ住めない」
「金貸してくれるか?」
「……わかったから」
渋々そう返事すると大喜びで部屋を片付け出した。バタバタと部屋を行き来したり外に出たり入ったりと埃が舞って少女は咳き込んだ。
小一時間もするとなんとか部屋を見れるようになりアイラも汗だくだった。
「え、5万だけ?」
クラウディは金貨を5枚渡した。さすがに一気に10万や20万渡すと後が怖い。
「返ってくる保証もないんだ。ここで幾らか過ごすか、その金がなくなったらまた考える。それで良いか?」
「……まあいいか取り敢えず軍資金ゲットだな。倍にして返すから」
「ここに居させてくれるなら多少は俺も払う気だが……」
「え、じゃあくれるのか?」
「滞在期間による。1ヶ月ならそのままくれてやっても良い。足りないならもう5万ぐらいなら────」
「よし、1ヶ月だ!くれもう5万!」
「…………」
────まあいいか
クラウディは結局宿代として計10万ユーン渡した。アイラはそれを受け取ると両手の金貨に頬擦りした。
「サンキュー!えーと……」
「クローだ」
「クローね。私はアイラ。冒険者をやってるんだ。こう見えてもAランクの『戦士』なんだぜ?」
自己紹介をかねてそう言い、褐色肌の女は筋肉を見せつけるように腕に力を入れた。筋肉が盛り上がり相当鍛えて来たのが見て取れる。
「あの動き、クローも冒険者だろ?Bランクか、私と同じAランクだろ?」
「…………」
「ま、いいか取り敢えず風呂でも入るか?」
クラウディが答えようか迷っていると歯を見せて笑い、風呂のある方向を指差した。
そこには仕切りがあり、内側には大きな白いプレートとその上に4人は入れそうな大きさの桶が置いてあった。
「水はどうするんだ?」
「知らないのか?水はこうやって……」
アイラが桶の淵にある宝石のような石に触れるとそこからお湯が出て来た。
クラウディはその石に見覚えがあった。
「『生命石』か?」
「あー違うな。『固定石』とか『ユニット』とかいうやつなんだが……」
アイラは説明しようと視線が泳ぐがなかなか続きが出ない。
「取り敢えず体内のマナを使ってお湯を出すイメージだ」
────体内のマナ……
クラウディは体内にほとんどマナがなく、その旨を伝えると驚いたが、仕方ねーなとお湯を入れてくれた。
「先に入れよ。飯とってくるから」
「助かる」
アイラは部屋を出ていき、クラウディ1人となった。
少女はささっと入ってしまおうと仕切りをして、服を脱ぎ風呂に浸かった。
かなり久しぶりに暖かい湯に浸かったので気持ち良い。湯は澄んでいてちゃんと綺麗だった。
桶の下にあるプレートが水を吸うみたいでその上であれば出ても水浸しにはならなかった。
『生命石』を取り出して桶の石に触れるとマナを使用して湯の出し入れや、水に切り替えたりもできた。
────なるほどこういう感じか……
「飯とって来たぞー。お?入ってるな」
アイラが帰って来てテーブルに何か置く音が聞こえた。
「石鹸は使っても大丈夫か?」
少女は『生命石』で変声し、仕切り越しに聞いた。もしかしたらプレートが機能しなくなったり不備がある可能性があったのだ。
「大丈夫だが……なに、そんなの持ってんの?後で使わしてくれよー」
クラウディはインベントリから石鹸を取り出して体を綺麗に洗った。フロレンスのあの家で使っていた物だが香りがよく汚れもよく落ちた。
「なあ、私も入って良いかー?」
アイラの声が仕切りのすぐ側から聞こえた。
「?!だめだ!入って来たら金を回収するぞ!」
入って来たらまずいと思って、慌てて湯船に浸かり布で体を隠した。女性だとバレないよう今度こそ徹底させなければならない。
「えー?いいだろお姉さんの裸見れるんだぞー?」
「だめだ!!」
強く言うとアイラは舌打ちし、大人しく離れた。クラウディは安堵すると急いで桶から出て体を拭き、入念にサラシを巻いて着替えると仕切りから出た。
アイラはテーブルに頬杖をついていた。
「石鹸は置いてるから使っても良い」
「うーい……じゃあ飯食おうぜ」
アイラは少し不機嫌様であったが、気を取り直したのか食事を掻き込むように食べ出した。
「なぁ、いつまで仮面つけてんだ?」
クラウディが椅子に座り、仮面の隙間から食事しようとしたらアイラが手を止めた。
「俺の顔は醜くて見れたものじゃないからな」
それっぽい言い訳を考えていたのでこれで通るだろうと自然な感じで言う。
「傷とかか?気にしないけどなぁ私は」
案の定それ以上は何も言わず。
少女は改めて食事に手をつける。食事はパンに何かの肉やスープ、チーズに揚げ物などのカロリー重視だった。
肉は鶏肉っぽくほどけるような肉質で、スパイシーさがアクセントとしてとても美味だった。スープはミルクで煮込んだシチューのようなトロミと色合いでありクリーミー。チーズは少し臭かったが肉に絡めるとより美味しく結構な量を食べた。しかし総量が多くとても全部は食べられない。
「もう食えないなら貰うぞ」
アイラはそういうとペロリと平らげた。腹をさすって満足そうにゲップをし酒を取り出して幾らか煽った。
「飲むか?」
────なるほどこうやって散らかっていくんだな
ヘラヘラと酒を飲むAランク冒険者を見てクラウディはため息をつき、丁寧に断った。アイラはテーブルに次々に酒瓶を開けていく。
「────でさぁ、あいつら絶対イカサマしてんのよぉ。信じられるか?私が一回も勝てないなんてありえーねーよ!」
少女は正直眠たかったがアイラより先に寝るのは嫌で椅子に座っていたが、彼女の愚痴を聞かされる。
ようやく酒に負けてアイラが机に突っ伏していびきをかきはじめたのは2時間後だった。
やれやれと彼女を抱えてベッドに移すと、ある程度部屋を片付けた後、少女は椅子に座りそのまま目を閉じた。




